第13話 紅白ワンワン血戦
「は……はいい~~~っ!」
エイルの声で、はっと我に返った若者たちは、いちもくさんに山を下りていきました。
リーダー格の男は、それを追おうとしましたが……できませんでした。
目の前に立ちはだかる少女……エイルが、ぎろりとにらみをきかせているからです。
「……なんてこった。運がなかったのは、俺らのほうだったってか」
男はやれやれ、といったふうに、右手でひたいをおさえました。
どういうわけか、彼らは人に存在を知られたくなかったようです。しかも、よりにもよって王国最強クラスのウィザードに目をつけられてしまうなんて……これ以上ないくらい最悪でしょう。
エイルはかまわず、両手ににぎった二本の剣で、リーダー格の男に斬りかかります。
「チッ!」
男は腰からロープのように長い鎖を引き抜いて、剣を受け止めました。
そして、エイルのおなかに蹴りを入れようとしますが、エイルはひらりと飛びすさってかわしました。
ふたりは、おたがいに武器を構えたままにらみ合います。
さらにその後ろでは、白いオオカミのシロと、男のパートナーである赤い三つ首のイヌも、じりじりと向かい合っています。
どちらも、最初の一撃で相手の力量を見抜いたのでしょう。出方をうかがっているようです。
そのころ、エイルを追いかけていたエミルたちが、ようやく追いついてきました。
「いた! お姉ちゃん……」
シルヴィアの隠ぺい魔法がかかったまま、茂みから遠巻きに様子を見守っています。
『エミル、あそこ!』
シロンが指さした先には、捕らえられ、栗色のスーツの男たちに見張られているワンダーたちがいました。みんなネットの中で身を寄せあい、不安そうな顔をしています。
『ひどい……』
シュガーとシルヴィアは、はっと息をのみ、思わず口をおおいます。
『たすけてあげようよ、あのこたち!』
シロンは、ぐっと身を乗り出して提案しました。
「もちろん。でも慎重にいこう。……わかるでしょ?」
エミルは、リーダー格の男と戦っているエイルのほうへ、ちらりと視線を向けます。
この場のだれもが、ひと目で察しました。あの男には、自分たちではとてもかなわないこと。そして、男の目を盗んでワンダーたちを助け出すのは、まず不可能だということを。
「でも、まわりにいる手下っぽい人たちなら、わたしたちでもなんとかできそう。お姉ちゃんがあの人をくぎづけにしてるうちに、こっそり近づいて、助け出しちゃおう。おねがいね、シルヴィア」
『はい、おまかせください、エミル様』
シルヴィアは、とくいげな顔でこくりとうなずきました。褐色の肌が、きらりと光ります。
クリスティーヌも、胸をぽんとたたきます。
「そういうことなら、私にもまかせてください。こっそりと動くのも、メイドの特技ですから」
「あ、ありがとう、クリスティーヌさん」
それはちょっとちがうような気がする……と思わなくもない、エミルなのでした。
こうして、エミルたちがワンダー救出作戦を立てているあいだにも……
エイルとリーダー格の男は、はげしい戦いをくりひろげていました。
「いけ、シロ!」
「かみ殺せ、ケルベロス!」
戦いは、おたがいのパートナー同士による、怪獣バトルの展開に移っていました。
体高三メートルほどの巨体をほこる紅白のイヌが取っ組み合い、そのいきおいで、まわりの紅葉やイチョウの葉がばらばらと舞い散ります。
力は、まったくの互角……いえ、赤い三つ首のイヌのほうが、やや優勢に見えます。
このイヌは、【ブラッドレッドケルベロス】。"血の池地獄の番犬"の異名を持つ、きわめて凶暴なワンダーで、戦う力では、シロ――【ニュードウルフ】を上回るとされています。
つまり、ケルベロスが優勢なのは、種族としての力の差、ということです。それでも差が小さいのは、エイルの指揮の腕と、シロとの絆が、それだけ強いからでしょう。
("雨あがりの聖女"……妹のほうは、どこだ?)
男はエイルとシロに意識を向けながら、まわりへの警戒もおこたりませんでした。
エイルとエミルの姉妹は、もはや王国では知らない者はいないほどの有名人。しかも、いつもふたりいっしょに行動していることも、よく知られています。
つまり……姉のエイルがおとりで、そのスキに妹のエミルが、捕らえたワンダーを助け出そうとしているのではないか、と疑っているのです。
そのことは、さりげなく部下たちに合図を送って知らせてありますが……どうも彼らは頼りない、と男は思っているようです。
エイルも、エミルも、自分たちが警戒されていることはわかっています。だからエイルは、男の注意を自分ひとりに引きつけようとしているのですが、男は思いのほか手ごわく、なかなか決め手が打てずにいました。
パートナー同士の戦いでは、らちがあかない。そう判断したエイルは……
「もどれっ!」
『ワンッ!』
シロを指輪の中にもどし……両手の剣に、ほかのパートナーである精霊たちを合体させ、みずからケルベロスに斬りこんでいきました。
「!?」
突然のことに、男とケルベロスは一瞬面食らい……
ズバッ! バシュッ!
エイルの黄金の剣と白銀の剣がひらめき、ケルベロスをバツ印に斬り裂きました!
『ガッ……!』
ケルベロスは、赤いしぶきをまき散らしてよろけ、どさりと地面にたおれこみます。
その横をすり抜け、エイルは男にふたたび斬りかかりました!
ガキィン!
男は鎖で剣を受け止めますが、今度の剣はアームドで強化されており……鎖はばらばらに砕け散ってしまいました。
("巨獣狩りの剣星"……忘れてたぜ、その二つ名……!)
男は苦笑いを浮かべながら、しまった、と思いました。
"巨獣狩りの剣星"――エイルのその二つ名は、自分より何倍も、何十倍も大きなワンダーを、ひとりで何十、何百体も倒してきたことからつけられたものです。いくら地獄の番犬と呼ばれていようと、あのくらいの大きさのイヌなんて、エイルにはへっちゃらです。
エイルはすかさず、もう片方の剣で、丸腰の男に斬りかかりますが……
ブオッ!
今度は男のほうが、後ろへ飛びのいてかわし、大きく距離を取りました。
「いいぜ……アームドでの勝負がお望みなら……俺も乗ってやるよ」
男はペロリと舌なめずりをします。
すると、倒れかけていたケルベロスが赤い光の粒子に変わり……男が持っている、砕けた鎖と合体しました!
「うげっ」
エイルは思わず、顔をしかめました。
鎖は、砕け散ったはずなのに元通りになり……あざやかな血のように真っ赤に染まって、さらにゆらゆらと赤いオーラに包まれています。
「出た! リクールさんの、《ブラッドレッドチェイン》だ!」
栗色のスーツにサングラスの手下たちが、わあっと歓声をあげました。
「おいおい、勝手に人の名前や魔法の名前を教えてんじゃねえ……よッ!」
男――リクールは、赤く染まった鎖を、エイルに向かって投げつけました。
エイルはさっと反応して、横によけますが……
ヒュンッ!
なんと、鎖はヘビのようにくねり、よけたはずのエイルめがけて曲がってきたのです!
「そういう感じか!」
エイルはその追いうちもかわしますが、鎖は追いかけるのをやめません。しかも、どこまでも伸びて、まるで生きもののようにしつこくおそってきます。
「ハハッ! いつまで逃げられるかなッ!」
リクールはかっと目を見開き、鎖をあやつっています。
ですがどうやら、鎖をあやつるには、相当な集中力がいるようです。その証拠に、彼はもう、まわりを気にするそぶりを見せません。
戦いを見守っていたエミルたちも、リクールが自分たちに意識を向ける余裕をなくしていることに気づき……いましかない、と行動を開始しました。
エイルも本能的にそれに気づき、鎖をよけ続けています。
その気になれば、また剣で打ち砕くこともできるかもしれません。けれど、いまはリクールに鎖の操作へ集中させておいたほうが、エミルたちが動きやすいはず。エイルはそう直感して、あえてよけ続けることにしたのです。
さて、姉妹は無事に、山のワンダーたちを助けることができるのでしょうか?
お読みいただき、ありがとうございました。
しばらくは毎日12時、21時の一日二回更新となります。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




