第7話 メイドさんと冥土の狩人
おどろおどろしい"メレフレアル戦場跡"にて、ウィザードチーム"ホワイトホープ"の三人と、メイドのクリスティーヌが対峙しています。
クリスティーヌの主人である姉妹とパートナーたちは、少しはなれた彼女のうしろ側で、なりゆきを見守っていました。観戦モードに入った、とも言えます。
「《空間隔離》!」
三人のうち、杖を持っている男が唱えると、男たちとクリスティーヌのまわりの空間が、透明な膜でふわりと包みこまれました。
ウィザード同士の"決闘"では、町の景観や自然環境を守るため、魔法で専用の空間を作り出すのが暗黙のマナーとなっています。この空間内であれば、どれだけ暴れても、まわりの建物や地形に影響を与えることはありません。
「ルールは、どちらかが負けを認めるか、戦闘不能になるまで続ける。負けたほうは、いさぎよく獲物をあきらめる。それでいいな!」
「はい、かまいません」
クリスティーヌの栗色の瞳には、おそれの色がまったくありません。むしろ、自分の勝利を確信しているかのようです。
それがまた気にさわったのか、リーダー格の男が顔をしかめて確認します。
「本当にいいんだな? 一人で俺たち三人を相手にすることになって!」
「はい、それもかまいません。むしろ、エイル様とエミル様までもが加わっては、勝負になりませんでしょうから」
そのひとことが、ホワイトホープのプライドをおおいに刺激しました。
『クリちゃんてば、めっちゃあおってる!』
エミルの肩の上で、シロンがぴょこんと跳ねました。すっかり興奮ぎみです。
「あおってるというか、思ったことをそのまんま言ってるだけじゃないかな……」
エミルはたははと苦笑い。
「なんにしても、クリちゃんのお手並み拝見だねえ」
エイルはというと、シュガーが持ってきたおやつのカップケーキを、むしゃむしゃと食べていました。あちこちをユーレイがうろついている、このブキミな荒野で、よくそんな食欲があるものです。
「行くぞ!」
リーダーの号令に、
「「おおっ!」」
残る二人がこたえ、決闘がはじまりました。
ホワイトホープの三人は、それぞれ右手をかざします。すると、はめられた指輪――コネクタリングから、光とともにパートナーのワンダーたちが現れました。
「くらえ! 《ウインドブラスト》!」
後方で杖を構えた男が唱えると、彼のパートナーである全身まっしろなワシ――【ホワイトイーグル】が、力強い羽ばたきとともに、圧縮した風を発射します。
人間は魔法を使うことができません。そのかわり、自分の生命エネルギー――"マナ"を、指輪を通じてパートナーのワンダーに与えることができます。
それをもちいて、パートナーが人間の代わりに魔法を発動させる……これがウィザードの戦い方なのです。
さて、圧縮された風の弾丸が、クリスティーヌにせまります。
エミルたちは、思わず身を乗り出しました。ですが、心配はしていません。
クリスティーヌが、いったいどんな手でこの攻撃をしのぐのか……それが楽しみでたまらないという、期待に満ちたまなざしでした。
ドッパーン!
空気が弾ける音が、結界じゅうに響きわたります。
土煙がもうもうと巻き上がり、クリスティーヌの姿を覆い隠してしまいました。
「どうだ!」
リーダーは、ニヤリと勝ち誇ります。
しかし……後方で観戦している姉妹たちもまた、勝ち誇ったようなほほえみを浮かべていました。
三人は気づいていないようですが、彼女たちにはわかっていたのです。クリスティーヌが、いまの攻撃をまったくものともしていないということが。
ブワッ!
土煙が一気に吹き飛び、クリスティーヌの姿があらわになります。
「なっ……!」
ホワイトホープの三人は、あぜんとしました。
クリスティーヌは、まったくの無傷でした。両手には、なんというのでしょう……イガグリを思わせるような、トゲトゲしたグローブのようなものをはめています。
『なにあれ!?』
『両手が、トゲトゲチクチクしてます!?』
シロンとシュガーも、おくちあんぐりです。
「あれは……【クマロン】の両手のイガイガだね。それを自分の両手に装備する、"アームド"だ」
エミルが解説しました。
【クマロン】というのは、栗色の毛を持つかわいらしい小グマ型ワンダーで、両手がイガイガのように硬質化した毛皮でおおわれているという特徴があります。
そして"アームド"とは、ワンダーの体を武器や防具に変化させて、自分の身を武装するというウィザードの技術のことです。
「残るお二方、まだ攻めの手があるのなら、どうぞ」
クリスティーヌはボクシングのごとく、両手のイガイガを構えると、挑発的に言い放ちました。
その意図は、エミルには理解できます。後悔のないように、相手の手の内をすべて披露させようというのでしょう。なんともメイドらしい、紳士的な発想です。
「くっ……つくづく、なめやがってえぇっ!」
リーダーは激昂すると、パートナーの大きな白鳥【ドハクチョウ】と、自分の剣を合体させました。
それによって生まれた、白く美しい長剣を構え、クリスティーヌに突っ込んでいきます。
残るもう一人も、パートナーの白いイノシシ【ホワイトボア】を、頑強そうな白い鎧に変化させて装備。どっしりと身を低くして、ショルダータックルをかましてきます。
「きれいだねー」
エイルはカップケーキをかじりながら、素直な感想をもらしました。
"ホワイトホープ"と名乗るだけあり、そのパートナーもアームドも、白一色でとても美しいです。
「でも、シロンとシュガーにはかなわないけどね」
エミルは、うれしそうな顔の白いパートナーたちをぎゅっと抱きしめて、ちょっぴりとくいげにほほえむのでした。
そして、長剣とタックルが同時にせまるなか、クリスティーヌはふうーっと息を吐きました。
「せりゃあーっ!」
振りかぶった右手で、渾身のストレートを放ちます!
ドグシャアーッ!
「「ぐわあーっ!」」
ホワイトホープの二人は、衝撃で武装を砕かれ、盛大にふっとばされました。
「ふんぎゃ!」
空を飛んだ二人は、後方にいた杖の男めがけて落下。下敷きになった杖の男も、ぺしゃんこになりました。
同時に、まわりを包んでいた結界が消えていきます。
これは、結界が決闘の決着を認めたということ。勝敗はもちろん、だれがどう見ても、クリスティーヌの勝利です。
『わーい! クリちゃんがかったー!』
エミルの腕の中で、シロンはシュガーとともに歓喜しました。
「クリちゃん、やるなあ」
エイルも、カップケーキのクリームがついた指をぺろりとなめて、満足そうにしています。味にも、結果にも。
「うん、それに、わたしが思ったとおり……クリスティーヌさんは、ワンダーに好かれてる。そうじゃなきゃ、あんなに強いチカラは発揮できないよ」
エミルは、青い瞳をきらきらとかがやかせていました。同時に、やっぱり自分の見る目はまちがいじゃなかったのだと、ほっと安堵していました。
「ぐ……くそ……!」
ホワイトホープの三人は、仲よく地べたに転がってくやしがっていました。
せっかくのおそろいの白いコートも、土ですっかり汚れてしまっています。
――そのとき!
「!」
エミルは、一瞬、強い悪寒を感じました。
「あなたたち、逃げてっ!」
気がつくと、三人に向かって叫んでいました。
三人は、頭の上に「?」を浮かべます。ですが、その理由はすぐにあきらかになりました。
ユラリ……
彼らの背後に、いつのまにか薄紫の鎧の首なし騎士が立っていたのです。
騎士は、倒れている三人に向けて、ナタのような巨大な剣を右手で振り上げていました。
あんなもので斬られては、ミイラ取りがミイラならぬ、首なし取りが首なしになってしまうでしょう。
三人は背を向けているので、その姿は見えません。ですが、殺気と冷気はビンビンに感じられ、全身が震えあがっていました。
首なし騎士の剣が、振り下ろされようとした瞬間――
ガキィーン!
エイルが騎士の前に割りこみ、その一撃を受け止めて、三人を守ったのでした。
「エイル様!?」
クリスティーヌは、はっと息をのみます。
エイルは、彼女のうしろで決闘を観戦していたはずです。それが、ふっとばされたホワイトホープの三人のもとまで一瞬で移動したとなると、すさまじいまでの反応と速度です。
王国最高峰の称号、極星ウィザード……話には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると、その能力は想像をはるかに超えていたのでした。
「お前ら! 負けたら獲物はあきらめる約束だぞ! さっさと帰れ!」
エイルは首なし騎士の剣を受け止めたまま、背後のホワイトホープに命じます。
しかし、三人はすっかり腰を抜かしており、ただ震えるばかり。とても動けそうにありませんでした。
エイルもそれを瞬時に判断し、
「クリちゃん! こいつら守ってて!」
クリスティーヌに、彼らの護衛をたのむのでした。
「は……はい!」
クリスティーヌも、ほんの一瞬とまどいますが……すぐに駆け出しました。さすがは優秀なメイド、仕事が早いです。
「エミル!」
「うん! いくよ、シロン、シュガー!」
エミルもまた、ふところから杖を取り出し、パートナーたちとともに臨戦態勢に入ります。
こうして、ちょっとしたトラブルはありましたが……"冥土の狩人"【デュラハンター】の討伐ミッションがスタートしたのです。
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