第12話 ハンターをさがせ!
「まず、密猟者がこの山にひそんでいるとして……どこにいるのか、つきとめないと」
エミルが切り出しました。
エイルも、クリスティーヌも、シロンとシュガーも、目で、耳で、鼻で、あたりの様子をさぐります。
「あっちのほうで、なにか物音がしたような気がするな……」
『あ、それ、わたしも感じましたっ!』
耳のいいエイルとシュガーは、ほかのみんなより先に異変に気づいたようです。
「物音か……それなら!」
エミルはぴーんとひらめいて、指輪をかざしました。
『お呼びですか、エミル様!』
銀色の髪をふわりとゆらして現れたのは、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィア。オレンジの瞳が、期待できらきらと輝いています。
「あなたの耳で、あっちの方角を確かめてくれる?」
『はいっ! おまかせくださいっ!』
シルヴィアはうれしそうに声をはずませて、長い耳をすませました。
エルフは長い耳を持っていて、とても耳がいいのです。
ぴくぴくっ……
すると、シルヴィアの耳が反応しました。
「なにかわかった?」
『ええ。なにか……人の声が聞こえます。人数は……複数。どうやら、集団のようです』
「会話の内容は、わからない?」
『そう……ですね……"とらえる"だの、"およろこび"だの……なにかをたくらんでいるような、ぶっそうな言葉が聞こえます。声の感じも、なんというか、品がなくて、あまり気持ちのいいものではありません』
シルヴィアは目を閉じて集中したまま、顔をしかめました。
「決まりだね」
エイルは、キッとその方向をにらみつけます。
シルヴィアの反応からして、相手は悪人……ハンターでほぼまちがいありません。
クリスティーヌが、落ち着いた声でたずねました。
「ですが、敵は複数いるということ。なにか策はあるのですか?」
「ない。私が突撃して、終わらせちゃうよ」
「ちょ、ちょっと待って、お姉ちゃん」
エミルが、走り出そうとしたエイルのマントをぐいっとつかんで止めました。
「お姉ちゃんが強いのは、みんな知ってる。でも、作戦は立てたほうがいいよ。前の冒険みたいに、相性最悪の相手だったら、どうするの?」
かたわらのシュガーも、こくこくとうなずいています。前回の冒険で戦った相手は、エミルとシュガーのチカラがなければ、エイルも手も足も出なかったのですから。
「そっか、そうだね」
エイルは、あっさりと引き下がりました。自分よりずっとかしこくて、かわいい妹の言うことには、とても素直なのです。
「まずは、こっちも気配を消して、相手に近づいてみよう。どうするかは、様子を見てから考えよう」
『おまかせください。このような森の中でしたら、私の隠ぺい魔法が、いちばん力を発揮できますから!』
シルヴィアは、むんっと気合いの入ったポーズで、エミルにずいっと詰め寄りました。褐色の肌からふわりとただようひだまりのようないいにおいに、エミルはちょっぴりどきどきします。
「よーし、まずは"こっそり近づいちゃうぞ作戦"、開始だ!」
「『おー!』」
一行は声をひそめて、こぶしを小さくつきあげました。
☆ ☆ ☆
シルヴィアを先頭に、一行は紅葉きらめく山を、ゆっくりと歩いていました。
ほんとうなら、もっとこの景色を楽しみたかったところですが、ハンターがいるとわかった以上、そういうわけにもいきません。
幼いころから、村の近くの森や山のワンダーたちと慣れ親しんで育った姉妹にとって、ワンダーは人間以上に大切な存在です。それをおびやかす者は、だれだろうとけっして許せないのです。
『……!』
シルヴィアが足を止めました。
「どうしたの?」
『声が聞こえます……先ほどよりも、はっきりと!』
『どんなかんじなのっ!?』
『シロン、耳もとでどならないで! うるさいですっ!』
『ご、ごめん……』
シロンは、しゅんとしてしまいました。耳のいいシルヴィアにとって、すぐそばでの大声は、頭にひびいてたまらないのです。
『"さっさと引きずり出すぞ"……"こいつらはいいエサになる"……"このクリスタルがあれば"……近くで、ワンダーたちの悲鳴も聞こえます……』
「……これは、斬りこんでいいでしょ」
エイルはばっとマントをひるがえして、だっと先に走り出してしまいました。
走り出す直前、ぷつんとなにかが切れたような音が聞こえた気がします。
『ちょっと、お義姉さま……』
止めようとするシルヴィアを、エミルが手でそっと止めました。
「いいよ、シルヴィア。行かせてあげよう。隠ぺい魔法はまだ効いてるし、お姉ちゃんもわたしの忠告をわかってくれてる。ムチャはしないと思う。……ああなっちゃったら、もう止められないよ」
『エミル様……』
シルヴィアは、どこかさみしそうなまなざしでエミルを見つめました。つり目がちの瞳が、ふるふるとゆれています。
「わたしたちも追いかけよう。わたしたちは、あくまで慎重にね」
「『はい』」
そして、残ったエミルたちは、歩く速さをすこし上げて、エイルのあとを追いかけました。
☆ ☆ ☆
ズットータム山の、中腹より少し上のところ。
そこには、栗色のスーツに黒いサングラスという身なりの男たちが、たむろしていました。
その中心には、大きなネットにまとめて閉じこめられた、大小さまざまな野生のワンダーたちの姿があります。
「……しかし、なんだってこんなにたくさんのワンダーを捕まえる必要があったんですかね? たいしてめずらしくもない、ザコばっかだし」
「聞いてなかったのか? 今回の狙いである、"山のヌシ"を釣り出すためだよ。コイツらは、そのためのエサだ」
「山のヌシ?」
「名を【キングクリズリー】という。とんでもなく強いクマ系ワンダーらしい。一級品のレアモノで、個体によっちゃ億単位の値がつくそうだ」
「そ……そんな大物が、こんなのどかで平和ボケした山の中に?」
「めずらしいワンダーってのは、むしろこういう比較的安全な場所に潜んでるモンなんだよ。灯台下暗しってな。冒険家みてえなイカつい連中も寄りつかねえ。たいしたワンダーなんざいないって、タカをくくっちまうのさ」
「そういうモンなんですねえ……」
「だから、俺らも仕事がやりやすいってわけだ。たいしたウィザードも寄ってこねえからな。……コイツらみたいに!」
一人だけ裸眼の、リーダー格とおぼしき男が、指輪をはめた右手を近くの木に向かってかざしました。すると、指輪から魔力の玉が発射され、炸裂します。
「うひゃあっ!?」
木の裏に隠れていた若者たちが、ひっくり返ってしりもちをつきました。
若者たちは三人。身につけているのが登山用の装備であることから、観光でこの山をおとずれただけだとわかります。
「観光客か……運が悪かったな」
リーダー格の男は、腰かけていた岩から立ち上がって、若者たちのもとへ歩み寄っていきました。
「ひ、ひい……」
若者たちは、おびえてすくみあがりました。
リーダー格の男の、あまりにするどい視線。その冷たいまなざしに、体の芯までこおりついてしまったのです。まるで、生きものの命も、人の命さえも、なんとも思っていないかのような瞳でした。
「まだ、俺らのことをヒトに知られるわけにはいかねえんだ。残念だが、観光ツアーの行き先は、あの世に変更してくれ」
リーダー格の男は、指輪からパートナーを召喚しました。
ぞわりとした赤黒いオーラとともに現れたのは……ワインレッドの毛なみをした、三つ首の凶暴なイヌ。全身に、赤い鎖を巻きつけています。
「やれ」
『ワオオオオン!』
三つ首のイヌは、三つの口から咆哮を重ねて、若者たちに襲いかかりました。
「う、うわああああっ!」
若者たちが悲鳴をあげ、だれもが「もうおしまいだ」と思った、そのとき!
『ワオーン!』
どこからともなく、突然現れた大きな白いイヌ……いえ、オオカミの体当たりで、赤い三つ首のイヌはふっとばされました!
「なっ……」
「えっ……」
この場の全員があっけにとられるなか……
オオカミを追いかけるように、やまぶき色の髪とペールオレンジのマントをなびかせた少女が、場に飛びこんできたのです。
「ここはまかせて、早く逃げろ!」
少女は若者たちをふり返り、そう告げました。
全身からあふれ出す存在感に、若者たちは思わず息をのみます。
若者たちは、その少女の顔を知っていました。何者なのかも。
アストライト王国のマスターウィザードの一人、"巨獣狩りの剣星"の二つ名を持つ……エイル・スターリングであることを。
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