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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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第92話 アラート

『でも、クリちゃんのおねえちゃんって、ワルモノなんだよね!?』


『そ、そうです。たしか、指名手配もされてるって……』


 シロンとシュガーは、信じられないとばかりに、口をそろえて反論しました。


 エミルも、その事実は、秘密警察のミスリオが教えてくれた情報でたしかめています。


「あー、これ……言っちゃっても?」


 ロックは、クリスティーナにたずねました。


「どうせ、ぜんぶ言う気でバラしたんでしょ? どーぞご自由に!」


 クリスティーナは、やけくそぎみに答えました。妹のクリスティーヌが、まあまあと、そんな姉をなだめます。


 ロックは、にこやかにうなずきました。


「彼女の指名手配はカモフラージュだよ。そうしておけば、まさかマスターウィザードとつながりがあるなんて、だれも思わないだろう?」


 エミルたちは「たしかに」と、納得してしまいました。実際、ついさっきまで、そう思いこんでいたのですから。効果のほどは、実証ずみです。


 ですが……エミルはどうも、それだけじゃないような気がしてなりませんでした。それだけなら、そもそも指名手配なんてする必要がないような……


『……え? じゃあクリちゃんのおねえちゃんは、もうワルモノじゃないってこと?』


 シロンは、シュガーといっしょにぽかんとしていました。


「……ええ、そうよ。ドロボー稼業からは、5年前に組織を抜けた時点で足を洗ったわ。それで司法取引のときに、ついでにこいつから、ギルドへの加入を持ちかけられたの」


「そうだったん、ですね……」


 クリスティーヌは、目をぱちくりさせていました。どうやらお姉さんのことは、妹の彼女にすら知らされていなかったみたいです。


「……だまっててごめん、マロン。"星影舞台"のことは、家族にもナイショにしなきゃいけない決まりだったの」


 クリスティーナは、やさしいほほえみで妹にあやまりました。やっぱり、妹思いのいいお姉さんなんだなあと、エミルは思いました。


 それと同時に、思い出しました。ダルベールもまた、"星影舞台"のメンバーであることを、自分の姉エイルにまで隠していたという事実を。


 ……ん?


『ねえ、マロンってだれ? クリちゃんは、クリちゃんだよね?』


 エミルより先に、シロンがツッコミました。


「あ……あだ名よあだ名。ほらこの子、栗料理が好きだし。いっしょに暮らしてる、あなたたちだって知ってるでしょ?」


 クリスティーナは、あからさまにあたふたしながら説明しました。シロンとシルヴィアは納得したようですが、エミルとシュガーは、どうもあやしいと感じました。……けれど、いまはそれを問いつめているときではありません。


「さて……そこのエルフさんのおっしゃるとおり、早急に本題に入るよ。ついさっき、黒竜教団の幹部・ザングの意識が戻ったという報告が入った。君のメモリーハックで、彼の記憶の中をのぞいてもらいたい」


 クリスティーヌは、はっと顔をあげました。


 エミルたちにも、聞きおぼえがあります。ザング……きのうエイルとクリスティーヌとミリアムが戦ったという、黒竜教団の残党をたばねていたリーダー格の男の名前です。


「いちおう、理由を聞いても? そんなめんどうなことしなくても、拷問なり、自白剤でも飲ませるなりすればいいじゃない」


 クリスティーナは、とても12歳の子どもに聞かせる話ではないことを、さらりと言ってのけました。


「意識は戻ったんだが、会話ができなくてねえ。どうも全身がマヒしているようで、まともに体を動かせないそうだ」


 エミルは、その理由に思い当たることがありました。


 ザングはトランスで黒竜と一体化してしまい、それをエイルの手でムリヤリ引きはがされたと聞きます。おそらくは、その後遺症なのでしょう。やっぱり、深くトランスしてしまった人は、分離できても、もとどおりの体には戻れないのでしょうか……


「わかったわ。そういうことなら」


 クリスティーナは、腕を組んで承諾しました。


「それと、逃亡者諸君。君たちもついてきたまえ」


 エミルとシオリとラナの三人は、そろってびくっとしました。


 その反応に、ロックはくくっと笑いました。


「警戒しなくてもいい。なにも君たちを警察やウォルターに引き渡そうってわけじゃない。ただ、逃げ隠れするなら、プロ中のプロである僕のそばにいるのがいちばんって話さ」


 そうは言っても、エミルたちはどうも信用しきれませんでした。


 冒険物語をよく読む三人の頭には、"糸目の男性は信用するな"という教えが、しっかりすりこまれているのです……という冗談はともかく、話がいくらなんでもうますぎるからでした。


「うーん、しぶってるなら、いっそのこと通報しちゃおうかなあ。ま、僕はどっちでもいいんだけどねえ!」


「い、行きます、行きます!」


 ロックがからかうように言うと、エミルたちはあわててうなずきました。


 ああそうか、これがこの人の手口なんだと、三人そろって思い知りました。


「それに……妹くん。君には個人的に、聞いておきたいことがあるからねえ」


「え?」


 エミルは、どきりとしました。


 個人的とか、そういう言葉にへんな意味で反応したわけではありません。ただ、なにを聞かれるんだろうというのが、ちょっとこわいのです。


「で、名無しさん。君はどうするのかな?」


 ロックは、いまだにうたがいの目を向けているアノニマスにたずねました。


『当然行くわよ。私も、エミルちゃんのパートナーですからね』


 その言葉に、エミルはひきつり笑いを浮かべました。そういえば、保留にしたままでしたっけ。


 こうして、みごと意見がまとまった逃亡者+クリス姉妹の一行は、ロックについていくことになりました。



 ☆ ☆ ☆



 時刻は21時前。空には、お月さまがぽっかりと光っていました。


「さあて、出ておいで!」


 隠れ家の外に出るなり、ロックはパチンと指を打ち鳴らしました。


 ズズッ……


 すると、街あかりに照らされた彼の影から、ロックとうりふたつの人物がせりあがってきたではないですか。


「うげっ!? なにこれ!?」


 ラナは思わず、一歩あとずさりました。


「これは……もしかして、【ドッペルゲンガー】!?」


 シオリは、興奮で目をきらきらさせました。


「ご名答。さすがは大樹の図書館の子だねえ」


 二人のロックは、にんまりとほほえみました。


 エミルも、本で読んだことがあります。【ドッペルゲンガー】は、影の魔物と呼ばれるワンダー。相手とそっくりそのままの姿に変身する力を持つといわれています。


「さあ、特別に見せてあげよう、究極の隠ぺい魔法を……」


 と、二人のロックが大げさなポーズを取ろうとした瞬間――


 ピリピリピリ……


 電子音が鳴りひびきました。


「……おっと失礼。通信機が、僕を呼んでいるみたいだねえ」


 ロックはそう言って、ベストの胸ポケットから小さな通信機を取り出しました。


「僕だ。……そうか、わかった。思ったより、早かったねえ」


 通信を終えると、ロックは通信機をポケットの中に戻しました。


 その顔からは余裕の色が消え、糸目のままでも、真剣さがひしひしと伝わってきます。


「……予定変更だ。君たちは、ペコラのもとへ行きたまえ」


「ペコラ??」


 聞きおぼえのない名前に、エミルと両肩のパートナーたちは、首をこてんとかしげました。


「現在、序列十位のマスターウィザードの方です。二つ名は、"人畜無害の獣星"……」


 シオリが教えてくれました。


「あたしも知ってる。その人が先に"獣星"をもらっちゃったから、うちの団長は"闘星"になったらしいわよ」


「闘星って、ガロウさんの……? ベーオウルブスの団長さんが、ガロウさんだったなんて……」


 ラナがさらりと明かした新事実に、エミルは苦笑いを浮かべました。


『でも、どうしてシロンたちが、そのひとにあわなきゃいけないの?』


 シロンは、ぷうっとほっぺをふくらませました。


 ロックは、眉間にしわをよせたまま、低い声で言いました。


「もうすぐわかることだから、話そう。成体の黒竜が、王都にせまってきているそうだ」


「な……なんですって!?」


 一同は、そろって息をのみました。


「それって……この前保護した、黒竜の親ってこと!?」


 ラナが、とまどった声をあげました。


「おそらくは、そうだ。君たちはペコラのところへ行って、彼女の判断をあおいでほしい」


 そのとき、エミルはロウランとの密会でのやりとりを思い出し、はっと気づきました。


「もしかして……ロウランさんが黒竜の子をあずけた相手って……」


「そういうことだ。メガネの君、彼女の居場所まで案内できるね?」


「え? あ、はい!」


 シオリは、おっかなびっくり返事をしました。


「王都はおそらくこれから、黒竜襲来のニュースでパニックになるだろう。指名手配犯の君たちにかまう余裕もなくなるはずだ。あとは、状況を見て動きたまえ……そうだ、妹くん」


「なんですか?」


「ダルベールのパートナー……持っているんだろう? 僕にあずけてくれないか?」


「えっ……」


 エミルはとまどいました。いくつもの疑問が、頭の中にわいてきます。


 どうして、ごく一部の人しか知らないはずのゴブリンのことを、ロックが知っているのか。このまま彼を信用して、指輪をわたしてほんとうにいいのか……すぐには判断がつかなかったのです。


 エミルがためらっていた、そのときでした。


「エミルちゃん! そいつはたしかに信用できないヤツだけど、少なくとも王国の平和のために動いてるっていうのだけは、マジだから!」


 クリスティーナが、助け舟を出しました。


 しかし正直なところ、彼女のことも、すっかり信用できるわけではありません。だって、元ドロボーですし。足を洗ったとは言っても、いまも現行犯で電気ドロボーをしていますし。


 時間はほとんど残されていません。エミルの選択はいかに……?



お読みいただき、ありがとうございました。

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