第41話 三人娘のそれぞれ
『ビイィッ!』
【バトルラビット】が大きな後ろ足で地面を蹴り、長杖をかまえたラナにぴょーんと跳びかかってきました。
「《ライトウォール》!」
ラナが唱えると、杖の先にちょこんと乗ったパートナーの【ヒマワリス】――サフラの持つひまわりの花びらが光を放ち、ラナの目の前にまばゆい光のカベをつくりだしました。
『シロンとおなじまほうだ!』
シロンが思わず声をあげました。
村を旅立ってすぐの、野生のワンダーとの戦い。あのときも、シロンが《ライトウォール》で攻撃を防いでくれたなあと、エミルはなつかしくなりました。……まだ一ヶ月もたっていないはずなのに、ずいぶんむかしのことのような気がします。
バシーン!
『ビイッ!?』
バトルラビットは光のカベにはじかれ、ころんとひっくりかえってしまいました。
「やるう!」
エミルも感心して、声をはずませました。
「カベを出すタイミングも、受ける角度も、申し分ありませんでした。ラナさんたちの腕前がよくわかります……」
シオリもちょっぴり興奮したようすで、小声の早口でつぶやきました。
ひっくりかえったバトルラビットは、ぴくぴくするばかりで、なかなか起き上がれそうにありません。光のカベが思った以上に硬く、自慢のパワーとスピードがあだになったかたちです。
「スキあり! 今度はこっちの番よ、サフラ!」
ラナが呼びかけると、サフラの持つひまわりの花びらが、まばゆい光を放ちはじめました。《ライトウォール》のときとはちがう輝きです。
ものすごい量のマナが、あのひまわりにぐんぐん集まっていくのが、エミルにも感じとれました。
『すごい……』『やばーい!』
シュガーとシロンは目をぱちくり。シオリも、おくちをあんぐりさせて見入っています。
……が、エミルのほうは……
「ちょ……待って、ラナ! それはいくらなんでも、強すぎる!」
あわてて声をはりあげました。
そのあいだにも、ひまわりの光はどんどん強まり、巨大な光の球となりました。
「《オーバーサンライト》!」
ラナが両手で、サフラの乗った長杖をつきつけると、巨大な光の球が、倒れたバトルラビットめがけて放たれました。
「シロン!」
エミルはグレイからとびおりると、さっとふところから杖を取り出し、パートナーの名を呼びました。
『ビ……ビイ~~~ッ!』
ドゴオーーーン!
動けないバトルラビットの悲鳴をのみこんで、光球が命中。あたりに大爆発がまきおこりました。
『きゃあーっ!?』
爆風と閃光に、シュガーはエミルの肩にしがみついて悲鳴をあげました。
やがて視界が晴れると……そこには、ボロボロで気を失ったバトルラビットが、のびていました。
「ふう……あぶなかった」
エミルは杖を下ろして、ほっとためいきをつきました。
「エミル……なにしたの?」
同じく杖を下ろし、サフラを手のひらに移したラナがたずねました。
「あのままじゃ、バトルラビットを消し飛ばしかねなかったからね……シロンの《ライトウォール》で、威力をやわらげたの」
エミルのとなりでは、シロンが宙にふわりと浮かびながら、えっへんと胸を張っています。
「相手は、ターゲットのワンダーじゃない。追い払うだけでじゅうぶんだよ」
エミルがやさしくほほえみかけると、ラナはハッとしました。
「そ……そうよね。ごめん、やりすぎちゃった……」
そして、しゅんとうなだれてしまいます。手のひらのサフラが、元気だしてと言わんばかりに、心配そうな視線を送っていました。
「ラナがいままで、実戦に出してもらえなかった理由と、ミリアムさんがわたしの同行を条件にした理由がわかったよ。ラナとサフラの魔法はたしかにすごいけど、すごすぎて、エモノを消し飛ばしちゃいそうなんだね。狩猟ギルドとしては、こまるわけだ」
エミルは肩をすくめて言いました。
たしかに、しとめたエモノがあとかたもなくなっては、ムダに命をうばっているだけになってしまいます。狩りとは、自然の恵みをいただくためのいとなみなのですから。
「うう……そうなのよ。いままであたし、ワンダーを殺したいって気持ちばかりで魔法を使ってたから、手加減っていうのが、どうにも苦手で……」
ラナはうつむいて、悩みを打ち明けました。
エミルは胸に手を当てて、やわらかな声で言いました。
「わたしは逆に、ワンダーを必要以上にキズつけないように、チカラ加減の訓練をしてきたの。だから、またラナがやりすぎそうになったら、いまみたいに止めるし、わたしなりのコツも教えてあげる。これから、すこしずつできるようになればいいよ」
「エミル……」
ラナは、エミルのやさしく光る青い瞳を見つめます。
そのとき、見守っていたシオリが、一歩前に出て言いました。
「わ……わたしも、チカラのあつかい方なら、教えられるかもしれません……」
自分のことを親身になって考えてくれるふたりに、ラナは感激で目をうるませました。
「ふたりとも……ありがとう~!」
そして、がばっとふたりをまとめて抱きしめました。
エミルは苦笑いし、シオリはこういうのに慣れていないのか、あたふたととまどっています。
やがてラナが腕をほどき、三人は出発の準備にとりかかりました。
そうしているあいだに、バトルラビットはいつのまにか目をさまし、どこかへ去ってしまっていました。
「エミルさん」
ふいに、シオリが話しかけてきました。
「なあに?」
「さっきの《ライトウォール》、おみごとでした」
「あ、ありがとう」
『ふっふーん!』
エミルが照れ笑いをうかべる横で、シロンは大いばりです。
「でも、ラナの《ライトウォール》のほうが、硬くて強かったけどね」
エミルがそうつけ足すと、シロンはとたんに、がーんとショックを受けました。
シオリは小さくほほえみます。
「たしかに、威力だけならそうかもしれません。ですが、わたしが感心したのは、その判断の早さと、チカラ加減のうまさです。バトルラビットを必要以上にキズつけず、戦う気だけをなくさせるところまでにとどめたのですから」
「そ、そうかな? これくらい、王都のウィザードなら、できてあたりまえなんじゃない?」
エミルは手をぱたぱた振って、頭をかきました。
事実――王都をふくめた王国の中央地帯と、それ以外の地域とでは、ウィザードの技術にとても大きなへだたりがあるのです。中央以外ではパートナーにわずかなマナと指示を送って魔法を使わせるだけの、初歩的なコマンドが主流です。アームドのように、ウィザードが直接戦う技術や、負担の大きい技術は、ほとんど使われていません。エミルだって、《進化変身》などの高度なコマンドを使えるようになったのは、つい最近なのです。
シオリはつづけて言いました。
「いえ……少なくとも、わたしたちくらいの年ごろで、それだけチカラをあつかえるウィザードは、数えるほどしかいません。だから、すごいと思ったんです」
「それは……どうもありがとう」
エミルが照れくさそうにお礼を言うと、シオリはハッとして、両手で顔をおおいました。
「ごっ……ごめんなさい! えらそうなこと、ぺらぺらしゃべってしまって……」
そしてはずかしそうに、首をぶんぶんと横にふります。
「ううん! そんなことないよ、シオリさん! わたし、ほめられると、すごくうれしい!」
エミルは力いっぱいはげましました。ほめられていい気分になるのは、ほんとうのことです。
「そ、そうなん……ですか?」
シオリは、おおった手の指のあいだから、エミルの顔をちらりとのぞきます。
「そうだよ。だからまた、素直な感想を聞かせてね。とっても参考になるから」
『シロンのことも、もーっとほめていいんだよ!』
エミルのほほえみと、シロンのとくい顔を見て、シオリは顔から手をどけて……
「……はい」
わずかにはにかみました。
「おーい、そろそろいきましょうよー!」
『ガルッ!』
先にグレイの背に乗ったラナと、早く行きたそうなグレイが、ふたりを呼びました。
「行こう!」
「はい!」
エミルとシオリもグレイの背にまたがり、三人とパートナーたちは、ふたたび【トルトロス】の出没地点を目指して出発するのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




