第11話 結局、冒険の予感
「みんな、準備はオッケー? それじゃ、しゅっぱーつ!」
『おー!』
「ちょ……待って待って待って」
ノリノリのエイルとシロンたちを、エミルがあわてて止めました。
「どしたの、エミル? 準備オッケーじゃないの?」
「いや、オッケーだけど……これは、オッケーすぎるでしょ」
エミルはそう言いながら、玄関にどーんと置かれた巨大な包みを見下ろしました。
中身はもちろん、クリスティーヌがはりきって作った大量のお弁当。それはいいのですが……こんな大荷物を持ち歩いて、ピクニックなんてできるわけがありません。
すると、クリスティーヌがどんと胸をたたいて言いました。
「心配はいりませんよ。これも、私におまかせです!」
そう言って右手をかかげると、指輪がぱあっと光り、パートナーが姿を現しました。
現れたのは、ウシ革のような茶色の毛をした、耳の長いかわいらしい小動物です。額では、大きな緑色の宝石がきらりと光っています。
「わあ……この子、【カバンクル】だよね!?」
ワンダー好きで、ふだんから図鑑も読みあさっているエミルは、興奮で目をきらきらさせました。
【カバンクル】は、とてもめずらしいワンダーです。その能力は、額の宝石の中に、あらゆるものを大量に収納できるという、たいへん便利なもの。カバンの役目をする宝石獣だから、カバンクル、というわけです。
「パックちゃん、お弁当をしまっておいてくれる?」
『ぐぅー!』
クリスティーヌにおねがいされると、パックという名前のカバンクルは、こころよく元気なお返事をして……お弁当の巨大な包みは、光の粒子となって、その額の宝石にすうっと吸いこまれていきました。
「おお、すごい!」
『なんか、コネクタリングみたい!』
『便利なチカラですね~』
シロンの言ったとおり……ウィザードがパートナーの収納に使う"コネクタリング"は、カバンクルの額の宝石を、妖精が加工して作ったものだといわれています。
「エミル様、これでよろしいでしょうか?」
クリスティーヌは自信たっぷりの笑顔で、エミルにふり向きました。
「うん、それなら安心だよ。ところで、その子の容量はどれくらい?」
容量――つまり、額の宝石にどれだけ物をしまっておけるか、ということです。今後のためにも聞いておきたい、とエミルは思ったのです。
「そうですね……小さな倉庫ひとつぶんほどでしょうか」
「じゅうぶんすぎるね。栗もいっぱいひろえちゃいそう」
エミルの言葉に、エイルもシロンもシュガーも、わくわくと胸をはずませます。
「よーし! 今度こそ準備完了! 出発するぞー!」
「『おー!』」
みんな元気いっぱい、家からとびだしていくのでした。
☆ ☆ ☆
一行は大オオカミのシロの背中にまたがり、王都を出て、西へ西へと走り続けました。
きょうは楽しいピクニックということで、シロもいつもよりごきげんです。足どりははずみ、スピードもぐんぐん上がります。あっというまに、目的地の"ズットータム山"のふもとに着きました。
「おお~……一面まっかっか。ホントに秋みたいだなあ~」
シロを指輪にもどしたエイルはそびえる山を見上げながら、しみじみと言いました。
いまの季節は春なのですが、話に聞いていたとおり、この山のモミジやイチョウの木々は、色あざやかな葉をたっぷりとつけています。足もとには、ふかふかの落ち葉のじゅうたん。どこをどう見ても、秋の景色です。
『ステキ……』
シュガーも、うっとりと見入っていました。
「そんなに高い山じゃないみたいだし、お弁当は山頂で食べようよ。きっと、もっといい景色が見られるよ」
エミルの提案どおり、山頂をめざすことにしたみんなは、さっそく山道を登りはじめました。
歩くたびに、しゃりっ、しゃりっと落ち葉を踏む音がひびいて、なんとも気持ちいいです。
『シロンもやりたい!』
『わ、わたしもっ!』
ふだんは空を飛んで移動しているドラゴンのシロンと妖精のシュガーも、ふわりと地上におりて、自分の足で歩いてみました。
『ひゃあ! きもちいー!』
『うん、とっても!』
ふたりは、さくさくと落ち葉を踏む感触を、思う存分たのしみます。
「クリちゃんも、楽しい?」
先頭を歩くエイルが、くるりとふり向いてたずねると、
「はい、とっても!」
にっこり笑顔のお返事が返ってきました。
そう、きょうは冒険ではありません。のどかで、楽しいピクニック……
……のはず、だったのですが……
「……?」
ふと、エイルが足を止め、いぶかしげな顔であたりを見回しはじめます。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「……エミル、この山にも、ワンダーはいるはずだよね?」
「え? う、うん。というか、このアストライト王国に、ワンダーのいない場所なんかないよ」
「おかしいんだよ。ワンダーどころか、フツーの動物の気配すら、ほとんど感じないんだ」
「え……?」
エミルは目をまんまるにしました。
そんなことがあるわけない……ふつうなら、そう思うところですが、エイルはおバカなかわりに、野生のカンである直感がずばぬけています。そんな彼女の言うことなのですから、信ぴょう性はバツグンです。
『たしかに、すっごくしずかだよ、このやま』
『わたしもそう思います。でも、この感じ……いないというより、気配を隠しているような……まるで、なにかに見つからないようにしているみたいです!』
同じく感知能力の高いシロンとシュガーも、エイルに同意しました。
とくにシュガーは、これまでの冒険でも、すぐれた感知の力で何度もみんなを助けてくれました。だからこそ、エミルは、彼女の言葉が気になったのです。
「なにかに、見つからないように……?」
クリスティーヌが、はっと気づいたように言いました。
「もしや……密猟者がこの山にひそんでいるのでは?」
『ハンター? どっかできいたような……』
「ワンダーをムリヤリつかまえようとする、悪いヤツだよ! 村にも出たことがあるし、旅先でも何度か戦ったでしょ!」
『ああ、あれかあ!』
エミルに言われて、シロンもぴーんと思い出しました。
『で、でも、まだそうと決まったわけじゃないんじゃ……?』
そう言いながらも、シュガーはエミルのローブをぎゅっとつかんで、おそるおそるといった様子です。
「ううん、ワンダーたちが身を隠す相手は二通り。凶暴なワンダーからか、人間からかだよ。前者の場合、そのワンダーが暴れたあとが残っているはず。木々がざわめいたり、自然も敏感に反応するしね。でも、今回はそのあとも、ざわめきもない。ってことは……」
「後者、それも痕跡をほとんど残さないほど用心深い相手――つまり、ハンターである可能性が高い、ということですね?」
クリスティーヌがエミルのあとを引きついで答えました。
『ええっ!? それって、やばいじゃん!』
『そ、そうです! お山のワンダーたちの、ピンチです!』
シロンとシュガーは、あわてふためきました。
「そうだね。見つかったら、シロンとシュガーもやばいかもね。ふたりとも、ドラゴンに妖精なんて、めずらしい種族だし」
『『やだーっ!』』
ひしっと抱き合って、うえーんと泣き叫ぶふたりの姿を見て、エミルはちょっぴり、からかいすぎたかな、と反省しました。
「どうしようか、お姉ちゃん?」
「決まってるだろ。探し出して、やっつける!」
「だよね」
困っている人はほっとけない。悪いやつなら、その場で即成敗。いつでもどこでもワンダーの味方。それが、姉妹の流儀なのです。
「クリちゃんも、悪いけど、協力してね」
「はい、ご命令とあらば」
さっきまでゆるんでいたクリスティーヌの顔も、きりっと引きしまり、完全なお仕事モードに入りました。
こうして、楽しいはずのピクニックは……案の定、ハンター退治の冒険に変更となったのでした。
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