第45話 ラナとシオリも、がんばる!
『ゲヒィッ……!』
【バンデットロス】は、シロンのパンチを受けて、ハデにふっとびました。
「クソッ! なにやってんだ! 使えないヤツめ!」
白いフードの人物は悪態をつき、目の前にどさりと落ちてきたバンデットロスの体を踏みつけました。
「回復される前に、一気に決めるよ!」
『オーライ!』
シロンは左手を高くかかげ、《ドラゴンブラスター》のかまえに入ります。エミルも杖をかまえてマナを送り、弱ったバンデットロスを一撃でしとめられるほどのチカラを、じわじわとためはじめました。
「くっ……させるかああッ!」
白いフードの人物も、負けじと黒い杖をギラリと光らせます。
すると、倒れていたバンデットロスの傷がみるみるふさがり、赤い目がギロリと輝きました。そして、ザッとすばやく起きあがります。
「!」
エミルとシロンは目を見張りました。
『ギルルオォッ!』
バンデットロスの二つの口に、邪悪なオーラがぐんぐん集まっていきます。それも、シロンのチャージよりも速く。このままでは、こちらの準備がととのうより先に、相手の攻撃が飛んできてしまいそうです。
「そんなになかよしこよしがお望みなら、まとめて消し飛んでしまえーっ!」
白いフードの人物が、どなり声とともに黒い杖を突き出した瞬間――バンデットロスの二つの口がぐわっと開き、邪悪なエネルギーが放たれ――
シュルル……ガシィッ!
『!?』
――ることはありませんでした。
ボガアァァァン!!!
バンデットロスの二つの口は、どこからともなく生えてきたツタにぐるぐるとからまれ、ふさがれ、放つはずだったエネルギーが口の中で暴発したのです。もくもくと黒いけむりがあがります。
「なっ……!」
白いフードの人物は言葉をなくし――エミルとシロンは、不敵でステキな笑みを浮かべました。
またまた――狙いどおりと言わんばかりに。
さらに、そこへ――
「《オーバーサンライト》ッ!」
カッ――! ドオォーーーン!!!
極大の光の球が、バンデットロスを飲みこみました。
エミルの後方で休んでいたラナが、わずかにもどったマナをふりしぼり、杖の先にちょこんと乗ったサフラに魔法を放たせたのです。
「ラナ! シオリ! ナイス!」
エミルは、後ろのふたりに声をかけました。
ラナのとなりでは、シオリが木製の杖をかまえています。そのそばには、指輪から姿を現した【大精霊ビブリアード】の分身が、緑の髪をゆらめかせてたたずんでいました。
そう、バンデットロスの口をふさいだツタは、シオリとビブリアードの分身による魔法だったのです。大樹の精霊ビブリアードが得意とする、植物魔法でした。
エミルは、左手人差し指の指輪――同じビブリアードの分身が宿る指輪を通じて、この作戦を聞いていたのです。そのおかげで、バンデットロスの反撃にもひるまず、チカラをためることに集中でき――攻撃の準備がととのいました。
「あ……ああ……!」
白いフードの人物は、おののき、あとずさります。
高くかかげたシロンの左手には、エミルとシロンの生命エネルギーがまじりあい、サフラの魔法にも負けない巨大な光球ができあがっていました。
『アンタのほうが、まとめてふっとべ!』
「『《ドラゴンブラスター》!』」
エミルとシロンの声が重なり、シロンはかかげた左手を思いきり前へ突き出しました。極大の光線が、ゴオォッと放たれます!
「や……やめろーーーっ!」
虹色の光線は、黒コゲになったバンデットロスもろとも、後方の白いフードの人物をつつみこみました。手にしていた黒い杖も、砕け散って消えていきます。
やがて光がおさまり、浄化のチカラによって邪悪なオーラも消え去り……戦いは決着しました。
「やったね、ふたりとも!」
エミルは、ラナとシオリとハイタッチを交わします。
ラナはノリノリで、シオリはおずおずとでしたが、ぱちん、ぱちんと手を合わせてくれました。
「シオリ、すごいじゃない! あんな魔法が使えるんなら、先に言ってよね!」
ラナはいたずらっぽく笑いながら、うりうりとシオリをひじでつつきます。
「す……すみません。めったなことでは精霊さまのチカラは使わないようにと、いいつけられていたので……」
シオリは、はにかみながらあやまりました。
「でも、いまがそのめったなことだって、判断してくれたんだよね。ありがとう」
エミルは、ふだんと変わらないやわらかな笑顔でお礼を言いました。
シオリは、ぼっと顔をまっかにして、うつむき、目をそらしてしまいます。
「……判断したのは、わたしじゃないです。精霊さまに聞いて、そうしろって……」
『でも、どうにかしたいと思ったのは、貴女の意思よ。そこは、誇ってもいいことだと思うわ』
ビブリアードの分身は、美しくほほえんで言いました。
シオリは、その言葉をかみしめるように顔をあげ、そっと胸をおさえました。
「……で、あいつらはどうする?」
ラナは、離れた位置でのびているバンデットロス……いえ、もとにもどったトルトロスと、白いフードの人物……いえ、フードがとれたやせぎみの男性に目をやりました。
さんざん強力な魔法をくらわせてしまいましたが、浄化のチカラの影響か、トルトロスはかろうじて生きています。男性のほうも、同じ理由なのか、それほどの大ケガはしていないようです。
「……トルトロスがこのあたりで暴れていた原因は、あの人の命令だった……だから、討伐の必要はない……よね?」
エミルがたしかめるようにたずねると、ラナもシオリも、うんうんとうなずきました。
「でも、本来はここに暮らすワンダーではないはずです。野生にかえすなら、もとのすみかにもどさないと……」
シオリは、ぼそぼそと説明しました。
「だったら、あいつごとつかまえて、あとのことはギルドにまかせましょう。討伐対象じゃなくなれば、ギルドも悪いようにはしないはずだから」
ラナの提案に、エミルとシオリは賛成しました。
ふたりがうなずくと、ラナはサフラを指輪にもどし、別の指輪からパートナーを呼び出しました。
現れたのは、茶色い羽のフクロウでした。おなかがまんまるで、ちょっぴりぽっこりしています。
「【フクロー】だ!」
「ですね!」
エミルとシオリは、そろって声をはずませました。
【フクロー】は、その名のとおり、荷物入れの袋の役目をするワンダーです。入れられる量は自身の鍛え方や、ウィザードの腕前によって決まります。
「でもたしか、フクローは生きものを入れられないはずだよね?」
エミルは首をかしげました。
トルトロスも、フードのとれた男も、まだ生きています。生きものは"荷物"としてあつかえません。フクローが収納できるのは、あくまで"荷物"だけなのです。
「だいじょうぶよ。このコはウチのギルドで飼ってる、調教ずみのコでね。悪人をとらえたり、獲物を生け捕りにしたりする仕事にも対応できるように、しっかりしばってさえあれば、荷物としてあずかれるようになってるの」
ラナは、ぱたぱたと宙に浮かぶフクローの頭をなでながら言いました。
エミルとシオリは納得すると、ビブリアードの分身にたのんで、気絶した一体と一人をツタでぎちぎちにしばりあげました。
そして――
「さあ、おねがい!」
ラナがうながすと、フクローは大きな口をぱかっと開けて、ごおーっと息を吸いこみはじめました。
すると、トルトロスと男の体がふわりと浮きあがり、フクローの口の中へと吸い寄せられていくではないですか。
「すごっ……」
このふしぎな光景に、エミルとシロンは思わず声をそろえました。シオリも、ぽかんとしています。
しばりあげた一体と一人を吸いこみ終えたフクローは、けぷっと息をはきました。そのおなかは、風船のようにぱんぱんにふくらんでいます。
『クリちゃんの【カバンクル】を見たときも思ったけど、ああいう、なんでも荷物を入れられるコがいると、便利だよね!』
シロンは、エミルの顔をのぞきこんで、満面の笑顔を浮かべました。
「そうだね。……でも、クリスティーヌさんをむかえるとき、ロウランさんに言われて、気づかされたんだよね。ワンダーとの絆は、そういう……自分がしてもらいたいことのために結ぶものじゃないんだって」
その言葉を聞くと、ロウランを師に持つシオリは、ハッと目を見張りました。
「シロンとだって、出会いはあくまで偶然だったしね。もしわたしが、シロンの……大食いを利用して、キライなものを食べてもらおうと思って近づいたとしたら、イヤでしょ?」
エミルは食べものの好き嫌いなんてしません。シロンの特技がとっさに思いつかなかったので、むりやりたとえ話を作っただけです。
『あー、たしかに、なんかヤダ』
『わたしも……エミルさんに下心がないってわかったから、信用しましたし……』
シロンと、エミルのフードの中にかくれていたシュガーは、納得してくれたようです。
するとエミルは、シオリが自分に熱いまなざしを向けていることに気づきました。
「どうしたの、シオリ?」
「……やっぱり、エミルさんって……ステキです」
その言葉には、はっきりとした熱がこもっており、エミルは思わず顔を赤くしました。同時に、右手薬指――シルヴィアの宿る指輪が、ぎゅっとしめつけてきたのも感じます。
「えー、あの、その……ありがとう」
エミルは、しどろもどろになりながらも、そう返しました。
シオリのとなりでは、ビブリアードの分身がくすくす笑っています。
「それじゃ、早く帰りましょ。いちおう任務達成の報告と、バッテン・クロイツの残党のことを、オトナのウィザードに知らせなくっちゃ!」
ラナはそう提案し、エミルがグレイを呼び出して、三人娘は王都へ帰ることにしました。
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