第100話 みんなでなかよく、チカラを合わせよう!
『グオオオオッ!』
マスターウィザード五人がそろったところで、黒竜がまたおたけびをあげました。
取りのぞかなければいけないジャマが増えたことで、よけいにいらだっているのかもしれません。
「向こうさん、やる気みてえだぜ。いっちょ、ブッ倒してやるとするか!」
ガロウは、にぎったこぶしを手のひらにバチン! とたたきつけて、はりきりました。
……が。
「ちょーっと待ってよガロウくん。ブッ倒すのはナシ!」
そこにペコラが、両手を高くかかげてバツ印を作ります。
「んだとペコラ!? また討伐のジャマしようってか!? オマエの言うとおりにしたせいで、"あのとき"どうなったのか、忘れたとは言わせねえ!」
ガロウはくわっとすごい剣幕で、どなり散らしました。
「おいおいお前たち、いがみ合うんじゃないって……」
ランスが仲裁に入ろうとした瞬間、一同は強烈な殺気を感じます。
黒竜が翼を大きくはばたかせ、呪いの風を巻き起こしてきたのです。
「……《砂城壁》!」
ウォルターが杖を振ると、ザザザッと地面から高くて広い砂の城壁がせり上がり、呪いの風を受け止めました。
「"難攻不落の地星"……その二つ名は、あらゆる魔法が通じない、強固な防御力に由来する……!」
ペコラのホウキの上で、シオリが息をのみながらつぶやきました。
ラナもびっくり仰天しています。
「"キャスト"であんな大きなカベを出すなんて、やっぱりマスターウィザードは、ただ者じゃないわね……」
同時に、あれだけのことができるウォルターを敵に回してしまったことを、ちょっぴり後悔してしまうのでした。
黒竜もまた、突然現れた砂のカベにとまどっているのか、動きを止めていました。
これさいわいとばかりに、ペコラはあらためて話を切り出しました。
「……いまのうちに説明するよ。黒竜を倒すのはダメだよ」
「根拠を聞かせてくれ!」
ランスは乗ってくれるつもりのようです。ガロウもぐぎぎと歯をかみしめて不満そうですが、話だけは聞いてくれそうな感じでした。
「会議には参加しなかったけど、内容は聞いてる。あの黒竜が、ノワール・モンブランがけしかけてきたものかもしれないってこともね。だとしたら、倒しちゃうとヤツらの思うツボにはまっちゃうよ」
「どういうことだ!?」
ガロウがたずねました。
「この国のウィザードたちは優秀だ。ボクもふくめてね。むかしならいざ知らず、いまならしっかり準備をして、チカラを合わせれば、成体の黒竜だってやっつけられるくらいに強くなった。そのことをボクらマスターウィザードはちゃんと把握してるし、王都にスパイをもぐりこませてる連中だって、知らないわけがない」
「……たしかに」
ランスは、納得したようでした。
エイルと自分の二人だけでは大苦戦でしたが、これだけ頭数がそろえば勝てる。彼もそう計算していたのです。
「つまり……予告なしの不意打ちならまだしも、黒竜に王都を襲わせようとしているという狙いにこっちが気づいた時点で、黒竜はすでに王都の脅威じゃなくなってた。これは黒竜の子を保護してくれた、エミルちゃんの大きなおてがらだって、ロウランもほめてたね」
ペコラにしがみついているエミルは、照れくさそうにはにかみました。
すると、ガロウは怒りが爆発したように吠えたてます。
「ホンット、テメエらどいつもこいつも説明がまどろっこしいんだよ! 要点だけ言え、要点!」
「ったくう、説明をもとめたのはそっちじゃないか……まあボクはオトナだから、気にしないけど。……黒竜がボクたちの脅威じゃなくなったにもかかわらず、こうしてけしかけてきたってことはだ、黒幕の目的は十中八九、ボクらを利用して黒竜を倒させること。だから、やっつけるのはNO! ドゥーユーアンダースタン?」
ガロウはペコラの態度にわなわなと腹を立てるのですが……
「……まちがい、ねえんだな?」
「十中八九だからね。一割はまちがってるかも。でもこれだけは信じてほしい。ボクは"あのとき"みたく、ワンダーかわいさだけで提案してるわけじゃない。すべては愛する母国、アストライト王国のために、だよ」
真剣なまなざしで宣言するペコラに、ガロウはほんの少しのあいだ、口を閉ざすと……
「……いいだろ。そういうことなら、今回だけはテメエに乗ってやる! だが勘違いすんなよ。これ以上ふざけた連中の思うとおりになるのが、イヤなだけだからな!」
ペコラに指をつきつけて、彼女の提案を承諾するのでした。
「うん、わかってるとも。ボクもおんなじ気持ちだ!」
ペコラもにっと笑ってこたえます。
「ウォルター、お前もそれでいいな?」
ランスが意思確認をすると……
「……私は承認できない。敵の思惑がどうだろうと、黒竜を生かしておくなど、百害あって一利なし。非合理的だ。討伐するべきだろう」
ウォルターは杖を黒竜につきつけたまま、メガネをくいと持ち上げました。
「非合理的、ねえ……はたして、それはどっちなのかなあ?」
ペコラは不敵に笑って、挑発的に言いました。
「……なにが言いたい?」
ウォルターはギロリとペコラをにらみます。
「キミらしくもないって話だよ。合理的うんぬんの前に、あまりに短絡的すぎる。いつものキミなら、しかめっ面しながらも、ちゃんと考えて発言するのに。ちょっと考えれば、黒竜と正面からやり合うより、説得してバイバイしてもらうほうが、はるかに得が大きいってわかるのに。まるで……個人的な私情で動いているみたいだ」
ペコラの理屈を聞き、ウォルターは眉間にしわを寄せました。まるで図星を突かれて、いらだっているかのように。
「今回はボクに乗っかってもらうよ。賛成が過半数をこえてるし、これもキミの大好きな合理的ってヤツでしょ?」
ペコラはきっぱりと言い切ると、ホウキをランスのもとまで飛ばしました。
目的はもちろん、エレクトラにくわえられている、エイルの呪いを解くためです。
「相乗り、いいかな?」
「もちろんだとも」
ランスの承諾を得ると、ペコラはエミルたちにホウキからエレクトラの背へうつるよううながします。エレクトラは【ニュードウルフ】のシロよりふたまわりほど大きく、四人が追加で乗れるだけのスペースは、じゅうぶんにありました。
そしてエレクトラは、口にくわえたエイルをぽーんと放り、自分の背にすとんとうつしてあげました。なんとも器用なことです。
「お姉ちゃん!」
エレクトラの背に移ったエミルは、すぐさまエイルに駆け寄りました。
大好きなお姉ちゃんがボロボロになった姿にショックを受けますが、同時に呪いに体をむしばまれているということを、経験で理解しました。
早く、なんとかしてあげなくちゃ。それができるのは、わたしだけなんだ。
エミルはキッと表情を引き締めて、右手をエイルにかざそうとすると……
(……待って! エミルちゃん! ここは、私にまかせなさい!)
左手の指輪から、アノニマスの声が響いてきました。
(シルヴィアとの浄化のチカラで、呪いを解こうとしてるのね? でも、黒竜の呪いは強い。あの子の出番をうばっちゃってもうしわけないけれど、ずっと長生きで、ホワイトエルフである私のほうが適任よ)
エミルはハッとしました。
(……わかった、おねがい!)
そして即決即断。右手を引っこめて、かわりに左手で、エイルの体にふれます。
目を閉じ、祈りをこめると、ふたりの体がうすいピンク色の光につつまれていき……
「……《エルダー・ディスペル》!」
魔法を唱えた瞬間、ピンクの光がふわあっとふくらんで、パン! と弾けました。
すると……
「おー! 体がちょー軽い!」
エイルはぴょーんと起き上がって、復活しました。みごとに、呪いは解けたのです。
「お姉ちゃん! よかった……」
エミルと、うしろで見守っていたクリスティーヌは、安堵のためいきをもらしました。
「すっご! これが"雨あがりの聖女"のチカラかぁー!」
ペコラも、緑色の瞳をキラキラさせて感心します。
ドゴーーーン!
そのとき、轟音とともに、ウォルターの砂の城壁が崩れ落ちました。
黒竜が攻撃を再開し、それに耐えきれなくなったのです。
「おっと! のんびりしてる場合じゃなさそうだ! いそいで作戦を説明するぞ! みんな、ボクの話を聞けーっ!」
ペコラの号令にしたがい、この場にいるエミル、エイル、ラナ、シオリ、クリスティーヌ、そしてランスは、そろって彼女の話に耳をかたむけるのでした。
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