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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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第48話 黒竜教団

 クラウス、エイル、ミリアム、クリスティーヌの四人は、山肌をくりぬいて作られた、黒竜教団の残党のアジトの中を進んでいました。


 やっぱり、残党が急ごしらえで作ったためか、中はそっけない簡素な通路が、いくつにも枝分かれしながら続いています。


「あ、なんだ……」


「しんにゅ……」


 そして、遭遇した団員は、見つけるなりクラウスに氷づけにされてしまいました。


 クラウスが得意としているのは"キャスト"。パートナーを呼び出さず、指輪から直接魔法を発動する、ウィザードのスタイルのひとつです。


 指輪からパートナーを呼び出して放つ、ふつうの魔法より威力は落ちますが、早撃ちにすぐれ、スキが少ないという利点があります。


 そんなわけで、教団員たちは、クラウスが軽く右手をはらっただけで、あっというまにカチコチになってしまうのでした。


「お前らは、俺が言うまで手を出すなよ。隠ぺい魔法の効果が切れる」


 クラウスのぶっきらぼうな物言いに、エイルとミリアムはむすっとしますが、だまってうなずきました。


 ミリアムはともかく、エイルの戦い方はよくも悪くもハデです。チカラを出したとたんに存在感があふれて、隠ぺい魔法が切れてしまうことうけあいでした。ふたりとも、それをじゅうぶんわかっていたのです。


「それにしても……残党というわりに、ずいぶん人数が多いようですね。この隠れ家の規模も、そうとうなものです」


 しんがりをつとめるクリスティーヌが、あたりを見まわしながら言いました。


 ここまでに氷づけにした教団員は、そろそろ二ケタにのぼります。さらに突入してから数十分がたつというのに、いまだにアジトの全容は見えてきません。


「ヤツらは、各地から新たな団員をつのるなどして、戦力を増やしつつある。急ごしらえの隠れ家にしては規模が大きいのも、こういう場所を作るのが得意なウィザードを引き入れた結果だろう」


 クラウスは先頭を足早に進みながらこたえました。


 魔法で穴を掘ったり、空間魔法の応用で内装をととのえたりすれば、短い時間で人が住める空間をつくることは可能でしょう。実際、そういう技術をなりわいにしているウィザードは多く、建築ギルドだってあるくらいです。


「なるほど、どうりで迷路みたいになってるわけだ。あたしたちみたいな侵入者への対策ってことね」


 ミリアムがあきれ笑いを浮かべて言いました。


「……って言っても、こっちにはエイルがいるから、意味ないけど」


 そうなのです。エイルは、ミリアムの言いつけを守って勝手な行動はひかえています。そのかわり、ここまでの道案内は、エイルのハナと野生のカンが受け持っているのでした。


 カンのようなあいまいなものをアテにしないクラウスは、いい顔をしませんでした。けれど、エイルのカンが100%当たることは彼も知っています。不本意ながら、あくまで合理的な判断として、彼女のカンを信じることにしたのでした。


 こうして一行は、最短で、アジトの最深部と思われる広間へとたどりつきました。


「!?」


 部屋は、これまたシンプルなつくりの広間で、中には十数名の団員たちがたむろしています。彼らの注目が、突入してきた一行に集まりました。


 もちろん、その団員たちも……


 カチーン!


 クラウスが右手をひと振りしただけで、全員が氷の像になってしまいました。


「あらまあ」


 クリスティーヌは、あんぐりとあけた口を両手でおおいます。


「……え? これでおしまい? あたしら、来た意味、なくない?」


 あまりにあっさり片づいてしまったので、ミリアムはあっけにとられました。


「……ううん、これで終わりじゃないよ、ミリ、クリちゃん」


 エイルは目を細め、広間の奥の大きなとびらをじっとにらみました。


「あ、まだここが最深部じゃなかったんだ」


 ミリアムはハッと顔をあげますが、


「そういうことじゃないよ」


 エイルがそう返した次の瞬間、奥のとびらが、ギイッと重たい音を立てて開きました。


 ミリアムとクリスティーヌも、すぐに身がまえます。


「……やれやれ、ま〜た貴方ですか。クラウス少年。つくづく、縁があるようですねえ」


 現れたのは、黒いフードつきのローブに身を包み、ちぢれた長い前髪をたらし、左目にモノクルをつけた、細身の中年男性でした。


「お前との縁など、腐っていても願い下げだ。ザング」


 クラウスは、いっそうけわしい顔つきと冷たい視線で、男性……ザングをにらみつけました。エイルたちの知るところではありませんが、どうやら、そうとうな因縁があるようです。まあ、組織を壊滅させた本人ですし。


「あいつがボスかな」


「そうなんじゃない?」


 エイルとミリアムも、それぞれにかまえをとります。


 クリスティーヌも両手をにぎりしめ、ふん! とはりきり顔です。


 するとザングは、くぼんだ目をギョロリとむいて、興奮したようにわなわなとふるえました。


「おお……! よもや"巨獣狩りの剣星"殿もご一緒とは! なんという幸運! なんという天運……」


 カキィーン!


 ……しかし、その高ぶりをしずめるように、黒ずくめの全身はたちまち凍りついてしまいました。


「天運だと? 不運のまちがいだろ」


 もちろん、クラウスのしわざです。右手をかざしたまま、ふんと鼻を鳴らします。


 彼の二つ名は"絶対零度の氷星"。容赦のなさでは、マスターウィザードの中でもいちばんなのです。判断の早さでは、エイルも負けていませんけれど。


「うわあ……」


 ミリアムは顔をひきつらせ、クリスティーヌはまたしても「あらまあ」と口をおおいます。


「いいや、まだだよ」


 ただひとり、エイルだけが……いえ、攻撃をしかけたクラウスをふくめた二人だけが、表情をゆるめずにいました。


 すると……


 パリィーン!


 なんと、ザングの体をおおっていた氷が砕け散ってしまったではないですか。


「フフフ……なぁかなか涼しかったですよ」


 ザングはニイッと笑いながら、ねっとりとした視線をこちらへ向けています。


「パートナーの加護か……」


 ミリアムがつぶやきました。


 おそらくは指輪の中のパートナーから、冷気への、あるいは魔法そのものへの強い耐性を与えられているのでしょう。残党とはいえ組織のリーダー格であるのなら、そのくらいの加護があってもふしぎではありません。


「では……今度はこちらの番、ということでよろしいでしょうか?」


 ザングが右手をふりあげるのと同時に、エイルは腰の剣を抜いて跳びかかっていきました。


 一瞬遅れて、ミリアムはテルをアームドしてボウガンをかまえ、クリスティーヌもクマロンをアームドして、トゲトゲグローブを両手にはめます。


 ガキィーン!


 ザングは、エイルの剣撃を、なんとふりあげた右手で受け止めてしまいました。マナのぶつかり合いで、紫色の光が火花のようにはじけます。


「なっ……! あいつの体、どうなってるのよ!?」


 ミリアムは目を見はりました。


 いくらパートナーの加護で体がじょうぶになっているからといって、エイルの剣を生身で受け止められるはずがありません。


「チッ……ザング、貴様……!」


 クラウスはなにかに気づいた様子で、いまいましそうに歯をぎりっとかみしめます。


 ザングはエイルの剣を受け止めた姿勢のまま、空いた左手で頭をかかえて笑いはじめました。


「クッククク……! そうです! そうですとも! 私はついに、黒竜さまをその身に宿すことに、成功したのです!」


 その言葉に、一行はいっせいにハッと息をのみました。


 すると、ザングの右手が、漆黒の輝きを放つウロコにおおわれていきます。……いえ、正確には、人間の姿に見せかけて隠していたものが、あらわになったということでしょう。


 ザングは左手でローブをはぎとり、全身をさらしました。


「!」


 一行は、さらにおどろきました。


 黒いツノ、翼、しっぽを生やし……全身をウロコで包み、あきらかに人のものではない、するどいツメとキバ……まさに"竜人"と呼ぶべき見た目となった、ザングの姿に……



お読みいただき、ありがとうございました。

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