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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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89/100

第89話 マナ

「す……すげえ……」


 シロとともに離れた場所へ避難したホワイトホープの三人は、空間魔法のドームの中でぶつかりあうエイルと、双頭の黒竜――ブラックラックDDの戦いに、すっかり見入っていました。


 エイルの十倍以上もある、ケタはずれの巨大怪獣を相手に、互角以上にわたり合っている……。"巨獣狩りの剣星"にふさわしい暴れっぷりに、ごくりとのどを鳴らし、舌を巻くばかりです。


「どわーっ!」


 ドゴォォン! もうもうと土けむりがあがり、エイルはまた地面にたたき落とされました。本日、これで何度目になるのか、もう数えきれません。


 はた目には五分以上の戦いに見えても、実際は、黒竜にこれといったダメージは与えられておらず、こちらはボロボロ。遠くからでは気づきにくいものの、かなりの劣勢でした。


 何度か、弱点の逆鱗を狙ってはみたのです。けれど、相手は頭が二つ、こちらは体がひとつ。どちらか片方を狙えば、もう片方がジャマをしてくる、というぐあいで、なかなかスキがありません。


「体はひとつなのに頭がふたつって、よくケンカにならないよな~」


 エイルは、高いところからこちらを見下ろしてくる二つの顔を見上げながら、感心したようにつぶやきました。


 逆鱗狙いが読まれるなら、もう力まかせにぶった斬るしかない。エイルはそう結論づけるのですが、それはそれでますますむずかしい注文というものでしょう。そもそも黒竜は、ウロコが硬すぎるうえに、なにより大きすぎます。だからこそ、手っ取り早く弱点を狙おうと思っていたのですから。


 となると、やっぱりあの、"無敵な感じ"がほしいところです。エイルはおバカですが、生き残るすべをきざみつけるだけの頭はあります。何度ふっとばされても、そのたびに、なにかをつかみかけている気はするのです。けれど、どうしても決め手に欠ける……そんなモヤモヤした感じでした。


 そんなとき、エイルはふと気になって、右手の剣に宿るエクシリアにたずねました。エミルがいないときの"考える担当"は、彼女ですから。


「ねえエクス。黒竜って、なんであんなに硬いの?」


『な、なんでって……ドラゴンとはそういう生きもので、黒竜はその最たる存在だからですよ』


 エクシリアは、なにをいまさらといったふうにこたえます。けれど……


「だからさ、なんでドラゴンはそういうふうに硬いんだよ」


『そっ……それは……』


 エイルにさらに問いつめられて、言葉に詰まってしまいました。まるで、「なんで? なんで?」とくりかえす子どもと、こまりはてる親のようです。


 しかし……たとえ子どもっぽい疑問だろうと、それに答えられないのは、剣の精霊としての面目にかかわります。エクシリアは、必死に頭をはたらかせました。


『やはり、マナ……によるところが大きいでしょう』


「マナー?」


 エイルは黒竜の爪をひらりとかわしながら、こてんと首をかしげました。


『ええ。たとえば同じドラゴンで、人の姿になったシロンも、見た目のわりに頑丈でしょう? それは体じゅうに流れるマナをコントロールして、肉体の強さを上げているためです。じつはそれ、ワンダーであれば、みんな自然にやっていることなんですよ』


「どういうこと? なんでそんなことができるの?」


『回復魔法を思い出してください。ワンダーにくらべて、人間には効きが悪いですよね? それはワンダーの肉体が、人間とはちがって、ほとんどがマナでできているためなんです。回復魔法というのは、おもに、失われたマナをおぎなうしくみなのですから。ワンダーが体をじょうぶにするというのは、体をつくっているマナを、いっときだけ体の表面に集めて、ぎゅっと密度を上げる、ということなんです。ドラゴンの肉体は、もともと密度が濃いんですけどね。それだけ、すさまじい生命力を持っているということです』


「?? よくわかんないけど……つまりワンダーはみんな、マナのかたまりってこと?」


『うっ……身もフタもない言いかたですけど……とどのつまり……そういうこと……!』


 エクシリアは、自分の言葉にはっと気がつきました。


 エイルもほぼ同時に、ニヤリと不敵でステキな笑みを浮かべます。


 ようやくつかんだのです。欠けていた――決め手を!


『グロロロォーッ!』


 双頭の黒竜の、らせんの炎が襲いかかりました。


 エイルは二本の剣で、またも炎を斬り払います。それも……これまでよりムダなく、なめらかに。


「魔法は斬れる……つまり、マナの……魔法のかたまりのワンダーだって、斬れる!」


 エイルはあらためて氷の翼をひろげ、高く、高く飛びあがりました。


 双頭の黒竜の頭より、ずっと高く。


 そして二本の剣を、一本の黄金の大剣へと合体させて、さらに高く、かかげるのです。


『グロッ……!?』


 そのあまりにまばゆい輝きに、闇そのものといえる双頭の黒竜は、そろって目をくらませ、身をよじりました。


 消火活動をしていたクラウスも、救助と避難誘導をしていたミリアムも、その輝きに思わず顔を上げます。


「あれは……」


「エイルのくせに、きれいな光出しちゃって……」


 双頭の黒竜は、ぎょろりと目をむきました。そして、エイルを撃ち落とそうと、口の中に火炎をためはじめます。


 さすがは頂点に立つ種族だけあって、彼らにもわかったのです。"いまのエイル"の……みずからの命をおびやかしかねないほどの、脅威が。


「気づいたね! でももう、遅いぞっ!」


 エイルはまた不敵でステキな笑顔を浮かべると――急降下しながら、黄金の大剣を思いっきり振り下ろしました!


 スバアァァァァァッシュ!!!


『グロォーーーーーッ!?』


 その一閃は、ブラックラックDDの胴体を、二つの首のあいだからまっぷたつに断ち割りました。まるで、もとの二体の黒竜に分かれたかのように見えるほどでした。


 やがて、二十メートル近いその巨体は、ゆっくりと光の粒子となってほどけ、天へと昇っていったのでした……


 エイルはふわりと地面におり立ちました。背中の氷の翼が、きらきらとくだけて消えていきます。


「……ふうっ」


 そして大剣のアームドを解いて、もとの二本の剣にもどすと、ひと息つきました。


 同時に空間魔法のドームも消え、戦場の外にいた者たちも、戦いの決着を悟ります。


「うおおおお~~~!!! エイルのアネキィ~~~ッ!!!」


 ホワイトホープの三人は感激の涙を滝のように流し、そのわきで、シロはあきれたようにふうっとためいきをつきます。……もちろん相棒のエイルのことを、誇らしく思ってはいますよ。


「チッ……ほんとうにいまいましいヤツだ」


 クラウスは悪態をつきますが、内心ではエイルの強さを認めているようでした。あくまで強さだけ、ですが。


「まーったく、ホンット、あんたといると退屈しないよ!」


 ミリアムも、地面にぺたんとすわりこみながら、苦笑いを浮かべました。


「ぐ……!」


 すると、食べられていたはずの白いフードの人物と、倒れたままだった黒いフードの人物が、よろりと起きあがりました。


 白いフードの人物は、黒竜が消えると同時に、外へ吐き出されたようです。黒いフードの人物のほうは、双頭の黒竜が最初に翼をひろげて突風を起こしたとき、戦いの場の外へはじき出されていたのでしょう。どちらも、命に別状はなさそうでした。


「ありゃ、生きてたんだ」


 エイルは、目をぱちくりさせました。


『体の大きなドラゴンは、消化が遅いと聞きますからね』


 指輪にもどったエクシリアが、説明します。


「"巨獣狩りの剣星"……よくも黒竜さまを……!」


 黒いフードの人物は、ふるえながら、指輪のはまった右手をかざします。


「あんたの仲間、食べられてたんだよ。それでよくまだ、そんなことが言えるよね」


 エイルは、あきれ半分、感心半分にぼやきました。


 白いフードの人物は、黒い杖をつきつけてさけびました。


「まだ、伐天改獣は生み出せる……我らは、負けたわけではない!」


 そして、杖がまた邪悪なオーラをふきだした、次の瞬間――!


 ガチン! ガチーン!


「うわっ!?」


 フードの人物たちの体が、黄色い光の輪にぎゅっとしばりつけられました。


「やれやれ。ただならぬチカラを感じたから来てみたら……俺様の出る幕はなかったようだ」


 エイルのとなりに、いつのまにか、きらびやかな美男子が立っていました。黄色い髪に黄色いスーツ、その上に白いコートを羽織ったその人は、マスターウィザード序列一位――アストライト王国のウィザードの頂点に立つ"地上最速の光星"、ランス・グランシャリオです。


「おっ、キラキラのにーちゃんじゃん」


 エイルは、ちょっとだけおどろいた顔で言いました。


 "地上最速の光星"と呼ばれるだけあって、彼の足の速さは王国一。突然ふっと現れる神出鬼没ぶりは、王都のだれもが知るところです。まあ、知っていても、突然目の前に現れたらびっくりしてしまうものですが……


「最後だけ、チラッと見させてもらったよ。俺様には一歩劣るが、実にビューティフルなきらめきだった」


 ランスは黄色い前髪をさらりとかきあげて、キザっぽくエイルをほめました。


「ありがとう」


 エイルはキザったらしさなど気にもとめず、素直に受け取ります。


「とりあえず、あのビューティフルとはほど遠い二人は俺様が連行しよう。それよりキミは、急いで王都に戻ったほうがいい」


「どうして?」


 エイルが首をかしげると、ランスはふところからタブレットを取り出し、画面を見せました。


「……!」


 そこには、ロウランを手にかけた犯人とされるシオリに加えて、最愛の妹エミルと、ラナまでもが、犯人の逃走を手助けしたとして指名手配された、というニュースが映っていました。


「……シロ!」


 エイルが大声で呼ぶと、シロは『ワン!』と、あっというまにこちらへ駆けつけました。


 そしてエイルはその背にまたがり、一直線に王都へと戻っていきます。


「あ! ちょっとエイル! きゅうにどうしたのよー!」


 ほったらかしにされたミリアムは、立ちあがって、遠ざかる背中に文句をさけびました。


 事態は、あわただしく動きだそうとしていました……



お読みいただき、ありがとうございました。

話数も多くなってきたので、次回から毎日二話更新に戻します。

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