第8話 デュラハンター退治
『オオオオオ……』
エイルに剣を受け止められた【デュラハンター】は、ふたたびユラリと姿を闇にまぎれさせました。
『またきえた!?』
シロンもびっくりです。
シュガーといっしょに気配を探っても、まったく感じられません。これでは、またどこから襲われるかわかりません。
「エミル、どう?」
エイルはきょろきょろしながら、ユーレイが見える妹にたずねます。
「うん、わたしならなんとなく、気配が読める……」
「わかった。なら、出てきたら教えて」
エイルの反応速度があれば、エミルが察知すると同時に攻撃できるでしょう。この姉妹だからこそできる、コンビプレーです。
そのとき……エミルの右手の指輪が一つ、チカチカッと光りました。
これは、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィアが宿っている指輪。彼女が、なにかエミルに伝えたいことがあるというサインです。
(エミル様、今回は私におまかせいただけませんか?)
(……もしかして、クリスティーヌさんに対抗しようとしてる?)
エミルには、彼女の考えはお見通しでした。
シルヴィアがエミルに特別な感情を抱いていることは、とてもよくわかっています。さっきのクリスティーヌの戦いぶりに、心を動かされたのでしょう。
(ええ、そうです! 私も負けていられないのです!)
シルヴィアも、臆面もなく言い切りました。こうして心がつながっている以上、エミルにかくしごとは通じないと、彼女もよくわかっているのです。
(わかった。おねがいするね)
(はい! ありがとうございます! かならず、お役に立ってみせます!)
エミルはあっさりと承諾しました。
魔法の強さは、なによりも本人の気持ちが大事なのです。やる気にあふれているということは、それだけ強いチカラが出せるということ。そして、それが空まわりしないように指揮するのが、ウィザードであるエミルの役目なのです。
「いったんもどって、ふたりとも!」
エミルが指示すると、シロンとシュガーの体が光の粒子となって、それぞれ指輪の中へ、すうっと吸いこまれていきました。
エイルのような、超人的な身体能力のないエミルの戦い方は、パートナーのワンダーに自分の代わりに戦ってもらう指揮――"コマンド"と呼ばれるスタイルです。ただし、パートナーに与えるマナが分散してしまうので、一度に指揮できるのは一体ずつ、という制約があります。
「シルヴィア!」
エミルの呼びかけに応え、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィアが、オレンジ色の光とともに目の前に召喚されました。美しい銀色の髪をふわりとなびかせ、つやめく褐色の肌を輝かせて、キメ顔を見せつけます。エミルへのアピールも欠かしません。
その日の気分に合わせて、魔法でファッションを変えるのも、彼女のこだわりです。きょうはエミルとおそろいの紺色のベレー帽に、肌によく映える白を基調としたベストとショートパンツという、狩人風のスタイルに身を包んでいます。
「おおっ……!」
地べたにへたりこんだまま、震えて動けなかったホワイトホープの三人も、思わずその姿に見とれていました。
ムリもありません。エルフという種族は、人間よりすべてにおいてずっとすぐれているといっても過言ではなく、姿かたちも美しく整っているのですから。その美しさは、絵にも描けないほどです。
ユラリ……
「お姉ちゃん、わたしのうしろっ!」
エミルは、消えたデュラハンターの気配を背後に感じ、叫びました。
シルヴィアがハッとして、エミルのうしろへ目を向けようとした、そのときには……
ガキィーンッ!
すでにエイルが地面をけって飛びこんでおり、エミルに向かって振り下ろされた剣を受け止めていました。
『さすが、お義姉さま……』
シルヴィアは驚嘆の声をもらします。
自分がエミルを守れなかったことはくやしいですが、エイルの手際があざやかすぎて、感激と尊敬のほうがまさっているようです。
『オオオ……』
デュラハンターは、まず力の弱いエミルからしとめようと思っていたのでしょう。そのもくろみがくずれて、ほんのすこしあせりが見えました。……顔はありませんが。
そして、その体はまたしても闇にまぎれようとしています。
「逃がさないで! シルヴィア!」
『はい!』
エミルが杖をつきつけると、シルヴィアは両手をかざしました。その全身が、ぱあっとオレンジ色の光に包まれていきます。
すると……
ニョキ……ニョキニョキニョキ!
なんと、デュラハンターの足もとから、ツタ状の植物がぐんぐん伸びていき、その巨体をぐるぐるとからめとったのです!
『オオオ……!』
デュラハンターは身をよじって、力まかせに引きちぎろうとしますが……
『無駄です! そのツタは、私とエミル様の絆の強さそのものなのですから!』
シルヴィアは、聞いているほうがはずかしくなるようなセリフを言い放ち、不敵に笑ってみせます。
ですが実際、そのしばる力は強く、デュラハンターはなかなかほどけないようでした。エルフは森の住人――このような植物を使った魔法は、お手のものです。
「ナーイス! やるぞ、エクス!」
エイルはニッと笑うと、指輪の中にいるパートナー……【聖王剣精エクシリア】に呼びかけます。
すると、エイルの両手ににぎられた二本の剣が、ぴかっと輝いて一本の黄金の大剣に変化したではありませんか。
エイルが得意とするスタイルは、ホワイトホープのリーダーと同じく"アームド"。"コマンド"でパートナーに戦わせることもありますが、やっぱり自分の体を動かすのがいちばん好きなのです。
エイルはひらりと飛び上がり、黄金の大剣を振り下ろしました。――相手の身をしばるツタもろとも、デュラハンターの体を一刀両断です!
『オオオ~!』
絶大なダメージを受け、デュラハンターは悲痛なうめき声をあげました。
『ああっ! 私とエミル様の、絆の証がっ!』
同じくシルヴィアも、ツタを切られたことで悲痛な声をあげるのでした。
彼女の深い愛情も、まだまだ姉妹の絆にはかなわないということなのでしょうか?
「すごい……」
ホワイトホープの護衛を引き受けていた、両手に【クマロン】をアームドさせているクリスティーヌも、感激で目をまんまるにして見つめています。
「待て……! まだ、生きてるぞ!」
ホワイトホープのリーダーが叫びました。
彼の言うとおり、デュラハンターは致命傷を負ったものの、まだ消えてはいません。
それどころか、戦場跡にただよう怨念をじわじわと吸いこんで、体を再生しようとしています。回復してまた闇にまぎれられる前に、早くとどめを刺さなければなりません。
「エミル! シル! あとは、よろしくっ!」
エイルはそう言うと、デュラハンターの前からぴょんと飛び退き、エミルとシルヴィアの前をあけました。
「うん! シルヴィア、準備はいい?」
『はい! いつでも!』
エミルは指揮者のように杖を振るい、シルヴィアはそれに合わせて、美しい声で歌うようになにかを詠唱します。エルフの言葉なのでしょう。人間には意味がわかりません。
そして、詠唱が進むごとに……デュラハンターの足もとにオレンジ色に光る魔法陣がひろがり、文字がひとつ、またひとつと書きこまれていきます。
やがて詠唱が終わり、魔法陣が完成すると――
「『《ソール・アセンション》!』」
エミルとシルヴィアの声が重なり、魔法陣からカッと光の柱が立ちのぼって、デュラハンターの全身を包みました!
『オオ……オ……』
苦しむようだったうめき声も、しだいに安らかなものへと変わっていき――やがてその体は、きらめく粒子となって、光の柱にみちびかれるように、天へとのぼっていくのでした……
「これが……話に聞く"浄化のチカラ"……それをあつかう、"雨あがりの聖女"……!」
クリスティーヌは、驚嘆のまなざしでエミルの小さな背中を見つめていました。
どんよりしていたこの"メレフレアル戦場跡"には、いつのまにかやわらかな陽の光が差しこんできて……地面にも、あらたな命が芽吹きはじめています。
"浄化のチカラ"は、悪意や怨念をはらいのけるチカラ。"雨あがりの聖女"は、そのチカラを使いこなし、希望の光でくもり空を切り裂くエミルの姿から贈られた二つ名なのです。
「『戦場をさまよいし魂よ、どうか安らかに……』」
エミルとシルヴィアは、目を閉じて祈りをささげました。魂を浄化され、天にのぼっていったデュラハンターの冥福を……
「……これでよし! よくやったね、ふたりとも!」
エイルはニカッと笑いながら、エミルとシルヴィアを両手でぎゅっと抱き寄せました。ふたりの白と褐色のほほが、うれしさでほんのり赤く染まります。
かくして姉妹は、"冥土の狩人"【デュラハンター】の討伐に成功したのでした。
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