↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/99

第60話 逆転の召喚術

「《進化変身(エヴォルトランス)》!」


 グレイを指輪に戻し、エミルが杖を振ると、シュガーの体は光につつまれ、むくむくと大きくなっていきます。


 そして、姿かたちはそのままに、人間の女の子ほどの大きさの大妖精に変身したのです。本来の大妖精は、オトナの人間ほどの大きさなのですが……エミルのチカラで変身したいまのシュガーでは、これがせいいっぱいなのでした。


『いきますよっ!』


「うん!」


 シュガーはすいっと飛びだし、《妖精の粉(フェアリーダスト)》で宙にういたエミルを、ぐいぐいとひっぱりはじめました。


 バラの魔女ベルダンディーのイバラが容赦なく襲いかかりますが……シュガーはみごとな飛びっぷりで、ひらりひらりとかわしていきます。飛ぶことに、逃げることをくわえたら、妖精の右に出る存在はいないのです。


「よーし、反撃を……」


 エミルははりきって杖をかまえますが……ふと、あることに気がつきます。


「……って、そういえばシュガーって、攻撃の魔法おぼえてないじゃない!」


『ああっ! そういえば、そうでしたっ!』


 エミルはシュガーといっしょになって、ガーンとなってしまいます。


 シュガーはお菓子の国出身のあまーいお砂糖の妖精で、争いを好まない性格のため、使えるのは人をしあわせな気分にする魔法と、仲間をたすける魔法だけ。相手を直接傷つけるような魔法は、まったく使えないのです。それは大妖精に変身したって、変わりません。


「そうだ……甘味のチカラで、戦う気をなくさせるんだ!」


 それでもエミルは、ぱっとひらめきました。


 前の冒険では、とてつもなく強いワンダーが相手でも、シュガーの甘味を作りだす魔法で、戦う気をそいだことがあったのです。


『め、名案ですっ! 《シュガーミスト》!』


 シュガーはひょいひょいとイバラをかわしながら、両手からお砂糖を思わせる白い光の粒子を放ちます。


 粒子は白い霧となって、ベルダンディーのまわりをふんわりとつつみこんでいきました。


「あら……これはなにかしら。なんだか甘くて、気持ちいい……」


 ベルダンディーは、うっとりとした表情を浮かべました。


 甘いものは、体のなかにしあわせな気分をふくらませてくれます。それをぐんと大きくして、戦う気力をなくしてしまおう、という狙いです。


「よし……効いてる!」


 エミルは手ごたえを感じました。


 相手をできるだけ傷つけたくないと考えているエミルは、最終的には戦意を奪うだけで勝つ、という戦い方を目標にしているのです。


 そう……最終的には。


「気持ちよすぎて……天にものぼる心地だわァ~ッ!」


 ベルダンディーは大きく背をそらすと、全身から無数のイバラを一気にのばしてきました!


『うきゃあああっ!』


 シュガーは泣きさけびながら、エミルをひっぱってイバラをかわしまくります。


 どうやら甘味作戦は、ベルダンディーにとって完全に逆効果だったようです。


「やっぱり、そう都合よくはいかないか……」


 目標はまだまだ遠いと、エミルはがっくりうなだれました。


 しかし、シュガーの得意技が通用しないとなると、いよいよ打つ手がありません。


 イバラの攻撃とシュガーの回避でがまんくらべをしようにも、飛ぶための魔法の消耗を考えると、シュガーのほうが圧倒的に不利です。しかも相手は、養分を吸いとる能力まで持っているのですから。


『……いいえ、あります、打つ手なら!』


 すると、シュガーが目つきをきりっとさせて言いました。


「……え?」


 考えをめぐらせていたエミルは、思わずぽかんとします。


『思い出してください! 魔王との戦いを! エミルさんなら、できるはずですっ!』


「魔王との戦い……あ!」


 エミルはハッと思い出しました。前の冒険――シュガーの故郷を救うための、魔王との最終決戦で使った技を。


 そして、キッとベルダンディーを見すえて……杖をつきつけました!


「サモン! 《スパイラルジェット》!」


 すると、右手小指の指輪から、うずまく水とともに、大きな体の水の精霊【プルンディーネ】のマリンが現れ……両手かららせん状の水流を発射したのです!


 ザッパアーーーン!!!


「ああッ……!」


 みごと命中。ベルダンディーはのけぞり、悲鳴をあげました。


 魔法を出し終えたマリンは、そのまま光の粒子となって、指輪にもどっていきます。


 見守っていたメイドや執事たちが、どよめきました。


「まさか、あれは!」


「"サモン"か!」


 サモン――"召喚"を意味する言葉で、ウィザードの技術のひとつです。


 パートナーを指揮する"コマンド"と、指輪から出さずに魔法を発動させる"キャスト"の、いいとこどりをしたような技で、魔法を放つときだけパートナーを呼び出し、終わるとすぐ指輪にもどす、というものです。


 出の速さと威力を両立できるぶん、ウィザードの消耗は大きく、呼んではもどすというムチャなあつかいを、快く引き受けてくれるパートナーとの絆の強さも必要になります。けれど、瞬間的な火力においては、アームドやトランスよりもはるかに上なのです。


 さらに、マナの受け渡しがほんの一瞬ですむため、ほかのパートナーをコマンドしている最中でも、チカラの分散や絆の糸の混線が起こりにくい、というよい点もあります。


 エミルは、前の冒険の戦いでこのサモンを使いこなし、魔王を追いつめました。当時のエミルは必死で、ちょっぴり忘れかけていたのですが、彼女を尊敬するシュガーは、はっきりとおぼえていたのです。


 これなら、攻撃と回避を両立できる。勝ちの目が見えてきた――


 なんて思ったのは、ほんの一瞬のこと。


「なんなの、いまのぉ……気持ちいいシャワーだったわぁ……」


 ベルダンディーは、またうっとりとしていました。水もしたたるいい女とは、このことでしょうか。


 マリンの水流は、《ドラゴンブラスター》や《フェンリルストライク》ほどの威力はありません。しかも、ベルダンディーは植物の精霊と合体しているため、水の魔法は効きめがいまひとつ。思ったほどダメージを与えられていないのです。


「くっ……せめて、シロンかグレイが……シルヴィアがいてくれたら……!」


 エミルは歯を食いしばります。


 シロンとグレイは養分を吸いつくされて動けず、ふたりに負けない威力の魔法が使えるシルヴィアは、いま手もとにはいません。


 あらためて、彼女がそばにいてくれることの大切さ、ありがたさが身にしみました。すらりとした長身にみごとなスタイル、さらさらの銀髪をなびかせ、つややかな褐色の肌を輝かせて、『エミル様!』と満開の笑顔を向けてくれる美しいシルヴィアの姿が、まぶたの裏にありありと浮かんでくるほどです。


『エミルさん! まだです! ふたりはまだ、戦えますっ!』


 すると、シュガーが飛び回りながら、うったえるように叫びました。


「まだ戦えるって……ふたりはもう、へなへななんだよ?」


 エミルは苦しげに反論します。


『いいえ! できます! わたしたちにはまだ、たよれる仲間がいるじゃないですかっ!』


「たよれる仲間……そうか!」


 シュガーの言葉で、エミルはふたたび思い出しました。


 そして今度は、親指の指輪を光らせます。


「サモン! 《復活の炎》!」


 うずまく炎とともに召喚されたのは、生まれてまもない、燃えさかる不死鳥【ソルフェニックス】のレッディ。


『クエーッ!』


 レッディはかん高い声をあげると、全身からオレンジ色の炎をふわりとひろげました。


 放たれた炎は、エミルとシュガーの体をやさしくつつみこみます。


 すると……体じゅうから、元気がむくむくとわいてきました。


「よし……これなら!」


 エミルはぐっとこぶしをにぎりしめます。


 レッディは、いまのところ二種類の炎を使うことができます。


 ひとつは傷をいやすための《再生の炎》、もうひとつは……


 ぽんっ!


『シロン、ふっかーつ!』


 失った体力を回復させるための、《復活の炎》です。


 指輪の中のシロンにも、炎のぬくもりがとどいたのでしょう。養分をとりもどしてふっくらつやつやになったシロンが、元気いっぱいに飛び出してきました。


 かわりに役目を終えたレッディは、エミルの指輪の中にもどっていきます。


 シロンとシュガーのまっしろコンビ、ここに復活です。


「さあ……ここからがほんとうの、反撃開始だよ!」


 エミルとパートナーたちは、ベルダンディーをまっすぐ見すえます。はじまりから奇妙な展開つづきだった決闘は、いよいよ大詰めをむかえようとしていました。



お読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。