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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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第91話 新たなる来訪者

 ――大樹の図書館のコアルームで、ビブリアードの話を聞き終えたエミルとシオリは、ふたたびクリスティーナの隠れ家へ、瞬間移動で戻ってきました。ふたりが消えてから、かれこれ一時間ほどが経っています。


「! ちょっ……あんたたち、いままでどこに行ってたのよ!?」


 ぱっと消えたと思ったら、今度は突然あらわれたふたりに、ラナは目をまんまるにして、びっくり仰天です。


『エミルー!』『エミルさーん!』


 いきなりの瞬間移動に置いてけぼりにされていたシロンとシュガーが、ぽろぽろ涙をこぼしながら、エミルにぴょんと飛びついてきました。


「ごめんね、ふたりとも。心配させちゃって」


 エミルは、ほっぺにすりすりされながら、苦笑いを浮かべました。


「あたしも心配してたっつーの!」


 ラナがぷんすかと詰めよってきます。


「ご、ごめんなさい、ラナさん」


 シオリが、あわてて頭をさげてなだめました。


 そのとき、ソファーの上で、アノニマスに介抱されていたシルヴィアが、弱々しく身を起こして、こちらを見つめていることに気づきました。


『エミル……様……』


 かすれた声です。栄養補給のかいあって、ミイラのような状態は脱したようですが、まだ全身が骨ばっていて、ほおもこけたまま。銀色の髪にも、かつてのつややかさはありません。もとの引き締まったグラマラスなプロポーションには、ほど遠い姿でした。


 それでも……


「シルヴィア! 目が覚めたんだね!」


 愛するパートナーが目を覚ましてくれて、うれしくないはずがありません。エミルは青い瞳をうるませながら、シルヴィアのもとへ駆け寄りました。


 ぎゅっ……


 そして、すっかりやせ細ってしまったシルヴィアの体を、こわれものをあつかうように、そうっと抱きしめます。


「よかった……あのまま弱って、死んじゃうんじゃないかって思ったよ……」


 シルヴィアもほほえみながら、枯れ枝のように細い腕で、エミルを抱きかえしました。声を出すのは、まだつらいのでしょう。なにも言わず、ただぎゅうっと力をこめるのでした。


「アノニマスさん、シルヴィアを診ていてくれて、ありがとう!」


 エミルはかたわらのアノニマスにふり向き、笑顔でお礼を言いました。


『いいえ。私は命をつないだだけよ。思ったより回復が早くて、びっくりしたわ。さすがは体力にすぐれるダークエルフね。でも、完全によみがえらせるには、どうしても貴女のチカラがいる』


 アノニマスは、少女のように愛らしい美貌を真剣にひきしめて、エミルに告げました。淡いピンクの長い髪が、甘い香りとともに、さらりとゆれます。


「うん、レッディ……」


 エミルは、シルヴィアを回復させようと、【ソルフェニックス】のレッディを呼び出そうとしますが……


『待って、そうじゃないわ』


 アノニマスは、ふんわりやわらかいのに力強い手で、エミルの腕をつかんで止めました。


「そうじゃないって……どういうこと?」


『シルヴィアの体の栄養は、じゅうぶんに満たされているわ。いま必要なのは、心の栄養』


「心の……栄養?」


『彼女がいちばんほしいものを与えてあげて。それは、貴女にしかできないことよ』


 アノニマスの熱い視線と言葉に、エミルはすべてを察しました。


 シルヴィアのいちばんほしいもの……もちろんエミルは、よく知っています。はじめて出会ったときも、それからも何度も、"ごほうび"と称してプレゼントしてあげているのですから。


 エミルはすうっと深呼吸をすると、覚悟を決めた表情で、ゆっくりとシルヴィアに顔を近づけました。


 そして――彼女のいちばんほしいものを、じっくりと与えてあげたのです。


 シルヴィアのつり目がちの瞳が、はっと大きく見ひらかれ、やがてうっとりとほどけていきました。


「わっ……!」


 ラナは思わず顔をまっかにして、両手で目をおおいました。


 シオリも、耳まで赤くして、こちらは口をおおっています。


 シュガーは目をぐるぐるさせて、おくちあんぐり。シロンだけは、頭の上に?マークを浮かべて、こてんと首をかしげていました。


『まあ……やけるわね』


 特等席で見ていたアノニマスは、もちもちの白いほっぺに手を当てて、うらやましそうにうっとりしています。


 エミルが、そっとシルヴィアから顔を離した、その瞬間……


 むくっ! むくむくむく!


 なんということでしょう。骨と皮だけだったシルヴィアの体が、みるみるうちに、もとの美しい曲線をとりもどしていくではないですか。すらりと長い脚、きゅっとくびれた腰、ふっくらと豊かな胸――


 いえ、もとどおりどころではありません。体つきはひとまわり華やかさを増し、銀髪も褐色の肌も、数段まぶしいツヤをはなっているようでした。


「ぼ、冒険物語で見たことあります……死の淵からよみがえった主人公が、パワーアップするという展開……!」


 シオリはメガネをきらりと光らせ、興奮ぎみに言いました。すると、同じく読書好きのシュガーが、うんうんとうなずきます。


『え? しゅじんこうはシルヴィアじゃなくて、シロンでしょ??』


「……まあ、ここはだまっとこうよ」


 やや放心ぎみのラナが、シロンの頭をぽんぽんとなでて、なだめました。


『エミル様……ありがとうございます。ダークエルフの姫・シルヴィア。いまここに、完全に復活いたしました!』


 ハリのもどった声で、シルヴィアは、オレンジの瞳をうるうるさせながら、エミルに感謝の言葉をおくりました。


「よかったね、シルヴィア!」


 ふたりは、ふたたび熱いハグを交わします。今度は、遠慮なくおもいっきり。シルヴィアの豊かな胸に、エミルの顔がむぎゅっとうずまりました。


「ちょっと! ちょっとちょっと! お熱いのはけっこうだけど、あとにしてもらえるかしら!」


 ふたりだけの世界に、家主のクリスティーナが、心の底からうんざりした顔で割りこんできました。


「エミル様、ご無事でなによりです。シルヴィア様もご快復、おめでとうございます」


 クリスティーヌも、栗色の瞳をやさしく細めて、かわいらしい顔をほころばせます。


「うん、心配かけちゃってごめんね」


 エミルも、にこっとした笑顔で返しました。シルヴィアのほうは、あいかわらずむすっとした顔で、ぷいっと横を向いていましたけれど。


「……で、なにやってたか、説明してもらえる?」


 クリスティーナが、ずいっと顔を近づけてきます。


「その……大樹の図書館に、ちょっと……ワープしちゃって……」


 エミルは、シルヴィアを抱きしめたまま、ばつが悪そうに目をそらして答えました。


「はあ!? なによそれ!? せっかく突入作戦のプランを考えてあげたのに、ムダになったじゃない!」


 クリスティーナは、マロンブラウンのくせっ毛をがしがしとかきむしって、わめきたてました。


 すると、ことの原因ともいえるシオリが、あわあわと頭をさげます。


「す……すみません! なんというか、暴発みたいなもので……」


 クリスティーナは、はあー……と、ふかーいため息をつきました。部屋が、なんともいえない、いたたまれない空気につつまれます。


「……まあいいわ。それで、真犯人はつきとめられたのね?」


「はい……いちおう。でもやっぱり、証明することはできませんけど……」


 エミルは、こくりと真剣な顔でうなずきました。


 留守番組のみんなが、いっせいに色めき立ちます。エミルの返事から、たしかな手ごたえをつかんできたとわかったからです。


「でも、大きな前進じゃない! それで……だれだったの、犯人!?」


 ラナが興味津々とばかりに、ぐいっと身を乗り出しました。


「それは……」


 エミルが緊張した面持ちで、なにかを告げようとした、そのときでした。


 足音も気配もなく、部屋のすみから、聞きおぼえのある男性の声がひびいたのです。


「夜分遅くに、もうしわけない」


 この場にいるはずのない人物の登場に、一同の視線が、いやおうなしにそちらへ集まりました。


「あなたは……マスターウィザードの、ロックさん!?」


 エミルは目をみはりました。


 薄紫色の髪に、ダークマゼンタのスーツ。あやしげに細められた糸目。そう、序列二位のマスターウィザード、"神出鬼没の影星"ロック・スカーハイトです。


「ちょっ……どうしてこんなところに!?」


 ラナは、シオリをかばうように、わけもわからず身がまえました。


 なぜここに来たのかも気になりますが、どうやってこの隠れ家をつきとめたのかも、さっぱりです。とどのつまり、わからないことだらけでした。


 ロックは、にこやかな笑みを浮かべたまま、部屋じゅうをぐるりと見わたすと、ゆったりと口をひらきました。


「おや、まさか渦中の指名手配犯たちが、せいぞろいしているなんてねえ。これはちょっと、予想してなかったな」


 そして、あごに手を当て、考えこむしぐさをします。


「うーん、でもこれは好都合。天はこちらに味方しつつあるみたいだねえ」


『さっきから意味深なこと言ってないで、さっさと用件をのべてもらえるかしら?』


 アノニマスは、むっちりとやわらかそうな腕を胸の前で組んで、ツンとたずねました。


「麗しの名無しエルフまでいっしょか。さすがは"雨あがりの聖女"様。つくづく、めずらしいワンダーと縁があるんだねえ」


『そういうのはいいから、用件だけ言いなさい』


 アノニマスは、ますます目つきをけわしくしました。どうやら個人的に、ロックのことが気に入らないみたいです。


「クリスティーナ」


 ふいにロックが名前を呼ぶと、彼が姿を見せてからずっと、なぜか知らんぷりを決めこんでいたクリスティーナが、びくっと肩をはねさせました。


「な……なに?」


「急ぎで、ひと仕事たのみたいんだ。協力してくれるね?」


「くれるねって……拒否権なんかないんでしょ?」


 クリスティーナは、ぷくっとくちびるをとがらせながらも、しぶしぶ要求に応じました。


「……え? おふたりは、知り合いなんですか?」


 エミルは、きょとんと首をかしげました。だって、クリスティーナは指名手配犯です。王国のシンボルであるマスターウィザードとつながっているなんて、考えられません。


 ロックは、くっくっと笑いながら答えました。


「知り合いもなにも、彼女は僕のギルド、"星影舞台"のメンバーだよ」


「え……えええええ~~~っ!?」


 あまりに意外な事実に、クリスティーナ以外の全員が、そろっておどろきの声をあげました。



お読みいただき、ありがとうございました。

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