第9話 みんなでおうちへ帰ろう!
「すばらしいご活躍でした! エイル様! エミル様!」
クリスティーヌはにこにこしながら、アームドを解いた両手でパチパチと拍手を送りました。
すると、クリスティーヌに護衛されていた、ホワイトホープのリーダーが、ハッと顔を上げます。
「エイルにエミル……雨あがりの聖女って、まさか……あのウワサの!?」
仲間のふたりも、ざわざわと顔を見あわせました。
三人はようやく、姉妹の正体に気がついたのです。
姉妹は有名人なので、ふだんはパートナーに隠ぺいの魔法をかけてもらい、まわりから目立たないようにしているのです。ところが、戦いなどでチカラを発揮すると、存在感があふれ出して、魔法の効き目も切れてしまいます。だから、三人はこれまで気づけなかった、というわけなのでした。
エミルはシルヴィアのしなやかな手を、ぎゅっとにぎりました。
「シルヴィア、ありがとうね」
『光栄です、エミル様!』
ねぎらわれたシルヴィアは、満足げに笑います。エミルはそんな彼女を指輪に戻し、あらためてシロンとシュガーを呼び出しました。
『こんかいも、だいしょうりだったね! またシロンがかつやくできなかったのは、しゃくだけど!』
シロンは、ぱたぱたと空中で腕を組み、ぷうっとほっぺをふくらませます。
『やっぱりシルヴィアさん、ステキです!』
シュガーは、シルヴィアのいる指輪に、うっとりとしたまなざしを送りました。
エルフは妖精の進化系のようなものなので、シュガーにとっては、あこがれの存在なのでしょう。
「クリちゃんも、ありがとうね。めんどくさいこと押しつけちゃってさ」
エイルは、エクシリアとのアームドを解いて二本にもどった剣を、腰におさめて言いました。
「いえ。メイドとして、ご主人様の言いつけを守るのは当然ですから」
クリスティーヌは、にっこりとほほえみます。
「先ほどももうしましたけど、エイル様、たいへんおみごとでした」
「クリちゃんがいいとこ見せてくれたしね、はりきっちゃったよ」
エイルたちが、ほのぼのとおしゃべりをしていた、そのとき。
がばっ!
地べたに倒れて震えていたホワイトホープの三人が、さっきまで腰が抜けていたのがウソのように、ふいに立ち上がり、背すじをピンと伸ばしました。
エイル以外のみんなが、思わずびくっと身がまえます。もしや、まだ手柄をあきらめていないのでは……と思っていたら、
しゅばっ!
三人は深く頭を下げ、思いもよらないことを言いだしたのです。
「エイルさん! エミルさん! どうか俺たちを、おふたりの舎弟にしてください!」
「やだ」
「「「え~~~~~っ!!!」」」
ズバッとしたエイルの即答に、ホワイトホープの三人は大声をあげ、がくぜんとしました。
「さ、帰るよ、みんな!」
エイルはそんな彼らをまったく気にせず、【ニュードウルフ】のシロを呼び出すと、ひらりとその背にまたがり、さっさと王都へ帰ろうとします。
シュガーだけは、ちょっぴり気にしているようでしたが……エミルもシロンもクリスティーヌも、とくに気にとめず、シロの背に乗りこみ……
『ワオーン!』
遠吠えとともに、王都へ向かって、ダッシュするのでした。
ヒュウ~ッ……
ホワイトホープの三人は、ぼうぜんとした顔でその場に立ちつくし、荒野に一陣の風が吹きましたとさ。
☆ ☆ ☆
王都に帰ったエイルたちは狩猟ギルドをおとずれ、【デュラハンター】の討伐を報告しました。
受付の人のパートナーは、ウソを見ぬく魔法の使い手です。報告にいつわりがないこともしっかり確認され、証明もバッチリです。
そしてギルドを出るころには、空はすっかり夕ぐれ色でした。
「よーし! 懸賞金ゲットー! 今夜はこれで、パーッとやるぞー!」
『おー!』
エイルとシロンが、ノリノリで空にこぶしをつきあげると、
「ちょっと待って、お姉ちゃん!」
エミルがすかさず、それをさえぎりました。
「おカネは、クリスティーヌさんに管理してもらうの! そのために来てもらったんだから!」
「え~……でも、こんなにたくさんあるんだよ? ちょっと使うくらいなら……」
エイルは、賞金のつまった封筒をひらひらと見せつけながらぼやきました。
「報酬もらうたびにやってるでしょ、それ! そのたび外食してたら体によくないし、おカネだってたまらないって、言ったじゃない! おカネがなくなるたびに依頼を受けるようなその日暮らしなんて、わたしイヤだし、おカネのためだけにこまってる人を助けるなんて、お姉ちゃんだってイヤでしょ!?」
「んむ~……」
エイルは、くちびるをとがらせてうなりました。
エミルがこんなふうにうるさく言うなんて、めったにありません。それが自分たちを思ってのことだとわかるだけに、エイルも納得するしかないのです。なにより、妹の言うことが正しいと、ちゃんとわかっているのですから。
エミルはぷんすかしながら、エイルから賞金の入った封筒を取りあげて、クリスティーヌにぽんと手渡しました。
「そういうわけだから、おカネの管理、よろしくね、クリスティーヌさん!」
クリスティーヌは、一瞬きょとんとしますが……
「は、はい……おまかせください!」
すぐにぱあっと笑顔に戻って、両手で大事そうに封筒をぎゅっとにぎりしめるのでした。
「それと……さっそくきょうの晩ごはん、おねがいしますね。お姉ちゃんたち、ものすごく食べますけど、できるだけ安上がりで、栄養バランスも考えて……って、むずかしい注文かもしれませんけど」
エミルがもうしわけなさそうにお願いすると、クリスティーヌはどんと胸を張りました。
「いえ、おまかせください! 私はメイドですから、どんなムチャぶりだってこたえちゃいますよ!」
ムチャぶりだとは思ってるんだ……とエミルは心の中でツッコみました。
『……なんかクリちゃん、さっきまでと、キャラがかわってない?』
シロンが、こてんと首をかしげます。
『あ……たしかに。初対面のころより、ずっと雰囲気がやわらかくなったような……』
シュガーも、ぱちくりと目をまたたかせました。
クリスティーヌは、ふにゃりとほほえんでこたえます。
「……なんというか、みなさまを見ていたら、緊張が解けていっちゃうんですよ」
「緊張?」
「そんなのしてたんだ」
エミルとエイルも、意外そうに言いました。
「し、してますよ。私、ハピネスワークスでは新人で……今回がはじめてのご指名だったんです。だから、粗相がないようにって、ずっと緊張してました」
クリスティーヌは、照れくさそうに、もじもじと指をからめました。
それがなんだかかわいらしくて、エミルたちはほっこりした気持ちになります。
「でも……みなさまを見ていたら、そこまで肩ひじ張ることもないのかなって……失礼ながら、思ってしまったんです」
「……たしかに、自分で言うのもなんだけど、わたしたちって、かなりゆるいからね……」
エミルは苦笑いしました。
『そうだね! アットホームなしょくばだから!』
「そういうのは、口に出さないほうがいいよ」
エミルはすんと冷静に、シロンをたしなめます。
『でも……わかります、その気持ち。わたしも人間界に来たばかりのころ、エミルさんたちご姉妹とシロンに、ずいぶん救われましたから』
「シュガー様も、そうだったのですか?」
『様はやめてほしいなあ……くわしいことは、お夕飯のときにおはなししましょう。だってわたしたち、家族になるんですもんね?』
「家族……」
ほほえむシュガーにそう言われて、クリスティーヌはぽつりとつぶやきました。
「そうだよ! 私たちとクリちゃんは、きょうから家族だ!」
エイルはうれしそうに、クリスティーヌの肩をがしっと抱きました。
「……そうだね、わたしたちは、家族!」
『シロンも!』『わたしも!』
エミルとシロン、シュガーも、ぎゅうっとクリスティーヌを抱きしめます。
クリスティーヌは、くりっとした瞳を見開き、じわっとうるませていました。こんな気持ちはひさしぶり、あるいははじめてだと言わんばかりに。
「……はい! これからみなさまのメイドとして、バリバリ働かせていただいちゃいます!」
こうして、クリスティーヌは満面の笑みを浮かべ、夕ぐれの空の下、姉妹やパートナーたちといっしょに、あたらしいわが家へと帰りつくのでした。
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