第10話 ピクニックに行こう!
王都南地区の住宅街にある、姉妹の家。待ちに待った晩ごはんの時間です。
「さあどうぞ! おめしあがりください!」
「『わあ~っ!』」
姉妹とパートナーたちはいっせいに、目を星空のようにきらめかせました。
食卓の上にところせましと並べられているのは、ほかほかと湯気を立てる、色とりどりの料理の山。
ハンバーグにコロッケ、スパゲッティにオムレツ、さらにはポテトサラダやフルーツの盛り合わせなど、量と栄養バランスをみごとに両立させたメニューです。いつも一品か二品だけのエミルのごはんとは、次元がちがいます。
おどろきなのは、これだけの料理を作っておきながら、材料費がいつもよりずっと少なくすんでいるという事実。安くて新鮮な食材を見きわめる目も、すぐれたメイドのスキルなのでしょう。
つくづく、クリスティーヌをむかえることにしてよかったと、エミルはしみじみ感激するばかりでした。
「それじゃみんなー、ごはんを作ってくれたクリちゃんに感謝して……」
「『いっただっきまーす!』」
エイルの音頭に合わせて、みんなでぱんっと手を合わせ、にぎやかな食事の時間がはじまりました。
「うわっ! このハンバーグ、すっごいジューシー!」
「オムレツも、ふわっふわだあ!」
『このスパゲッティ、エミルのよりずっとおいしー!』
『コロッケの中、栗が入ってます! あまーい!』
『むむ……このサラダ、くやしいですけど、新鮮で……美味です……』
食卓についているのは、エイル、エミル、シロン、シュガー、そしてシルヴィアの五人。
指輪の中にいるパートナーたちは、主人であるウィザードが食事で取りこんだマナを、指輪を通じて分けてもらえるため、基本的には、外に出ていっしょに食べる必要がありません。
それでも、シロンたちのようにパートナーと同じ時間をわかちあいたい子もいれば、人間の食事が口に合わなかったり、栄養補給はひとりしずかにすませたい子もいます。スタイルは、それぞれ好き好きといったところなのです。
ふと、シロンが手を止めました。食事に手をつけず、ほほえましそうに姉妹たちを見守るばかりのクリスティーヌを、見かねたのです。
『クリちゃんも、いっしょにたべよーよ!』
「い、いえ、私はあとでいただきますから……」
「いーからいーから、家族なんだから、いっしょに食べるよ!」
遠慮がちなクリスティーヌを、エイルはむりやり席へぐいっとひっぱりこみます。
「そうだよ。イヤだっていうなら、命令しちゃうよ?」
エミルもめずらしく、いじわるっぽくにんまりと笑って言いました。
「い、いえ! イヤではないです! ……そういうことなら、いただきます!」
観念したのか、それとも背中を押してほしかったのか、クリスティーヌはおずおずとフォークを手に、食事の輪にまざるのでした。
「どう? おいしい?」
「ええ、とってもおいしいです!」
ひと口ほおばったクリスティーヌが、ぱあっと顔をほころばせます。
「それって、自画自賛だよー!」
『あはははっ!』
楽しい晩餐はにぎやかに続き、姉妹たちとクリスティーヌの絆は、よりいっそう深まるのでした。
☆ ☆ ☆
……さて、時間は少しさかのぼり、姉妹が【デュラハンター】の討伐に向かおうとしていたころ。
王都中央区の、"大樹の図書館"にて。
「館長! またどこほっつき歩いてたんスか!」
「いやーごめんごめん。妹ちゃんにいろいろ手ほどきしてあげててさあ」
ロビー付近で、副館長のデックスが、館長のロウランにカミナリを落としていました。
「会議すっぽかして、ウォルターさんカンカンでしたよ! オレがなだめるのに、どれだけホネを折ったことか!」
「あの男が私にカンカンなのは、いまにはじまったことじゃないだろ。……それより、そこまでキミがムキになるってことは、なにか重要な議題でもあったのかい?」
「大アリッスよ! あの"ノワール・モンブラン"が、活動再開したって話ッス!」
「なんだって……?」
悪びれない様子でヘラヘラしていたロウランは、一転して、真剣な面持ちになりました。
「話ってのはどの程度のことだい。明確な根拠はあるんだろうね?」
「いえ……まだうわさレベルッスけど……それでも王国のあちこちでさわがれてるらしくて、見すごせないって、みなさん言ってたッス」
「ノワール・モンブラン……このアストライト王国内で"ウバオーガ団"と勢力を二分する盗賊団。ここ数年、ぱったりと活動の話を聞かなくなったが……その話が本当だとすると、めんどうなことになるな……」
「たしか昔、王宮の"禁書庫"にも侵入して、ヤバイ本を何冊か持ってかれたんでしたよね」
「デックス。そういう話は口にするもんじゃない。さもないと、キミがヤバイ目にあうことになるぞ」
「ぐむっ……」
「……とにかく、うわさの真偽については、こちらでも調査しておこう。ってことで、キミからウォルターに伝えておいてくれたまえ!」
ロウランにポンと肩をたたかれ、デックスはがっくりとうなだれるのでした……
☆ ☆ ☆
次の日の朝。
クリスティーヌが整えてくれたベッドでぐっすりねむり、彼女の朝ごはんのおかげで、一日のはじめから元気フルパワー。姉妹はいま、無敵な気分でした。
そんなとき、例によってクリスティーヌがいれてくれたティーで一服しながら、エミルが切り出します。
「ねえみんな、きょうは冒険じゃなくて、ピクニックに行ってみない?」
「ピクニックー?」
エイルも言葉は知っていますが、そういえばやったことはないなあ、と思いました。小さいころから、姉妹のおでかけの理由は、いつだって冒険だったからです。
シロンがこてんと首をかしげます。
『なにそれ?』
「お弁当を持って、おでかけして、その場所の景色を楽しむことだよ」
『それって、ぼうけんとどうちがうの?』
「え? う、うーん……」
シロンにつっこまれて、エミルは言葉につまってしまいました。
なにしろ、エミルだって経験のないことなのです。言われてみれば、ちがいなんてわかりっこありません。
「ほ……ほら、"危険を冒す"と書く冒険とはちがうから、あぶなくない場所に行くんだよ」
「この王都近辺で、あぶなくない場所なんてありましたっけ?」
「うっ……」
今度はクリスティーヌにまでつっこまれ、エミルはまたぎくりと言葉につまってしまいました。
たしかに、自然豊かなアストライト王国は、どこへ行ってもワンダーたちのすみかです。友好的なものもいますけれど、たいていは「ナワバリを荒らしに来た!」と思われて、おそいかかってきます。とてもじゃありませんが、のんびりピクニックができるような、絶対に安全なスポットなんて、そうそうありはしないのです。
「とにかく、エミルは行ってみたい場所があるってことでしょ?」
「うん……うんうん、そういうこと!」
エイルがざっくりまとめると、エミルはこくこくと何度もうなずきました。
さすがはお姉ちゃん。おバカだけれど、かわいい妹のことをいちばんわかってくれています。
「私はいいよ。エミルのおすすめの場所、楽しみだなあ。それで、どこに行きたいの?」
「ここ!」
エミルはふんすと鼻息もあらく、一冊の本をひらいて、みんなの前にずいっとさしだしました。
本のタイトルは、"百じゃきかないアストライト百景"……この王国の人気スポットが写真つきで紹介されているガイドブックです。
『それ、ゆうべ読んでた本ですよね。"ズットータム山"……王都から西に行ったところにあるらしいです』
シュガーが本をじっとのぞきこんで言いました。
写真には、あざやかに色づいた紅葉の木々が、見わたすかぎり写っています。
「いまは春だけど、この山は一年じゅう、ずっと秋の気候なんだって。栗もいっぱいとれるんだよ。クリスティーヌさんは栗料理が得意だって聞いて、思いついたんだ」
「おお、いいね!」
『クリだけじゃなくて、おイモもとれるかなあ?』
『いっぱいとれたら、栗のスイーツがたくさん作れますね!』
みんなも、わくわくと身を乗り出して、興味しんしん、やる気まんまんです。
「よーし! きょうの冒険は、この"ズットモ山"で決まり!」
「冒険じゃないし、"ズットータム山"だよ」
きょうの予定も決まったところで、クリスティーヌがくすくす笑いながら提案します。
「じゃあ、お弁当をたくさんこしらえますね。おふたりと、シロン様たちのぶんを」
「それと、クリちゃんのぶんもだよ」
「え?」
エイルの言葉に、クリスティーヌはきょとんとします。
「そうだよ。ピクニックなら、家族みんなで行かなくっちゃ、ね?」
エミルもにっこりとほほえみ、となりでは、シロンとシュガーもうんうんとうなずいています。
「……それは、ご命令、ということでよろしいでしょうか?」
「そんなつもりはないけど、ついてきてくれるなら、そう受けとってくれてもいいよ」
クリスティーヌはふにゃりと笑うと、両手をぎゅっとにぎって、はりきりポーズをとります。
「……わかりました! ご命令にしたがい、今回の冒険、おともさせていただきます!」
「だから、冒険じゃなくてピクニックだってば~」
「『あははははっ!』」
笑顔の輪がひろがり――こうして姉妹たちは、"ズットータム山"への冒険……もといピクニックの準備を、いそいそとはじめるのでした。
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