第27話 パワードゴブリンをさがせ!
【ニュードウルフ】のシロの背に乗った姉妹とクリスティーヌ、シロンとシュガーは、王都の外へと飛び出しました。
「さあー、シロ。ダルベールの相棒をさがすんだぞ」
『ワンッ!』
元気のいいおへんじ。これなら期待できそうです。
……が。
『ワフーン……』
『ごめん、わかんない……ってさ』
不発に終わってしまったのでした。
「おいおいシロー、どうしたんだー?」
エイルは、しゅんとしてしまったシロの頭を、ぽんぽんとたたきました。
「うーん、距離が遠すぎるのかな……」
エミルは考えこみました。家族なので、シロの鼻のよさはよく知っているのです。その範囲が、どこまでなのかということも。
『隠ぺいの魔法でも、使ってるんじゃないでしょうか?』
シュガーがおずおずと言いました。
「まあ、なくはないと思うけど……お姉ちゃん?」
エミルはエイルに話をふります。ダルベールと彼のパートナーのことを知っているのは、エイルだけだからです。
「わかんない!」
ある意味、予想どおりの答えです。けれど、あまりにきっぱり言い切るものですから、エミルたちはそろってずっこけてしまいました。
『もー! どうするの! これじゃ、てがかりゼロじゃーん!』
シロンがじたばたとさわぎだすと、エミルはハッとひらめきました。
「ううん、手がかりならあるよ」
「ほんとに!?」
エイルたちは、くるっとエミルのほうをふりむきます。
「きのう、お姉ちゃんが、ダルベールさんの依頼を手伝った場所だよ」
「あそこが?」
エイルは首をかしげました。
「だって、ダルベールさんは、お姉ちゃんにわざわざメッセージを残したんだよ。だったら、お姉ちゃんといっしょに行った場所が関係してるっていうのは、じゅうぶん考えられると思う」
妹の推理を聞いて、ぴーんときたエイルは、さっそくシロに声をかけました。
「だってさ、シロ! まずはきのうの、【ストーンザウルス】の巣に向かおう!」
『ワンッ!』
シロもすっかり元気をとりもどし、ストーンザウルスのすみかの洞穴へ、たったっと駆け出しました。
……が、そこにいたのは、体じゅうの石をごっそり取られたまま、ふて寝しているストーンザウルスだけ。手がかりらしいものは、なにも見つかりませんでした。
そこで一行は、すぐにもうひとつの依頼の場所へと向かうことになりました……
☆ ☆ ☆
そして、たどりついたのは……
『うっ……』
シュガーは顔を青くして、うっと眉をひそめました。
ここは、きのうエイルがダルベールといっしょに、【マッドマン】狩りに来た湿地帯です。
マッドマンは、きのうエイルがほとんど倒してしまったばかりなので、すがたを見かけることはありませんでした。けれど、あっちこっちドロだらけで、清潔でまっしろずくめのシュガーにとっては、地獄のような場所でしょう。
『シロンも、どろんこはきらーい……』
白いドラゴンの子どもシロンも、おなじ気持ちのようです。子どもっぽく見えて、じつはきれい好きなのです。
見かねたエミルは、ふたりをいったん指輪の中にもどしてあげました。
かわりに守り役として、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィアを呼び出します。彼女もかなりのきれい好きですが、自然豊かな森育ちなので、どろんこはそれなりに平気なのです。さらりとゆれる銀の髪、つやめく褐色の肌、すらりとのびた長い手足……ドロの大地の中でも、その美しさにはまるでかげりがなく、ひときわ目を引きます。
「シロ様は、ドロも平気そうですね」
クリスティーヌは、乗っているシロの毛皮を見下ろしながら言いました。
「シロはちっちゃいころから、よくお姉ちゃんとドロまみれになってたからね」
エミルは、むかしをなつかしむように、シロの毛並みをなでました。
「さあシロ、ダルベールのパートナーはどこ?」
『ワンッ!』
エイルの指示で、シロはあたりをきょろきょろと見まわすと、ダッと駆け出し、その先で、すぐに見つけました。
全身ドロまみれで、ひとりさみしそうに座りこんでいる、緑色の小鬼を……
「あの子が、そうなの? でも、ふつうのゴブリンに見えるけど……」
エミルは、おかしいな、と思いました。話に聞いていたのは、【パワードゴブリン】……筋肉ムキムキの、大きなゴブリンだったはずです。
ですが、シロが見つけたのは、どこにでもいるような、人間の子どもくらいの大きさの、ふつうのゴブリンでした。
「おーい!」
エイルが呼びかけると、ゴブリンはこちらに気づき、立ち上がりました。
『ゴッ! ゴッゴッ!』
そして、なにかを伝えたいのか、うったえるように声をあげるのですが……
『うう……なにを言っているのか、わかりません!』
エルフのシルヴィアもお手上げのようです。けれど、美しい銀髪をゆらして頭をかかえ、おろおろする姿は、なんともかわいらしいものでした。
それなら……と、エミルは指輪から、シロンを呼び出しました。
「シロン、この子の通訳をおねがい!」
『そーゆーことなら、しょーがないな!』
言いながらも、シロンはたよりにされて、ちょっぴり誇らしげです。
シロンは、ちっちゃくて幼くてもドラゴン。知能が高く、あらゆるワンダーの言葉がわかるのです。さっきも、シロの言葉を通訳していましたしね。
『えーと……まってた。エイル、くるの、まってた』
「私を?」
エイルは、きょとんとして自分を指さしました。
この言い方……聞いていた姿とはちがいますが、やっぱりこのゴブリンこそが、さがしていたダルベールのパートナーのようです。
『ダルベール、いった。キズナ、きれたら、ここでまってる。きめてた』
「絆が切れたら、か……」
エミルは、また考えこみました。
自分が死んだときのメッセージを残していたことといい、まるでダルベールは、自分が死ぬことを予期していたみたいです。悪の組織をひそかに追っていたのなら、当然の用意かもしれませんが……なんだか、言いようのないもやもやが、胸の奥にのこりました。
『ですが、どうしてこんな、ドロだらけの場所に?』
きれい好きのシルヴィアが、すっと通った鼻すじの美しい顔を、少しだけしかめてたずねました。
『ここ、マッドマン、よくでる。ニンゲン、あんまりこない』
「たしかに……じめじめしてるし、あんまり来たくない場所ではあるよね……」
エミルたちは、パートナーたちの加護や、いままでの冒険で授かった祝福のおかげで、どんな環境にもある程度なじめる状態です。けれど、じめじめを不快に思う気持ちまでは、なくならないようでした。
『それに、ニオイも、けはいも、おわれること、ない』
実際、シロもにおいをたどることはできないようでした。このゴブリンを見つけられたのも、湿地帯に来て、近くに生きものの気配を感じとったからにすぎません。
「ねえ、ダルベールを殺したのはだれ? ダルベールは、なにを調べてたの?」
エイルは、ずばっと本題に入りました。
すると、ゴブリンは頭をぎゅっとかかえ、苦しみはじめます。
『わ、わからない……おもいだせない……おもいだしたく、ない……』
「む、むりしなくていいよ!」
エミルが、あわてて声をあげました。
『きがついたら、ダルベール、しんでた。おれも、ちぢんでた。わけがわからなかったけど、ダルベールとのやくそくだけ、おぼえてた。だから、ここでまってた、エイルのこと』
ゴブリンは、ぽろぽろと涙を流しながら、エイルにたのみました。
『ダルベール、いってた。エイルなら、きっとなんとかしてくれるって。たのむ、エイル、なんとか、してほしい』
「……」
エミルたちは、なんだかせつなくなりました。
パートナーを失った悲しみは、はかりしれないものでしょう。なのに、こうしてけなげに約束を果たしているゴブリンの姿に、こみあげてくるものがあります。
だからこそ……エイルは、迷いなく、きっぱりと言いました。
「まかせろ!」
そのたのもしいひとことを聞いて、ゴブリンは、ほっとしたようにほほえみます。
そして気がぬけたのか、そのままドロの上で、すうっと眠りについてしまいました。
『このこ、かわいそう……』
通訳を終えたシロンは、金色の瞳をうるうるさせます。
『ええ……かならずや、カタキを討ってみせましょう、エミル様!』
シルヴィアも、宝石のようなオレンジの瞳を涙ぐませ、ずずっと鼻をすすりました。そして、エミルに熱いまなざしを向けます。
しかし……エミルのほうは、浮かない顔をしていました。
「うん……わたしも、そうしてあげたいと思ってるよ。でも……ダルベールさんのパートナーは見つけたけど、事件の手がかりは、けっきょくつかめなかったからなあ……」
『あっ……』
シロンとシルヴィアは、目を丸くしました。
そうです。こんなドロまみれの場所まで来たというのに、ゴブリンは事件当時の記憶を失っており、手がかりは、またしてもゼロのまま。ふたりは、思わずげんなりしてしまいました。
「うーん、ゴブリンの頭の中がのぞければいいんだけどねえ」
エイルは、ぼやくように言いました。
そんなことができたら、苦労はしません。他人の記憶をのぞき見することなんて、できるはずが……
「……あっ」
クリスティーヌが、思わず小さく声をあげました。
『どうしたの、クリちゃん?』
シロンをはじめ、みんなの視線が、クリスティーヌにあつまります。シルヴィアだけは、あいかわらず、対抗心むきだしでじろりとにらんでいますけれど……きりりとした目つきのむくれた横顔は、どこか愛らしく見えます。
「い、いえ……なんでもありません」
クリスティーヌは、苦笑いしながら首をふりました。まるで、なにかをごまかしているみたいです。
『なんでもなくは、ないでしょう!』
シルヴィアはここぞとばかりに、銀髪をさらりとなびかせて、ずいっとつめよります。
エミルはシルヴィアをなだめながら、クリスティーヌにたずねました。
「クリスティーヌさん。なにか心当たりがあるなら、言ってほしいな。お姉ちゃんは……ううん、わたしたちは、前に進みたいの」
その真剣な顔つきに、クリスティーヌはハッと目をみはり、きゅっとくちびるをむすびます。
エミルのりりしい横顔に、シルヴィアもどきりとして、ほほをぽっと染め、胸をきゅんと高鳴らせました。
「クリちゃん、私からもたのむよ」
エイルまで、いっしょになって身を乗り出します。
みんなに見つめられ、クリスティーヌは観念したように口を開きました。
「……わかりました。ですが、その前に……」
「その前に?」
エミルは、ごくりと息をのみます。
「……一度、王都に戻りませんか? わたしも正直……こういう場所は得意ではないので……あはは……」
きまり悪そうに笑うクリスティーヌのひとことで、エイルたちは、へなへなと気がぬけてしまいました。
『それは、シロンもさんせい!』
シロンは、ぴっと小さな手をあげました。
『めずらしく、意見が合いましたね!』
シルヴィアも、つんと澄ました美しい顔で、ふんっと鼻を鳴らします。
「よーしシロ、こいつを連れて、王都へ帰ろう!」
『ワンッ!』
エイルは、眠っているゴブリンを小脇にかかえてシロの背に乗り、みんなといっしょに、王都へと引き返すのでした……
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