第6話 戦場跡の遭遇
【ニュードウルフ】のシロは、エイルとエミル、クリスティーヌを背に乗せて、王都の外を南西へと駆けていました。
シロンとシュガーは、パートナーのエミルの両肩に乗っかっています。シロに乗るときはいつも、ここがふたりの定位置なのです。
「速いですね、エイル様、シロ様!」
最後尾のクリスティーヌは、エミルを守るようにしがみつきながら、興奮ぎみに言いました。
「シロに様なんて、つけなくていーよ」
エイルが笑うと、『ワン!』とシロも、自分からそう言うかのように元気よく鳴きます。
「いえいえ! こんなにりっぱなオオカミ様なのに、そんなおそれおおいことは……」
クリスティーヌは、ぶんぶんと首を振って否定しました。
そのやりとりがなんだかおかしくって、エミルとシロンとシュガーは、声をそろえて大笑いしました。
一時間近く走ったところで、一行は目的の"メレフレアル戦場跡"にたどりつきました。
まだ昼間で、空も晴れているはずなのに、あたりはうす暗く、おどろおどろしい雰囲気の荒野です。かわいた風がひゅうっとふくたび、くずれかけた石垣や折れた槍が、カタカタと不気味に鳴りました。
『なんだか、ゾクゾクします……』
シュガーは、ぎゅっと自分の体を抱きしめながら言いました。
これはけっして、興奮しているわけではありません。周囲の雰囲気に、悪寒を感じているのです。
「そうだね……あっちこっちに、さまよってる魂を感じる……」
エミルは、神妙な顔つきで言いました。
エミルは幼いころ、死後の世界を経験したことで霊感を獲得し、ユーレイが見えるようになってしまったのです。
彼女の目には、戦場跡にただよう霊魂の姿が、気のせいではなく、はっきりと見えています。
「エミル、だいじょうぶ?」
エイルはそんな妹を心配しますが、
「だいじょうぶ。ユーレイには慣れてるから。でもこのあたりの空気は、ちょっとヤダな」
エミルは、けろっと笑ってこたえました。けれど、そのひたいには、冷や汗がにじんでいます。
「ご無理をなさってはいけませんよ、エミル様」
クリスティーヌも同じように心配してくれますが……
「ありがとう、クリスティーヌさん。でもわたしは、ウィザードで、冒険家なんだもん。これくらい、へっちゃらです!」
エミルはにかっと笑って言うと、まっさきにシロの背中からぴょーんと降りてみせました。
エイルもひょいとそれに続き、クリスティーヌもとまどいながら、おそるおそる飛び降ります。
「シロ、それっぽい気配はある?」
エイルは、三メートル近い体高を誇るシロの顔を見上げて、たずねました。
シロは、まわりを見渡しながらスンスンと鼻を動かし、探索します。
さがしているのは、賞金首のワンダー、"冥土の狩人"【デュラハンター】。
何人ものウィザードを葬ってきたほどの強者なら、強い気配を放っているはずです。すぐに見つかるでしょう。
『かくれんぼのまほう、つかってないといいけどね』
『相手がオバケなら、そもそも気配を探れないかもしれません』
エミルの両肩のシロンとシュガーが、するどい指摘をしてきます。
たしかにふたりの意見も一理ありますが……
『ワン!』
その心配はいらなかったようです。シロが、ぴくりと耳を立てて反応を見せました。
シロが見つめる方角を見すえ、エミルたちが身構えると……
「んー? なんだ、先客がいたのか」
現れたのは、それぞれ白い馬のワンダーにまたがった、三人の男性でした。
三人はエミルたちの目の前まで近づくと、ワンダーの背から降りてきます。
「俺たちはウィザードチーム、"ホワイトホープ"。ここには、【デュラハンター】の討伐に来た。もしかして、君たちも?」
「え? そうだっけ?」
エミルたちは、ずっこけました。
エイルお姉ちゃんときたら、なんと討伐対象の名前を忘れてしまっているのです。
これでは話にならないと、エミルが前に出ようとすると……
「エミル様、ここは私に」
クリスティーヌに制されます。どうやら、従者であり、年長者でもある彼女が応対するべきだと判断したようです。エイルも同い年ですが、あきらかにこういう交渉ごとは苦手そうなので。
「はい。私たちも同じ獲物を狙って参りました」
かわいらしいメイドさんが話を切り出したことで、ホワイトホープの三人は面食らいました。
とくにうしろのふたりは、声もかわいいだの、スタイルがいいだのと、ひそひそ話し合っています。
それについてはエミルも同意見ですが、どうも彼らの目つきがいやらしく見えるので、なんとも冷ややかな視線を送ってしまいます。
「そうか。それなら、俺たちにゆずってもらえないか?」
「え? いやだけど」
リーダー格の男性が提案するやいなや、エイルがすかさず口をはさんで却下しました。
これについても、エミルは同意見です。協力するのならまだしも、ゆずれだなんて、まるで横取りされるみたいで、気分がよくないのです。
リーダー格の男性は、むっとした顔で、こちらをにらんできます。エイルのような小娘に反抗されて、ナマイキだとおもしろく思っていないのでしょう。
「君たち……失礼だが、見たところまだ子どもじゃないか。知らないのか? 【デュラハンター】はこれまで、五等星以上のウィザードを何人も葬ってきたんだぞ」
「わたしは三等星、彼女は四等星で、姉のほうはそれ以上ですけど、問題あります?」
今度はエミルが口をはさみました。自分とクリスティーヌ、そしてエイルを、かわりばんこに指さしてアピールします。
なんだかんだエミルも、リーダー格の態度にカチンときていたようです。大好きなお姉ちゃんや家族を下に見られては、だまってはいられません。
エミルたちの等級を聞いて、リーダーはたじろぎ、うしろのふたりもどよめきます。
「は……ははっ、ウソを言っちゃいけないなあ」
『シロンたちをみても、うそだっておもう?』
『ワン!』
白いチビドラゴンのシロンと、白い大きなオオカミのシロが、ふんっと鼻息を鳴らしました。
「あれ……【ニュードウルフ】だよな?」
「四等星以上っていうのも、マジなのかも……」
三人のどよめきが、さらに大きくなりました。
ザンネンながら、シロンのほうは完全にスルーされているようです。シロンはぷうっとほっぺをふくらませました。
「ちっ……だが、それが本当だからといって、俺たちは獲物をゆずる気はないぞ。あいつの懸賞金が手に入れば、拠点を買うための資金がたまるんだ。そして俺たち"ホワイトホープ"はチームからギルドに格上げし、王国じゅうに名を轟かせる存在になるのさ」
「どうでもいいよ、そんなこと」
リーダーが熱弁する夢を、エイルはバッサリと斬り捨てました。
これまたエミルも同意見でしたが、
(さすがにこればっかりは、言葉を選んでほしかったな……)
と、心の中でつぶやきます。
夢を一蹴されたホワイトホープが、はっきりとした怒気を向けてきました。クリスティーヌは彼らをなだめようと、おずおずと口を開きます。
「で……では、私たちとあなたたちで、協力して討伐にあたるというのはどうでしょうか? 懸賞金は、二組で半分ずつ分けるということで……」
「断る」
リーダーの男は、腰に差した長剣をすらりと引き抜きました。
うしろのふたりも、それぞれ杖と大剣をかまえます。
完全に、こちらとやり合う気まんまんの様子です。
「うっ……」
もはや話し合いは無意味と察したクリスティーヌは、のけぞって顔をひきつらせます。
「もう、お姉ちゃんてば、はっきり言いすぎ!」
エミルはふところから杖を取り出して、あきれ顔でエイルをしかります。そうは言っても、内心ちょっとスッキリしたと思っているのは、ナイショです。
「だってさ、あいつらの話、つまんないんだもん」
エイルはやる気なさそうに、しょうがないなぁという様子で、腰の剣に手をかけました。
シロもシロンも、やる気じゅうぶん。
ただひとり、シュガーだけは、おろおろするばかりでした。
「お待ちください、エイル様、エミル様」
そこに、立ち直ったクリスティーヌが、姉妹を制して前に出ました。
「話し合いに失敗したのに、まだなにかやるの?」
エイルがふきげんそうに言いました。
「そ……それについては、もうしわけありません! で、ですから、その責任を取らせてほしいんです」
「責任?」
すると、クリスティーヌは、くりっとしていた目をすっと細め、ばっと右手をひろげます。その指には、三つの指輪がはめられていました。
「この場は、私が一人でおさめてみせます」
その一言とともに、彼女の体から強烈な覇気が放たれたのを、この場のだれもが感じました。
「……!」
とくにホワイトホープの三人は、全身がびりびりとしびれるほど、おののいています。
「一人でって……一人で俺たちを相手しようっていうのか!?」
そんな中でもリーダーは、負けじとクリスティーヌに言い放ちます。
「はい、そう言いました。さあ、ウィザード同士、"決闘"をはじめましょう」
ふだんは砂糖のように甘いクリスティーヌの声が、ひんやりと冷気を帯びて、シャーベットのように、戦場跡にひびくのでした。
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