第99話 役者はそろった!
『グルオオオッ!』
光線のシャワーを浴びつづけていた黒竜は、たまらず怒りのおたけびをあげました。
そのあまりの剣幕と、すさまじい威圧感に、エレクトラはビクッとかたまり、光線を放つのを止めてしまいます。
「くっ……俺様のステージは、コール禁止だってのに……!」
ランスは、ぐらつくエレクトラの背の上で、必死にふんばりながら苦言をていしました。
ですが、内心ではわかっていました。この程度で黒竜が倒せるはずがない、と。だからこうして、相手の反撃への備えもできているのです。
ゴオオオ……
すると、黒竜の口の中に、青みを帯びた漆黒の炎が集まっていきます。
「あれは……ヤバイな……」
ランスは、引きつった笑みを浮かべました。
黒竜の息吹……まわりの時空すらゆがませるとうたわれる、最大の大技です。
「……!」
エイルは、呪いにむしばまれた体で、よろめきながらも黒竜へ向かっていきました。
黒竜の視線を見ればわかります。その狙いはランス……ではなく、そのうしろにある王都だということが。いまここでブレスを止めなければ、大惨事になってしまいます。そして、それができるのは自分だけだと、エイルにはわかっているのです。
しかし……弱った体は、高速で飛んできたエレクトラのくちばしにさらわれ、そのまま上空へ舞いあがってしまいました!
「ジャマすんな! 私が止めないと、王都が、エミルが!」
エイルは、くちばしにマントをついばまれたまま、じたばたと暴れて抗議します。
「気持ちはわかる! だが、いまの君にはムリだ! 王都のことなら、心配ない!」
ランスは、めずらしく真剣な顔でエイルをなだめました。
「それより、すぐこの場から離れなきゃ、俺様たちのほうがあぶない!」
ふだんのキザな彼からは考えられない、必死のひとこと。それを聞いて、エイルはぴたりとおとなしくなりました。
エレクトラは、ぐんぐん速さを上げ、黒竜との戦場から大きく離れていきます。
やがて――黒竜がブレスをためきり、王都に向かって放ちました!
ズゴオオオオ……
轟音とともに、漆黒の業火が一直線にのびていきます。炎のまわりの空気は、まるでかげろうのようにぐにゃりとゆがみ、地上の森の木々は、燃えるどころか、あとかたもなく消えていきました。
遠くからその光景を見ていたランスとエイル。そして、少しはなれた地上で撮影機材をかかえていたツーカイも、目を見ひらいて、言葉をなくしました。
もし、あのまま射線上にとどまっていたら。ムリにブレスを斬ろうとしていたら……あの木々のように、自分たちも消えてしまっていたでしょう。
そして業火は、夜の闇にうかぶ白い防壁にかこまれた王都へ、せまります!
ズガアァァーーーン……
ところが……炎が王都にとどくことはありませんでした。
防壁から立ちのぼった、王都全体をおおう青い光のドームが、ブレスを防いだのです。
「ヒュー! さすがは"エイジス"、エクセレントかつビューティフルな輝きだ!」
ランスは口笛を吹いて、感心しました。
「えいじす?」
聞きおぼえのない……いえ、たいていのことはおぼえていないのですが……そんな名前に、くちばしにくわえられたままのエイルは、こてんと首をかしげます。
『"エイジス"は、王都の最終防衛システムの名前ですよ。防壁の内部にしこまれた魔法術式で発動し、外部のあらゆる攻撃や災害から、町を守ってくれるのです』
右手ににぎられた黄金の剣――エクシリアが解説しました。心なしか、声が興奮して上ずっているようです。
「ふーん、つまり、無敵のバリアってことね」
『身もフタもない言い方ですが、そういうことです』
エイルは納得し、エクシリアは、剣の中でふうっとためいきをつきました。
「たしかに防御力は無敵だが、そう何度も使えるもんじゃない。発動には莫大なマナが必要だし、国の中核たるアステールのマナも使われる。アテにしすぎるわけにもいかないのさ」
ランスが補足します。
「さーて、二発目を撃たれる前に反撃といきたいが……正直、役者が足りないな」
ブレスを吐き終えた黒竜を見すえて、ランスは苦笑いを浮かべました。
エレクトラの連射光線も、学習されおそらくもう通じないでしょう。かんじんの"巨獣狩りの剣星"エイルは、呪いを受けて万全ではありません。黒竜を倒すには、マスターウィザード級の実力者が、あと三、四人は欲しい……ランスは、そう考えていました。
『グルアアアッ!』
そうこうしているうちに、黒竜が王都へ向かって飛びはじめました。ジャマ者のエイルたちが戦場から消えたことで、本来の目的、わが子の奪還に走ったようです。
「……っと! 四の五の考えるより先に、まずはあいつの足止めを……!」
ランスが、エレクトラを黒竜に向かって飛ばそうとした、そのときでした。
ザザーッ! ガオオーッ!
巨大な砂のこぶしと、オオカミの顔の形をしたオーラが、黒竜の進路に現れ、その身に撃ちこまれたのです!
『グオオッ!?』
ダメージは軽いものの、黒竜は思わずひるんで、ブレーキをかけました。
「秩序を乱す者は、何物であろうと許さん」
「ようこそおいでなすった、黒竜! せいぜい、楽しませてくれよ!」
"難攻不落の地星"ウォルター・ザントブルグと、"獣王武神の闘星"ガロウ・ヴォルフガング……二人のマスターウィザードが、参戦したのです。
「ウォルター! ガロウ! 俺様ほどじゃないが、ナイスタイミングだ!」
ランスは歓喜の声をあげ、パチンと指を鳴らしました。
そして――戦場に現れたのは、彼らだけではありませんでした。
「いやっほー! みんなおひさー! 元気してたー?」
ホウキにまたがったピンクの魔女、"人畜無害の獣星"ペコラ・リテラチアも、到着です。そのうしろには……
「エミル!」
エイルは、ぱあっとおひさまのような満面の笑顔を咲かせました。
エミルもすぐにエイルに気づき、ぱっと目を見ひらいて、ほっとしたように笑みをうかべました。その左腕には、小さな黒竜の子が、ぎゅっと抱かれています。
ほかに、ペコラのホウキの上には、ラナとシオリ、それからメイドのクリスティーヌが、ぎゅうぎゅう詰めで乗っています。ホウキの猛スピードに耐えかねて、みんなそろってぐったりした顔です。
「反逆者ども……ノコノコとやってくるとは……」
「ああ!? テメー、ペコラ! どのツラ下げて来やがったァ!?」
ウォルターとガロウは、ペコラたちを見るなり、おかんむりの様子です。
ウォルターがエミルたちにいきどおる理由はわかりますが、ペコラとガロウのあいだにも、どうやら並々ならぬ因縁があるようでした。
エミルもまた、ホウキの上から、キッとウォルターをにらみつけています。シオリを一方的に疑ったことと、シルヴィアを侮辱したことを、まだ根にもっているのでしょうか。
そこへ、エレクトラをウォルターたちの目の前まで飛ばして、背の上のランスが割りこみます。
「二人とも、そこまでだ! いまはいがみ合っている場合じゃないってことぐらい、わかるだろ? そういうのは、終わってからにしてくれ。そのときは、俺様もいっさい君たちを止めたりしないと、約束しよう」
その提案に、二人はいぶかしげな顔になりますが……
「……いいだろう。この件が片づいたのち、あの三人は私の手で捕らえさせてもらう」
「俺も構わねえ。逃げんじゃねえぞ、ペコラ!」
すぐに承諾しました。さすがはマスターウィザード。私怨にかられて、本分を見失ったりはしないのです。
「おーおー、おっかないなあ!」
ウォルターとガロウに、するどい眼光を向けられても、ペコラはけろっとしたものでした。彼女もまた、マスターウィザードに選ばれるだけあって、たいした肝っ玉の持ち主です。
「……ま、あのコほどじゃあないけどね!」
そして、砂とオーラを浴びて面食らっている黒竜にちらりと目をやり、ぱちりとウインクしました。
同じホウキの上のラナとシオリは、黒竜の存在と、マスターウィザードたちの重たい空気、そして、このあとの自分たちの処遇を思いうかべて、すっかりちぢこまっています。クリスティーヌはというと、キリッと覚悟を決めた目つきです。
「さあ……これで役者はそろった。ショーの再演といこうぜ、ブラックドラゴン!」
ランスがキザっぽくしめて、激闘が再開されます――!
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