第85話 二体の黒竜
時間はまたさかのぼって――エミルが、シオリを救うために走っていった直後。
エイルとミリアムはシロの背に乗り、王都の北東をかけぬけていました。
一体でさえ非常に危険な黒竜が、二体も目撃された……マスターウィザードのロウラン殺害というニュースでかすんでしまいましたが、こちらも重大な事件でした。
すでに、何組ものパーティーが討伐に動いているようですが、まだ報告はあがっていないようです。
すると……
「エイル、止めて!」
ミリアムに言われて、エイルはシロにブレーキをかけさせました。
見ると、近くの岩場に一組のパーティーが集まっています。どうやら全員ケガをしていて、体を休めているようです。
ミリアムはシロの背から飛び降りて、話を聞きに行きました。
「あなたたち、黒竜討伐に向かったパーティーよね?」
「あ、ああ……残念ながら、このザマだがな……」
リーダー格とおぼしき、精悍な顔つきの男性は、包帯を巻いた腕をおさえながら、無念そうにこたえました。
黒竜に返り討ちにあったのでしょう。みんな致命傷ではないものの、それなりの重傷で、くやし泣きをしている者もいました。
「情報が欲しい。回復薬と交換でどう?」
ミリアムは交渉を持ちかけました。
「ああ……こちらの持っている情報は、すべて出そう。役に立たないかもしれないが……」
「問題ないよ。情報をくれるなら、内容がなんであれ薬はあげるから」
ミリアムがやさしく言うと、男性はこくりとうなずきました。
「黒竜は二体出たって話だけど、もしかして、組んで行動してるの?」
「ああ、おそろしいことにな。だが、それだけではなかった」
「……もしかして、黒い首輪をしてたとか?」
ミリアムは、いちばん気になっていること――"隷属の首輪"の有無についてたずねました。
「いや……そんなものは見当たらなかった。やつらは……背に人を乗せていた」
「なんですって……?」
意外な返事に、ミリアムはおどろきました。
黒竜は強さもさることながら、プライドが高く、人につくことはほとんどありません。ドラゴンの中でも、とりわけあつかいがむずかしい種族なのです。それが二体とも、人に従っているなんて、とても信じられません。
「ウソじゃねえ、マジさ。俺たちもこの目で、はっきり見た!」
「証拠写真だって撮ってるわよ、ほら!」
すると、ほかのメンバーたちが話に入ってきて、女性がカメラで撮った写真を見せてくれました。
ピントはだいぶあまいものの、たしかに黒竜の姿と、その背にまたがる人影らしきものが写っています。
黒竜を従える人間……ミリアムはひとつ思い当たることがあり、さらにたずねました。
「この写真じゃわからないんだけど、黒竜に乗ってた人間、どんな見た目をしてた?」
リーダー格の男性が答えます。
「両方とも、フードとローブで顔を隠していた。一人は白、もう一人は黒……」
「……!」
ミリアムは、はっと目を見開きました。
白と黒のローブの人物……そのどちらにも、かぎりなく心当たりがあったからです。
「……ありがとう。約束の薬よ。あとは、自力で帰れるわよね?」
ミリアムは指輪から荷物持ちのワンダー【フクロー】を呼び出し、人間用とワンダー用の回復薬を吐き出させて、パーティーに手渡しました。
「ああ、すまんな。我々はだいじょうぶだ。君も、黒竜に挑むのか?」
「まあね」
「たったひとりで!? ムチャよ!?」
「心配ご無用。あたしには、最強の相棒がついてるからね」
ミリアムはニシシと笑いながら、親指でくいくいと、向こうで待機しているエイルを指しました。
「あれって……"巨獣狩りの剣星"、エイルか!?」
「そーゆーこと。それじゃ、おだいじにね!」
ミリアムは別れのあいさつをすると、エイルとシロのもとへ駆けていきました。
「どうだった?」
ふたたびシロの背に乗りこんだミリアムに、エイルがたずねます。
「思ったよりめんどうなことになりそうよ。早く行きましょう」
「わかった」
神妙な面持ちのミリアムに、エイルもすぐにシロを走らせました。
☆ ☆ ☆
やがてエイルたちは、二体の黒竜を発見しました。
遠目に様子をうかがうと、どうやら、だれかと戦っているみたいです。
「どわーっ!」
火炎のブレスを受け、悲鳴をあげてふっとんだのは、男性ウィザードの三人組でした。おそろいのまっしろなコートやローブが、まっくろに焦げてしまっています。
さらに、もう一体の黒竜が、口の中に火炎をためているのが見えます。三人組に、とどめをさそうとばかりに。
「行けっ!」
『ワンッ!』
ピンチを見て見ぬふりができないのが、エイルの性分。シロを一気に走らせました。
そして二体目の火炎が、無情にも三人組へ向かって放たれます!
「お、おたすけーっ!」
三人組は身を寄せ合って、泣き叫びました。
その声に応えるように――
シュバァーーーッ!
白とやまぶき色の流星が、紅蓮の炎を切り裂いたのです。
三人組がぽかんと口をあけるなか、そのわきに、エイルとミリアムを乗せたシロがシュタッと着地しました。
「あ、あんた……いや、あなたは……エイルさん!」
三人組は一転して、感激に涙を流しながらエイルを見つめます。
「だれ? 知り合い?」
ミリアムがたずねました。エイルは有名人ですが、三人の態度からして、実際に会ったことがありそうだったので。
「いいや、知らない」
そして案の定、エイルはバッサリと斬り捨てるのでした。
ガーン! という効果音が聞こえてきそうなほど、三人組はショックで石のようにかたまってしまいます。
「お、俺たちですよ! "メレフレアル戦場跡"でお会いした、"ホワイトホープ"です!」
そう……クリスティーヌをむかえてすぐ、【デュラハンター】の討伐先で出会った、ウィザードのチームです。そのクリスティーヌにたたきのめされ、デュラハンターにはびびり散らかし、姉妹の強さにあこがれて、舎弟になりたいとまで言ってきたのですが……
「……だってさ」
「だから、知らないって」
やっぱり案の定、エイルの記憶にはまったく残っていなかったのでした。
『グオオオッ!』
……などと不毛なやりとりをしているうちに、二体の黒竜が、エイルたちにせまってきていました。
「シロ! そいつらまかせた!」
『ワンッ!』
ホワイトホープの護衛をシロにまかせ、エイルは背中からひらりと飛び出しました。ミリアムも飛び降り、狙撃できるポイントまで移動をはじめます。
「わわわっ!?」
そしてシロは、いいつけどおり三人組の服をまとめて口にくわえ、安全なところまで走り去っていきました。
「"巨獣狩りの剣星"か!」
「おそれるな。黒竜を駆るわれらの前では、マスターウィザードですら敵ではない!」
黒竜の背に乗る、白いフードと黒いフードの人物が、声をあげました。
ミリアムも、この目で見るまでは100%信じられなかったようで、おどろきを隠せない様子です。
ですが……相手が何者だろうと、エイルにはまったく関係ありません。
空中で黄金の剣と白銀の剣を引き抜き――果敢に黒竜へ斬りかかっていきます!
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