第2話 メイドさんを雇っちゃおう!
ハピネスワークスのホーム(ギルドの本拠地)であるお屋敷に入ると、ずらっと両サイドにならんだメイドさんと執事さんが、いっせいにお辞儀をしました。
天井にはきらきらのシャンデリア、足もとにはふかふかの赤いじゅうたん。まるで、絵本のなかのお城のようです。
「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」
エミルとシロン、シュガーは、思わずびくっと肩をすくめました。
「あっはっは。妹ちゃんは、こういうのはじめてなのかな?」
ロウランは高笑いしながら、からかいまじりにたずねました。
「いえ……二回目です」
『ファーブリアのおやしきでも、こんなふうにむかえられたよね!』
エミルとシロンは、旅の途中で立ち寄った大きな町で、似たような歓待を受けたことがあるのです。だからといって、すぐに慣れるものでもありません。
「使用人をやとえば、毎日この出むかえを経験することになるんだぞ」
「こんなにいっぱい、やといませんよ。一人いれば、じゅうぶんです」
おもしろそうにニヤニヤするロウランに先導されて、エミルは受付までやってきました。
「ご主人様、このたびはどのようなご用件でしょうか?」
受付に立つのも、もちろんメイドさん。「ご主人様」と呼ばれることについては、ツッコまないほうがよさそうです。
「あの……使用人のかたを、やといたいんですけど……」
エミルはおずおずとたずねました。いざ人を雇うとなると、「自分はそんなえらい身分じゃない」と、どうにも気おくれしてしまうのでしょう。
「かしこまりました。どのような者をご希望でしょうか?」
「どのような、って……」
エミルは助けをもとめるように、ちらりとロウランのほうに視線を向けます。
「とりあえず、性別は女性で。料理が大の得意で、金銭管理ができるコがいいかな」
ロウランが、ハキハキと要望を伝えていきます。こういうことには、かなり手慣れているようでした。
しかし……
「……いや、待てよ。せっかくだ! このギルドで、いちばん優秀なメイドをあてがってくれたまえ!」
突然、ノリノリでムチャな要求を宣言したので、エミルたちは思わず、ひっくりかえりそうになりました。
「な、な、な、なにを言ってるんですか!」
エミルはすっとんきょうな声をあげます。
「なにをって……どうせなら、いちばんいいのがいちばんいいに決まってるだろう。道具や人材に妥協しないのが、いいウィザードの条件だよ」
「料理とおカネの管理さえしてくれればいいんです! それは妥協じゃありません!」
エミルがロウランにかみついて、シロンとシュガーがあわあわしていると、その様子を見ていた受付のメイドさんが、おそるおそるたずねてきました。
「あの……ご主人様、失礼ですが、お名前は?」
「え? エミル・スターリングですけど……」
すると、メイドさんの目がぱっと輝きます。
「エミル!? では、あなたが、あの"雨あがりの聖女"、エミル様なのですか!?」
「は……はい。そうですけど……」
それを聞いて、受付だけでなく、まわりのメイドさんたちまでもが、いっせいにざわめきました。
"雨あがりの聖女"というのは、最近エミルについた二つ名のこと。エイルとエミルの姉妹は、実はこの王都ではちょっとした有名人なのです。
数日前に王都を震撼させた、"凶星の魔女"や"甘味消失"……その二つの大事件を解決したのが、この姉妹なのですから。
「そうか、ここのメイドちゃんたち、みんな大の甘党だったもんねえ。彼女たちからすれば、妹ちゃんは救いの神ってワケだ」
ロウランは思い出したように言いました。
エミルたちの前回の冒険である"甘味消失"事件……王都じゅうの甘いものが失われたことで、人々の心がすさみ、暴動にまで発展し、あわや王国滅亡となりかけた、名前のわりにとてもおそろしい事件でした。
「す、救いの神って、大げさな……」
『そ、そんなことないですっ! エミルさんは、わたしたちお菓子の国の妖精にとっては、ほんとうに救いの神なんですからっ!』
謙遜してたじろぐエミルに、シュガーは前のめりになって声をあげました。
"甘味消失"事件の原因は、シュガーの故郷である妖精界が滅びかけていたことでした。それを救ったエミルが彼女から神さまのようにあがめられるのは、たしかに無理もありません。
『ふふーん、かみさまか。わるくないひびきだねっ!』
いっぽうでシロンは、とくいげに胸を張っています。
受付のメイドさんは、目をきらきらさせて、カウンターごしに身を乗り出しました。
「あなたさまの使用人になりたいメイドは、ごまんといますよ! どのメイドも特別価格でご契約いただけます! いかがでしょう?」
彼女が手をひろげた先には、いつのまにか、ズラっとメイドさんたちが整列していました。だれもが、「私を雇ってください!」と言わんばかりの、期待のまなざしをエミルに向けています。
「う、うーん……?」
エミルは、ずらりとならぶ期待のまなざしから、そっと目をそらしました。
『すごいにんきだね!』
シロンはうれしそうにしっぽをふり、シュガーは『エミルさん、たいへんです〜』とおろおろしています。
そもそも人を雇うことにも乗り気ではなかったのに、特別待遇まで受けるとなると、しりごみしてしまいます。正直、なにもかもなかったことにして帰ってしまいたい……そう思っているくらいです。
ロウランは、あいかわらずおもしろそうにニヤニヤしていました。エミルが困っているさまを、すっかり楽しんでいる、いたずらっ子のような顔です。
しかし、彼女もさすがにオニではありません。エミルに助け舟を出そうと、ひとつの提案をかかげました。
「そうだ! オーディションをやろう! だれがいちばん、妹ちゃんの使用人にふさわしいか! これだけよりどりみどりだと、なかなか一人にしぼれないだろう! さすが私、ナイスアイディアだ!」
すると、メイドさんたちがいっせいに「すばらしいお考えです、ご主人様!」と歓声と拍手をあびせかけました。
さすがは一流のメイドさん、そろいもそろって持ち上げじょうずです。
と、いうわけで……ぽかんとしっぱなしのエミルをよそに、ロウラン主催の"妹ちゃんのメイドさんはだ〜れだ? オーディション"がはじまりました。主人になる人間をそっちのけにして、いいのでしょうか?
歌にお茶くみ、お皿洗い、そしてなぜか腕相撲まで。ロウランの審査は、どんどんヒートアップしていきます。
そしてしばらくののち、ロウランの厳正なる審査と独断と偏見によって、候補は三人までしぼられるのでした。
「さあー、妹ちゃん! そこに、三人のメイドがいる! 好きな子を一人、選んでくれたまえ!」
まるで名司会者のような口調で、ロウランはエミルに三人のメイドさんをすすめてきました。
エミルたちは、なすがままぼーっとオーディションの様子を見ていたのですが……たしかに残った三人は、どれも容姿・能力・性格の三拍子がそろっており、どのメイドさんもいっしょに暮らしたい、けれどわたしにはもったいない、と思えるほどの人物でした。
さて、最終選考に残った、栄えある三人は……こちらです!
エントリーナンバー1、ギルド最年長のベルダンディー。大人の魅力と圧倒的な母性、それに見合った熟練の家事技術を持つ、セクシービューティー。
エントリーナンバー2、ギルド最マジメのレディシエ。キラリと光るメガネと知性、家事はもちろん家庭教師の役割も担える、やさしさも忘れないクールビューティー。
エントリーナンバー3、ギルド期待の新人クリスティーヌ。ふわふわの栗色の髪とくりっとした瞳がチャームポイントのベビーフェイス。けれどもメイドの腕前は、ギルド次期エースとの呼び声高い、プリティービューティー。
三人とも甲乙つけがたい、という思いはわずかにあるものの、特別価格でも、お財布事情を考えると雇えるのはひとりだけ……。オーディションをながめているうちに、エミルは自分でも気づかないまま、身を乗り出していました。
さて、エミルはいったい、どのメイドさんを選ぶのでしょうか?
シロンとシュガーも、どきどきしながら、エミルの答えを待っています。
お読みいただき、ありがとうございました。
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