第3話 メイドさん、あなたに決めた!
「こういうときは……みんなの意見も聞かないとね!」
エミルは右手をかざしました。五本の指すべてに、銀色に輝く指輪がはまっています。
指輪にはそれぞれ、色とりどりの宝石がはめこまれていて……それがきらりと光を放つと、光の中から四体のワンダーたちが姿をあらわしました。
この指輪の名前は"コネクタリング"。ワンダーとウィザードの絆の証です。パートナーを中にしまっておけば、いつでもどこへでも連れ歩けて、好きなときに呼び出せる。ウィザードの必需品なのです。
現れたのは、エミルのパートナーであるワンダーたち。すでに出ている【ホワイトドラコ】のシロンと【シュガーフェアリー】のシュガーをのぞいて……
灰色の毛なみをした、【グレイトウルフ】のグレイ。
銀髪と褐色の肌を持つ美少女、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィア。
生まれてまもない、オレンジ色の不死鳥【ソルフェニックス】のレッディ。
そして最後に、大きな水の体を持つ精霊、【プルンディーネ】のマリン。
そうそうたる顔ぶれが、じっと三人のメイドを品定めします……が。
オオカミのグレイは、さっそく興味なさげにそっぽを向いてしまい、
ダークエルフのシルヴィアは、実にいまいましそうに三人をにらみつけていました。彼女はエミルのことが大好きすぎるので、メイドなんて、エミルにまとわりつく悪い虫。そもそも不要だと考えているのでしょう。
知能が鳥のヒナほどのレッディはよくわかっていない様子で、こてんと首をかしげ、超がつくほど内気なマリンにいたっては、恥ずかしさのあまり三人をまともに見ることもできません。
……せっかくパートナーたちの意見を尊重しようと思ったのに、これでは意味がありません。
となると、残りは白くてちっちゃいコンビ、シロンとシュガーの判断にゆだねられました。
『エミルは、だれがいいとおもう?』
「うーん、みんなの意見を参考にしたかったんだけど……まあ、わたし個人としては、あの人……かな」
『あ! シロンもおんなじ!』
『わたしも……ですっ!』
思ったよりも早く、三人の意見は一致しました。
シルヴィアは、褐色のきれいな顔をぷうっとふくらませて、不満をあらわにしています。けれど、エミルがほほえんで目配せを送ると、少しだけ機嫌をなおしたようでした。
エミルはシロンとシュガーをつれて、選んだメイドのもとへ歩みよります。そして、
「クリスティーヌさん、よろしくおねがいします」
そっと、彼女に右手を差し出しました。
三人の中からエミルが選んだのは、いちばんの新人、クリスティーヌ。
選ばれなかったベルダンディーとレディシエは、くやしがるそぶりも見せず、祝福の拍手を送ってくれました。こんなところも、さすが一流のメイドです。
「妹ちゃん、彼女を選んだ決め手を聞かせてよ」
ロウランが、インタビュアーのような雰囲気でたずねました。
エミルは、すこし照れくさそうにこたえます。
「三人とも、ステキな人だと思いました。とてもえらべないくらい」
「そう言うわりには、即決だったじゃないか」
「それは……三人の中で、クリスティーヌさんがいちばん、ワンダーが好きそうに見えたからです」
そう言われて、クリスティーヌは大きな瞳をまんまるにしました。
「ほう、そう思う根拠は?」
「見た目のかわいらしさのわりに、三人の中でいちばん存在感がひかえめだったから……かな。あ、けっして悪い意味じゃないですよ。ただ、そういう主張しすぎない人って、ワンダーのことを第一に考えている人に多い気がするんです。自分は彼らにとって無害ですよ、って、知らないうちに伝えているみたいで……」
「……へえ」
ロウランはニヤリと笑いました。
シュガーも、エミルの意見に賛成するように、ぴょこんと手を上げました。
『わたしも……そう思いましたっ。クリスティーヌさんは、その、なんだか……この人は信じてもいいんだって雰囲気が、ひと目見ただけで伝わってくるんです。はじめて、エミルさんを見たときみたいに』
『あ! それ、シロンもそうおもったよ!』
シロンもすかさず、便乗してアピールします。
シュガーもシロンも、エミルにあぶないところを助けてもらってパートナーになった、同じ境遇の持ち主です。同じことを感じたのも、ふしぎではありません。
いっぽう、当のクリスティーヌは、くりくりとした瞳をぱちぱちさせていました。自分が選ばれたことが、まだ信じられないようです。
エミルは右手を差し出したまま、にっこりほほえみました。
「……と、いうわけなので、みんな、あなたがいいって言ってます。わたしたちのメイド……ううん、新しい家族に、なってください」
クリスティーヌの大きな栗色の瞳が、わずかにうるみました。
「家族……ですか?」
砂糖のような、甘ったるい声。
それは作りものではなく、ただまっすぐに、エミルたちの心をくすぐります。
「はい。……わざわざメイドさんの派遣ギルドまで来ておいて、こんなことを言うのもなんですけど、やっぱりわたしにも、お姉ちゃんにも、メイドさんってしっくりこないと思うんです。だから、クリスティーヌさんには、新しい家族として、わが家に来てほしいんです。……ダメですか?」
「い、いえ……私を雇っていただけるなら、なんだってかまいません」
「それじゃあ……」
「はい……よろしくおねがいします、エミル様!」
エミルとクリスティーヌは、ぎゅっと固い握手を交わしました。
様はやめてほしいんだけどな、とエミルは思いました。となりでは、同じ呼び方をするシルヴィアが、おもしろくなさそうな顔をしています。
でも、これもメイドとして譲れない、彼女なりの誇りなのだと思うと、無理に直させようとは思えませんでした。
「では、エミル様、こちらで正式な契約のお話を……」
「あ……はい」
受付に案内されたエミルは、クリスティーヌとの正式な主従契約の手続きをすませました。
そして、ハピネスワークスの拠点をあとにします。
「「いってらっしゃいませ、ご主人様!」」
……ずらりと並んだメイドと執事たちの、おおげさな見送りを受けながら……
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