第43話 現れた影
サフラの放った極大の光弾が、トルトロスを飲みこみました!
ドゴオーーーン!
『うひゃーっ!』
爆心地に近かった人の姿のシロンは、衝撃でころころとふっとびました。
自分たちの撃ったまばゆいばかりの光に目がくらみながら、ラナが言いました。
「手加減する余裕なかったけど、さすがに消し飛んだりしないよね?」
「相手は【バトルラビット】より大きくてタフだし、だいじょうぶなはず!」
エミルも同じように、目をおおいながら答えました。
今回の依頼は、狩猟ギルドに寄せられた討伐任務。倒しても死体が残っていなければ意味がないのです。
しかし……どうやら、その心配はいらないようでした。
もうもうと立ちこめる土けむりと光のむこうから……二つの影が、エミルとラナにおそいかかってきたのです。
バシュッ!
「あうっ!?」
「きゃあっ!?」
ふたりはとっさに身を守りますが、ふっとばされ、地面にどさりと倒れてしまいました。
指輪の加護とじょうぶなローブがなければ、あぶなかったことでしょう。
『エミルっ!』
大事なパートナーが傷つけられて、シロンは心配の声をあげ、すぐに駆け寄りました。
「おふたりとも……!」
ようやく起きあがったシオリも身を乗りだします。
『エミル、エミル! だいじょうぶ?』
シロンは金色の瞳をうるませながら、エミルの体を何度もゆすりました。
「わたしは平気……それより、気をつけて!」
エミルが言うと、シロンはハッと我に返り、ふたりを襲ったナゾの二つの影を見すえます。
そこに立っていたのは……二頭のペールレッドの猛犬でした。いったい、どこから出てきたのでしょうか……いえ、その答えはもう、わかっていました。
「あれは、【トルトロス】の進化前の形態、【ウバウンド】……まさか、分離したというの……!?」
シオリは目をむき、驚きの声をあげました。
そうです。あのいやらしい笑みを浮かべる顔は、さっきまで戦っていたトルトロスそのものでした。一つの体に二つの頭を持つケモノが、二つの体に分離したと考えるしかないのです。
エミルとラナも、大きなダメージを受けると別の形態に変化して戦いつづけるワンダーがいることは、知っていました。ですが、まさか二つに分かれるなんて、完全に予想外です。
そして、とくにワンダーにくわしいエミルとシオリは気づきます。野生のトルトロスが、あんな能力を持っているはずがない。あるとすれば、その理由は……
『『グルルゥ!』』
しかし、その答えを出すひまもなく、分離した二体の【トルトロス】あらため【ウバウンド】は跳びかかってきました。
『今度は、させない!』
シロンはキッと相手をにらみつけ、両手でつかみかかり、組み伏せます。
サフラは光のカベを張って、もう一体の攻撃からパートナーのラナを守りました。
「進化前の姿になったから、個々の戦闘能力は落ちているはずです!」
シオリがアドバイスを送ります。
『こいつっ!』
シロンはつかんだウバウンドを、ぶんと空高く放り投げました。
起きあがったエミルは杖をかまえ、指輪を通じてシロンにマナを送ります。
送られたマナは、シロンのマナと混ざり合い、その左手にぐんぐん集まっていきました。
『これでおしまいっ! 《ドラゴンブラスター》!』
シロンは左手を一気に突き出し、上空のウバウンドめがけて、まばゆい光線を発射しました!
これは、シロン最大の必殺技。ドラゴンの生命エネルギーそのものを相手にぶつけるという、単純ながら非常に強力な魔法です。
『グルォォ……』
空中で無防備な状態のウバウンドは、抵抗するひまもなく光に飲みこまれました。
いっぽう、ラナたちのほうは……
「チャージはたりないけど、いまのあんたなら、これでじゅうぶん! 《オーバーサンライト》!」
ラナが長杖をつきつけると、サフラのひまわりの花から大きな光の球が放たれ、もう一体のウバウンドも飲みこみました。
二体はチリチリの黒コゲとなって、地面にドッと倒れます。
また分裂でもするんじゃないか、と一行は警戒しますが……どうやら今度こそ、もう動く気配はないようでした。
「や……やった……」
勝利を確信すると、ラナはへなへなとその場にへたりこみました。
おそらくマナを大きく消耗するであろう《オーバーサンライト》……それを何度も撃ったことで、反動が体にきたのでしょう。サフラが、おつかれさまと言わんばかりに、汗をふいてくれています。
エミルは、必殺技の反動で地面に転がっているシロンを助け起こしました。
「おつかれさま、シロン」
『もう……次こそは私がひとりで決めるんだからね!』
そのとなりで、シオリは戦いに勝利したというのに、どこか浮かない顔をしています。それを見て、エミルも真剣な顔つきになりました。
「分離の魔法はたしかに使われますが、欲深い性格のトルトロスが、野生でそんな能力を持っているとは思えません……」
シオリがぽつりとつぶやくと、エミルもこくりとうなずきます。
「うん、これはまるで……」
「……まるで、ウィザードに訓練されていたかのようだ、とでも言いたいのかな?」
ふたりの推察を、男性の声がさえぎりました。
エミルたち三人とパートナーたちは、すぐに声のしたほうを振り向きます。
そこにはいつのまにか、気配もなく、白いフードとローブに身を包んだ人物が立っていました。
「あなた……何者!?」
エミルは杖をかまえて叫びます。
何者かはわかりませんが……目の前の人物があきらかな悪意を持っていることだけは、直感していたのです。
「何者、かあ……"雨あがりの聖女"ちゃんなら、ごぞんじなんじゃないのかな?」
白いフードの人物は、にやにや笑いながらそう言うと、ふところから黒い杖を取り出しました。悪意がそのまま形になったような、漆黒に光る杖です。
それを見た瞬間、エミルとシロンははっと目を見開きました。
「あ、あの杖は……!」
ふたりは、その杖に見覚えがありました。
旅の中で出会った、ワンダーに邪悪なチカラを与える魔のアイテムです。そして、それをあつかっていたのは……
「そうか……あなた……バッテン・クロイツの残党ね!」
エミルはそう断定し、キッと相手をにらみつけました。
アストライト王国を震撼させた悪の組織バッテン・クロイツ……二ヶ月前、ボスの"プロフェッサー"が倒され、壊滅したあとも、その残党は王国各地で暗躍していたのです。エミルも旅の中で、その残党たちと何度も戦ったことがありました。
彼らの手口は、ワンダーに違法な改造をほどこしたり、違法なアイテムで力を強化したりと……ワンダーを愛するエミルにとっては、ひたすらにきらいで、けっして許せない存在なのです。
「せいか~い! じゃ、ごほうびに、第二ラウンドといこうか!」
白いフードの人物は、黒い杖を高らかに振り上げました。
すると、杖から邪悪なオーラがもれだし……倒れている二体のウバウンドの体を包みこんでいきます。
二体はふわりと浮かびあがると、たがいに引きあうように近づいて……
カッ!
二体がふたたび重なった瞬間、黒い光と突風が巻き起こりました。
「きゃあっ!?」
エミルたちは、とっさに腕で顔をかばいます。
やがて、視界が晴れると……
『ギョルオオォォォッ!』
空気をふるわせる咆哮とともに、ダークパープルの毛皮に包まれた、巨大な二つの頭を持つ猛獣が姿をあらわしたのです。
「【伐天改獣バンデットロス】……ってところかな。さあ、僕のかわいいワンちゃん、あのコたちの命というかけがえのない宝を、奪っておいで」
白いフードの人物がぴっと人差し指を向けると、バンデットロスと化した元トルトロスは、赤くらんらんと光る瞳とするどいキバをあやしくきらめかせて、襲いかかってきました!
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