第5話 歓迎会と冒険
メイドのクリスティーヌの歓迎会をするために、姉妹がやってきたのは……
「……どうして、ラーメン屋さんなの?」
エミルはあきれて、こてんと首をかしげます。
そこは、エミルが王都に来たばかりのころ、エイルに教えてもらった店でした。ネコ獣人たちが切り盛りする、ラーメン屋さんです。
「えー? エミル、ラーメンきらいだっけ?」
「べつに、そういうわけじゃないけど……」
たしかに、エミルもラーメンは大好物です。お昼ごはんにはぴったりの店だとも思います。けれど、今日は歓迎会。それも、メイドさんの歓迎会です。どう考えても、ミスマッチと言わざるを得ません。
主賓のクリスティーヌは、そんなエミルの気持ちを見ぬいたように、にこやかにほほえみました。
「私はかまいませんよ。ラーメン、大好きですから」
「だってさ」
『シロンも、ラーメンだいすき! きがあうね!』
「うーん……」
なんだか、気をつかわせちゃったみたい……とエミルは思いました。でも、本人がイヤがっていないなら、まあいいか、と折れることにします。それに、エミルだってなんだかんだで、ラーメンが食べられるのがうれしいのです。
姉妹たちはお店のすみっこのテーブル席に着き、乾杯をして、さっそく食事をはじめました。
テーブルの上には、ラーメンにギョーザ、チャーハンにシューマイ、からあげ……お皿がところせましと並べられ、どれもほかほかと湯気を立てています。
とくに、食いしんぼうのエイルとシロンの食べっぷりはすさまじいものでした。歓迎会なんてそっちのけで、次から次へと、空のお皿の山をつみ上げていきます。
エミルもふたりにはおよばないものの、もりもりと食べました。シュガーは小さな妖精なので、ミニどんぶりのラーメンを、ちゅるちゅるとすすっています。
そして、いちおう今回の主役であるはずの、クリスティーヌはというと……
「ん〜! とってもデリシャス!」
なんと、エイルやシロンに負けないくらいの量を、ぺろりとたいらげていたのです。
なるほど、これだけ食べられるのなら、大量の料理をひとりで作ることだってできそうです。
けれど、問題はそこではありません。さらに食費がかさんでしまいそうなのです。
(人選、まちがえたかな……)
エミルは、いまさらながらちょっぴり後悔しました。ロウランさん、オーディションの種目に、大食い対決もくわえてほしかったなあ、なんて思いながら。
「どう? シュガー、おいしい?」
そんな悩みをふりはらうように、エミルがたずねます。すると、
『はいっ! 外の世界って、ほんとうにおいしいものであふれてるんですねっ!』
シュガーは、ぱあっと満面の笑みでこたえました。
その笑顔を見ていると、なんだかうれしくなって、エミルも気持ちを切りかえます。あらためて、食事を心から楽しむことにしました。
☆ ☆ ☆
「あー食べた! おいしかった! ごちそうさま!」
『もうたべらんないよ〜!』
エイルとシロンは、ご満悦の顔で、ぽんぽんにふくらんだおなかをさすっています。
「私も、こんなに食べたのはひさしぶりです〜」
クリスティーヌも、すっかりゆるんだ顔で、おなかをおさえていました。メイドとしてはあるまじき姿ですが、それを指摘しようとする者は、この場にひとりもいません。
「……よろこんでくれたなら、なによりです」
エミルは苦笑いをうかべて、思ったままを口にしました。
そのかたわらでは、シュガーが満足げな顔で、テーブルの上にちょこんとすわりこんでいます。
歓迎会というわりには、ただ食べていただけでした。それでも、おたがいのことがなんとなくわかった、有意義な時間だった……と言えなくもない、のでしょうか?
エミルがそんなことを考えているうちに、会はおひらきとなりました。
姉妹たちは、ごちそうさまを言って、ラーメン屋さんをあとにするのでした。
☆ ☆ ☆
お店を出たところで、エイルがくるりとふり返りました。
「次は、みんなでいっしょに冒険に行こうか!」
エイルの突然の提案に、エミルたちはまたぎょっとしました。
ふだんなら、べつにかまいません。けれど、今日はクリスティーヌがいるのです。メイドさん同伴で冒険なんて……
……いえ、よく考えたら、過去にひとりいました。そういう人が。じゃあ、いいのかな? と、エミルはむりやり自分を納得させるのでした。
「私は、かまいませんよ。どこまでもおともします、ご主人様がた」
クリスティーヌは、エミルの考えをまた見ぬいたように、ふんわりとほほえみました。
ハピネスワークスのオーディションでは、冒険が得意かどうかまでは審査していませんでした。だって、メイドさんに必要なスキルではありませんから。
『クリちゃんって、つよいの?』
シロンが、こてんと首をかしげてたずねます。こういうとき、思ったことをすぐに口に出せるシロンの性格を、エミルはいつもうらやましく思っているのでした。
「強いかどうかは、わかりませんが……サバイバルの訓練は、ひととおり受けています。それに、いちおう四等星ウィザードの称号も持っていますよ」
ウィザードには一等星から十等星までの等級があり、数字が小さいほど高い等級をしめします。
エイルは、一等星よりさらに上の極星。エミルは三等星で、クリスティーヌよりひとつ上の等級にあたります。
「じゃあ、問題ないね」
おバカなエイルも、さすがに妹の等級くらいはおぼえています。あっさりと言いました。
エミルも、それだけの腕前があるなら、いっしょに行ってもだいじょうぶそうだな、と思いました。それに、冒険の中でならクリスティーヌのことをもっと知れますし、なかよくなれるかもしれません。恋人のユーリとだって、出会って一週間で深い仲になれたのですから。
『それで、どこにいくの?』
シロンは、わくわくと目をかがやかせて、エイルを見つめます。
となりでは、本好きのシュガーも、ぴょこんと身をのり出していました。最近は、エミルから借りた冒険物語に夢中なのです。キラキラとした瞳が、期待でいっぱいです。
「じつはねー、さっき、おもしろそうな話を聞いたんだよね」
そう言うと、エイルは一枚の紙を取り出しました。
それは、ワンダーの討伐手配書でした。書かれたワンダーを討伐して狩猟ギルドに報告すれば、決められた金額を報酬として受け取ることができるのです。
「討伐か……」
エミルは、ちょっぴり浮かない顔になりました。
そんなエミルは、どんな生きものであっても、命をうばうことにつよい抵抗を感じる女の子です。けれど、そうしなければならないときがある、ということも、ちゃんと理解しています。
『なんか、つよそう……』
シロンは、手配書の絵を見て、きゅっとまゆをひそめました。
そこに描かれていたのは、全身にうす紫色のよろいをまとった、首なしの騎士でした。本来あるはずの頭のかわりに、首の上では、人魂のような紫の炎がゆらゆらと燃えさかっています。
「"冥土の狩人"【デュラハンター】……南西の"メレフレアル戦場跡"の近くに出没して、ウィザードを何人もほうむってきた、とても危険なワンダー、か……」
「そうだよ。メイドさんにぴったりでしょ」
冥土とメイド……音が似ているだけで、意味はほとんど正反対です。
「それに、エミルにもぴったりだと思ったんだよね」
エイルは、ぱちんとウインクしました。
エミルは、はっとして、ほおを赤くします。
やっぱりお姉ちゃん、わたしのこともちゃんと考えてくれてたんだ……と、見直したのでした。
「なるほど! エミル様は、"浄化のチカラ"を使える"雨あがりの聖女"さまですものね!」
クリスティーヌは、ぱんと手を合わせて、ぱっと顔をほころばせました。
"浄化のチカラ"とは、悪いモノをはらうチカラのことです。相手が幽霊系のワンダーなら、たしかにとても有効でしょう。
しかも、このチカラを使えるウィザードはそれほど多くありません。その中でも、エミルのチカラの強さは飛びぬけているのです。
「そう……だね。たしかに、わたし向きかも」
クリスティーヌにほめられたこともあって、エミルも、少しずつ乗り気になってきました。
それに、何人も犠牲者が出ているのなら、ほうってはおけません。手配書が出まわっているのも、それだけ困っている人がいるからです。そう、いまこそ、"そうしなければならないとき"なのです。
『報酬のおカネも、すごい金額ですよ。これだけあれば、お菓子屋さんごと買えちゃいそうです!』
シュガーは、手配書に書かれた賞金の額を見て、ぴくんと羽をふるわせました。
さすがに、お店ごと買うのはむずかしいでしょう。それでも、食費の大きな足しになることはまちがいありません。エイルはもしかして、そこまで考えてくれたのかも、とエミルは思いました。
「というわけで! 私たち三人とパートナーズで、このデュラハンターを退治しにいくぞー!」
「『おー!』」
エイルとシロン、クリスティーヌは、元気にこぶしをつき上げました。
同じ店のラーメンを食べたおかげか、すっかり打ちとけたようです。
エミルとシュガーも、ワンテンポおくれて、苦笑いしながら手をあげます。
――こうして一行は、デュラハンター退治の冒険へと、出かけることになったのでした。
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