第101話 黒竜お帰り大作戦
「ボクたちの勝利条件は、黒竜においとましてもらうことだ。そのためには、その子が無事なことをアピールし、ボクらは悪くないぞーってわかってもらわなきゃいけない」
ペコラは、エミルに抱かれたままの黒竜の子を指さして説明しました。
「それって……メチャクチャむずかしくないですか? あの黒竜が、話を聞いてくれるとは思えないし、近づいただけで灰にされちゃうんでしょ?」
ラナは顔を青ざめさせ、不安そうにたずねました。
ペコラは、腕を組んで、うーんとうなりながらこたえます。
「そうだねえ……見たところあの黒竜、やけにイラだってるように思える。子どもを取りもどすのをジャマされたってだけじゃない。やっぱり、黒幕になんらかの方法で、おしりをたたかれたせいかなー」
「とにかく……まずはあの怒りをしずめなければ、どうにもならないってことですね……」
シオリがおずおずと言いました。
「うむ。怒りを発散させたり、なんでもいいから戦意をそいだりするのが有効だ。くしくもそれは、ボクの得意分野でもある。だからこそ、こうして同行することにしたのさっ!」
ペコラは、キュピーン! とポーズを決めて、パチリとウインクしました。
「戦意をそぐなら、シュガーの出番でもあるね!」
『は……はいっ! が、がんばりますっ!』
エミルが左肩に語りかけると、シュガーは緊張しながらも、ぴんと羽をのばして、はりきりました。
「お言葉ですが……シュガー様にそれほどのおチカラがあるのでしょうか?」
純粋な心配で、クリスティーヌが首をかしげると、エミルの指輪から、シルヴィアが銀髪をきらめかせて飛び出してきました。大勢を乗せたエレクトラが、そろそろ重さの限界なのか、わずかに顔をしかめます。
『シュガーちゃんは甘いお砂糖の妖精ですけど、甘く見られてはこまります! 彼女の甘味のチカラは、神獣と呼ばれるワンダーすら、とりこにしたのですから!』
そして鼻息も荒く、すらりとした長身を乗り出し、褐色の整った顔をずいっとクリスティーヌに近づけました。
「そ、それは……たいへんすばらしいですね……」
クリスティーヌは、たじたじになりながら、引きつった笑顔を浮かべます。シュガーはほめてもらえて、うれしいやら恥ずかしいやらで、あわあわとシルヴィアをなだめました。
「なら、俺様たちの役目は、つゆ払いってわけか。あまりエクセレントじゃないが、たまには裏方にまわるのも悪くない」
ランスも、ペコラの作戦に納得してくれたみたいです。
「よくわかんないけど、私たちがあいつの攻撃をしのぎまくって、エミルたちがあいつの怒りをしずめるってことで、いいんだね」
エイルはごしっと顔の汚れをふき取ると、黒竜を見すえながら言いました。
「そのとーり! フツーにやっつけるより難易度は爆上がりだけど、リスクに見合うリターンは得られる。やる価値は大アリだよ!」
ペコラは晴れやかな笑顔で言いました。さっきまで、立ったまま鼻ちょうちんをふくらませていた人と同一人物とは、とても思えません。
「それじゃ、作戦開始だ! エミルちゃんとエイル、メイドさんはボクのホウキに! ランス! あとの指揮はたのんだよっと!」
シルヴィアを指輪にもどしたエミルと、エイル、クリスティーヌは、ペコラのホウキにまたがりました。ホウキは、びゅーんと夜空へ飛びたっていきます。
「さて、あらためてようこそ、逃亡者諸君! わがパートナー、エレクトラの背の上へ! めったに味わえない経験だ。せっかくだから、大いに楽しんでくれたまえ!」
ランスは大げさに両手をひろげ、ふたり残されたラナとシオリは、不安たらたらの顔を見合わせるのでした……
☆ ☆ ☆
エミルたちを乗せたペコラのホウキは、月明かりの夜空を、黒竜には一直線に向かわず、遠巻きにくるくると旋回しながら、様子をうかがうように飛んでいました。
ペコラは神妙な顔つきで言いました。
「聞いて、エミルちゃん。さっきも言ったけど、いまの黒竜はこっちの話に聞く耳を持ってない。その状態で子どもの無事をアピールしても、やられちゃうだけだ。だから、黒竜の怒りがある程度おさまるまで、その子をおくるみから出しちゃダメだゾ」
エミルの腕に抱かれている黒竜の子は、いまはペコラの魔法で眠らされており、ピンク色のもこもこしたおくるみにつつまれています。このおくるみには、安眠の効果のほか、隠ぺい魔法の効果もあるみたいです。
「……はい」
エミルは黒竜の子を抱く腕に力をこめ、表情を引きしめました。
「ささやきの魔法で、ウォルターたちにも作戦は伝えてあるよん。だいじょうぶ、いざとなったらちゃんと足並みをそろえてくれるって。そうでなきゃ、マスターウィザードなんて言えないもんね」
エミルの心配は、ペコラにはお見通しでした。ガロウはともかく、シオリや自分たちを捕らえようとしたウォルターのことは、どうしても100%信用できなかったのですから。
すると、黒竜が大きく口を開きました。またブレスを吐くつもりのようです。
「来るよ!」
エイルがキリッとした目つきで、声をあげました。
ペコラも黒竜を見すえたまま、うなずきます。
「あれは撃たせていい。怒りを大きく発散させられるからね。問題は、二発つづけては、さすがに"エイジス"がもたないかもってことだ。さっきより、多めにマナをチャージしてるっぽいし……」
さすがのペコラの顔にも、あせりの色がにじんでいます。
「でしたら、威力を弱めてみてはいかがでしょう?」
最後尾のクリスティーヌが提案しました。
「そのつもり! 出番だぞ、"巨獣狩りの剣星"!」
「まかせろ!」
ペコラの呼びかけにこたえ、エイルはマントをひるがえして、ホウキから飛び出しました。
そして、背中に銀色にきらめく氷の翼をひろげ、黒竜のブレスの進路へ向かって、ぐんぐん滑空します。
「あんなことまでできるようになったんだ、ファンタスティック!」
ペコラは空を駆けるエイルの姿に、目をきらきらさせて感激しました。
そういえば、エミルも、クリスティーヌも、エイルの氷の翼を見るのははじめてでした。
(やっぱり、すごいなあ、お姉ちゃんは……)
エミルは、ますますエイルへの尊敬を深めます。
そこへ、黒竜の漆黒のブレスが放たれました!
業火は一発目以上の規模と威力で、大地も空気も焼き払いながら、ごうごうとせまってきます。
エイルは、黄金の剣と白銀の剣を振りあげ、ブレスを斬り裂かんと身がまえました!
「……!」
二振りの剣がバツの字の軌跡を描き、業火を受けとめます!
ズゴオオオオッ!
"魔法を斬るチカラ"を持ってしても、斬り裂けない圧倒的な威力……それでも、いきおいを弱めるという目的には、じゅうぶんな成果でした。
(ご主人さま! もう限界です……!)
剣に宿るエクシリアの悲鳴に、エイルはさっと剣を引き、ひゅんっと急降下。間一髪、ブレスの射線から逃れました。
「すごい、お姉ちゃん!」
エミルは思わず歓声をあげました。
さすがに完全に斬り払うのはムリだったものの、業火のいきおいはかなり弱まったように見えます。
「やるじゃねえか! 俺も負けてらんねえなあ!」
つづいて立ちはだかったのは、エイルの活躍に感心して、うれしそうに笑うガロウです。ナックルダスターをはめた両手をケモノのツメのように開き、どっしりとしたかまえを取りました。
威力がいくらか弱まったブレスが、王都をめざして、ずんずんとせまってきます。ガロウは地上から全身のオーラを解きはなち、頭上を通りすぎようとする業火へ向けて、ぐんっと両手を突き出しました!
「《餓狼断空牙》!」
ガルオオオオッ!
ガロウの両手から、遠ぼえのようなうなり声とともに、巨大なオオカミ型のオーラが飛び出しました!
ガシャアアアアアン!!!
オオカミのオーラは、ななめ下からブレスと衝突。すさまじいマナの火花を散らしますが……
「……チッ!」
それでも打ち消すことはかなわず、業火はまっすぐ王都の方角へ飛んでいきます。けれど、威力はさらに大きく弱まっていました。
「よーし、フィニッシュは、この俺様が……」
「その必要はない」
ランスの声をさえぎって、ウォルターが杖を振りました。
ブレスの進路をふさぐように《砂城壁》がせり上がり、業火をがっしりと受けとめます。壁は砂煙とともにくだけ散ったものの、今度こそ、ブレスは完全に打ち消されたのでした。
「こいつ……いちばんおいしいところ、持っていきやがって……」
ランスはわなわなと顔をひきつらせましたが、どこかちょっぴりうれしそうにも見えました。
『グルル……!』
二度も王都への攻撃が防がれ、黒竜は怒りでぎらぎらした顔つきです。けれど、全身からあふれ出す荒々しいオーラは、さっきよりおだやかになったように見えました。
「……いまだね。エミルちゃん、覚悟を決めろ!」
好機と見たペコラは、進路を変えて、一直線にホウキを飛ばしました。めざすは、黒竜のおひざもとです。
エミルは、黒竜の子がくるまれたおくるみをぎゅっと抱きしめ、言われたとおり、覚悟を決めるのでした。
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