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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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第83話 真相をつかむために

「ふう……」


 頭につながっていたプリンプの触手がするりとはずれると、メモリーハックを終えたエミルは隠れ家の天井をあおぎ、ためいきをこぼしました。


「終わったの!? で、で、どうだった?」


 ラナが、ずいっとエミルに詰め寄ってきました。


「とりあえず、シオリは無実だよ。まちがいない。凶器の指紋のナゾは、わからなかったけどね」


 エミルが答えると、ラナはほっとしますが……すぐにふるふると首を横にふります。


「それはよかったけど、それだけじゃなくて……記憶の世界って、どうだったの?」


 どうやら、メモリーハックそのものの感想が聞きたかったようです。


「そうだね……やっぱり人の記憶をのぞき見するのって、あんまり気持ちのいいものじゃないかな……」


 でも、ゆうべシオリに見せてもらったときより、いやな感じは少なかった……エミルはついそう言ってしまいそうになりましたが、シオリが記憶のぞきを使えることはヒミツですし、くらべてしまうと、シオリをキズつけかねません。


 それでも、なんとなくそのちがいの理由はわかった気がします。クリスティーナは元盗賊で、きっと人のものに手を出すことへの罪悪感がうすいからでしょう。記憶に関する魔法を使うなら、そういった思考をさまたげるノイズは、ないほうがいいに決まっています。これから、シオリがその罪悪感とどう向き合っていくかが、課題になりそうです……


 クリスティーナは、【エレキクラゲ】のプリンプのぷにぷにの頭をなでながら言いました。


「その子が無実なのはわかったけど、問題は証明する方法がないことね。いまの法律じゃ、記憶映像は証拠としてあつかわれないし……」


 そもそも、人の記憶に関する魔法は、王国では禁止スレスレのあつかいなのです。しかたのないことでしょう。


『なら、やっぱりいちばんの方法は、真犯人をつかまえることね』


 アノニマスはテーブルにほおづえをついて、涼しい顔で提案しました。淡いピンクの髪を指先にくるりとからめながら、ソファーでぐったりしているシルヴィアのことも、ちらちらと気にしています。


「でも、記憶の中には、手がかりはまったくなかった……」


 エミルはしょんぼりと肩を落としました。


「す、すみません……」


 シオリはしゅんとしてしまいますが、気にするなとばかりにラナが背中をぽんぽんとたたきます。


『だれか、ほかにいないんでしょうか。事件のことに、くわしい人は……』


 シュガーも小さな体で、うんうんと一生懸命考えていました。


「事件のことに、くわしい人……」


 すると……


「……あっ!」


 エミルとシオリは、同時に声をあげました。


「ど、どうしたの?」


「まったく、びっくりするじゃない」


 ラナとクリスティーナは、目をぱちくりさせています。


「いるんだよ! 事件のすべてを知ってる人!」


「正確には、人じゃありませんけど!」


 エミルとシオリは、そろって身を乗り出します。


「だ、だから、だれよ、それは!」


 クリスティーナは、わずらわしそうに返しました。


 それは……"大樹の図書館(ライブアライブラリ)"のコアルームに住む大精霊・ビブリアードの本体、その人です。エミルたちの持つ分身は、本体とのつながりが切れたため事件の詳細を知りませんが、だったら本体に直接聞きにいけばいい、ということです。


 しかし、それをみんなの前で口に出すことはできません。コアルームは、隠し部屋と同じく、大樹の図書館のトップシークレットだからです。


「……それは、言えません。でもすべてのカギは、大樹の図書館の中にあるんです!」


 エミルは、力いっぱい言い切りました。


 一同は、その迫力におされて、わけもわからないままおしだまります。


『……大樹の図書館に行きたいといっても、警察や"大地の探究者(グランドシーカー)"……さらに、手配書の賞金目当ての連中が張ってるはずよ。中に入るのは、たやすいことじゃないわ』


 最年長のアノニマスは、クギをさすように言いました。


「それでも……手がかりがあるのなら、わたしは行きます。ねえ、シオリ?」


「……はい! わたしも……ロウランさまがお亡くなりになった理由が、知りたいですから!」


 シオリはこくんとうなずいて、エミルに同調しました。そのまなざしは、強い覚悟で燃えています。


 すると、ラナもガタッと立ち上がって……


「よくわかんないけど、そういうことなら、あたしも協力するからね! こう見えても狩猟ギルドのメンバーなんだから、逃げ隠れの訓練だって受けてるわよ!」


 えっへんと、たのもしく胸を張りました。


「……まったく、子どもっていうのは、これだから……」


 クリスティーナは、あきれたようにためいきをつきます。


 つづいて、クリスティーヌがすっと手をあげました。


「エミル様。もちろんわたしも協力させていただきます。隠密行動は、得意ですから」


 姉はぜんぜん乗り気じゃなさそうですが、妹のクリスティーヌはやる気にあふれています。


「ありがとう、クリスティーヌさん!」


 エミルはぱあっと笑顔を咲かせます。


『残念だけど、私はいまは協力できないわ。シルヴィアを診てあげないといけないから。治すにしても、きっと時間がかかると思うし』


 アノニマスは申しわけなさそうに言いました。ソファーの上では、シルヴィアがまだひからびたまま、息をするのもつらそうに横たわっています。たしかに、連れて行くわけにはいきません。同じエルフで魔法にもすぐれるアノニマスにあずけておけば、安心でしょう。


「うん……おねがいね、アノニマスさん」


『無事に終わったら、私にもすてきなお名前、つけてちょうだいね』


 アノニマスは、エミルにおちゃめにぱちんとウインクしました。


「……ああもう! わかったわよ! メガネの子の無実を証明することには、協力するって約束したからね!」


 クリスティーナは、観念したようにさけびました。


「決行は今夜! ちゃんと作戦考えといてあげるから、そのあいだ各自、しっかり体を休めなさい!」


 最後にそう言い捨てると、クリスティーナは席を立って、プリンプといっしょにせかせかと階段をのぼっていきました。


 こうしてエミルたちは、言われたとおり、図書館潜入にそなえて各自ひと休みすることにしたのです。



 ☆ ☆ ☆



 時刻は、午後7時ちょっと前。


 クリスティーヌが用意してくれていたお弁当で食事をすませたあと、エミルたちは隠れ家のリビングで、思い思いにすごしていました。


『こひゅー……こひゅー……』


 あまりやわらかくないソファーの上には、ミイラのような姿のシルヴィアが寝かされていました。かつてはつややかだった銀髪はぱさぱさにほつれ、すらりと長かった手足は枯れ枝のように細くなり、あれほど自慢だった抜群のプロポーションも、すっかり失われていました。なめらかだった肌はかさかさにひび割れ、それでも、きりっとした顔立ちにはかすかな気高さが残っていて……それがかえって痛々しく見えます。


 そのそばで、アノニマスが介抱をつづけていました。


『だいじょうぶよ、シルヴィア……私も、エミルちゃんも、貴女が元気になるのを、待っているから……』


 アノニマスは、淡いピンクの髪をさらりとたらしてシルヴィアにかがみこみ、いつくしむような表情を浮かべながら、指先にマナを集中させて生み出した青く輝くしずくを、わずかずつ、シルヴィアの乾ききった口もとに与えつづけていました。こうして水分と、失われたマナをおぎなおうというこころみです。それができるのも、魔法のワザにすぐれたハイエルフだからでしょう。


 ウォルターは、シルヴィアの水分をうばいつくしただけでなく、同時に強力な呪いまでかけていました。いまのエミルの浄化のチカラではとても解けない、"干物の呪い"です。だから、そう簡単にはもとの姿にもどれないでしょう。


 ですが……この生死の境を乗り越えることができれば、シルヴィアはもっと強くなれる。そう信じて、そしてなにより、ようやくできた同じエルフの親友のために、アノニマスはみずからの生命エネルギー(マナ)をわけつづけているのです。


 いっぽう、部屋のすみでは、シオリが体操座りでちぢこまっていました。薄紫の長い髪がひざにかかり、大きな丸メガネの奥のまなざしは、ぼんやりと床を見つめています。


 その胸の中では、さまざまな感情がごちゃまぜになっているようでした。


 恩人のロウランが亡くなったこと、彼女を殺した犯人の存在、自分へのぬれぎぬ、そして、シオリをかばったエミルたちまでもが手配される身になってしまったこと……ほんの短い時間のうちにたたみかけてきた急展開に、シオリは気持ちをどう表に出していいのか、わからないようでした。


 そこに……


「シオリ……ちょっと、いいかな?」


 エミルがとなりにちょこんと座ってきました。


 同じく、何度も急展開を味わってきたエミルには、わかるのです。いまのシオリのくるしい気持ちが。それをほぐしてあげたいと思い、エミルはやさしく話をはじめるのでした……



お読みいただき、ありがとうございました。

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