第25話 犯行声明
テーブルの上に浮かぶ映像には、ソファーに座った大柄な男性の姿が映っています。部屋が暗いせいで、わかるのはシルエットだけです。
「コイツは……」
「黙って見ていろ」
声をあげかけたガロウを、ウォルターがきびしく止めました。
「……アストライト王国の諸君。私はドン・モンブラン。ノワール・モンブランの頭目である」
『とうもく……』
「組織のボス、ってことだよ」
シロンとエミルも、きゅっと口をむすんで、映像に目をこらします。
「ドン・モンブラン……ウワサどおり、なかなか貫禄のある御仁だな」
ランスが感心したように言いました。
かつて、この国で大暴れしたという組織のボスです。エミルたちはボスのことまでは知りませんが、オトナの彼らのあいだでは、相当に有名だったのでしょう。
「さて、さっそく本題に入ろう。我らノワール・モンブランの活動再開を記念して、近々、王都にて祝いの祭りを開催することを、ここに宣言する」
『おまつり!?』
シロンは目をきらきらさせました。おまつりごとが大好きなのです。にぎやかで、おいしいものが食べられますから。
「そんなに楽しいもんじゃないぞ」
「この場合の祭りっていうのは、とどのつまり、"王都でめちゃくちゃ悪いことするぞ"ってことさ」
ロウランとランスが、かわるがわる説明しました。
シロンはこてんと首をかしげています。まだ、言葉の裏を読むというのがむずかしいみたいです。
「開催時期は、また追って知らせることにしよう。では、楽しみに待っていてくれたまえ」
プツン。
映像は、そこでとぎれました。
「……つまりは、犯行声明ってわけだねえ」
ロックが、あやしげに目を細め、どこかうれしそうにほほえんでつぶやきました。内心、おだやかではないでしょうけれど。
「そういうことだ。まったく、腹立たしいったらない」
ロウランはあきれたように、ふうっとためいきをつきます。
「だが……解せないな」
ランスがいぶかしげに言いました。
「犯行声明の動画を送るなら、もっと大々的に配信するべきだ。俺様ならそうするね」
そして、キザったらしく前髪をさらりとかきあげるのです。
ランスはマスターウィザードの序列一位を誇りますが、目立ちたがりもナンバーワンなのです。
「そう……ですよね。せっかくこの王都には、動画配信っていう文化があるわけですし……そっちを使ったほうが、いい感じに人々の不安をあおれると思います」
エミルも、ちょっぴりためらいながら、ランスの意見に賛成しました。
技術の進んだこの王都とまわりの町々では、ワンダーの能力やカメラを使って撮った動画を、テレパシーを応用して配信し、機械で見る文化が、いま流行しているのです。
「ほう、妹ちゃん。かわいい顔して、ずいぶんあくどいこと考えるね~」
ロウランはそんなエミルを、にやにやしながらからかいました。
「あ、あくまでアイデアです! 実際にやったりしません!」
エミルは、むきになってぶんぶんと首をふりました。
「……まあ、冗談はともかく。私もその意見には賛成だ。だが実際、このメッセージは私個人にあてられたものだった。しかも、どこにも公開してない私のタブレットのアドレスに、直接ね」
「えっ……それって、つまり……」
「……マスターウィザードの個人情報……それを知ることのできる人間が、内部にひそんでいる。これが、ヤツが真に伝えたかったことだろう」
エミルの言葉をさえぎって、ウォルターが銀縁メガネをくいっと持ちあげながら答えました。
「つまり……王国内部に、ノワール・モンブランのスパイがいる……ってことか」
ランスが、まゆをひそめながら言いました。
「おそらく、そういうことだ。その事実をあきらかにすることで、疑心暗鬼を生み、我々を内部分裂させるのが狙い……私は、そう考えている」
ロウランの言葉に、エミルたちははっと息をのみました。会議室が、しんと静まりかえります。
悪の組織のスパイが、この王都の中に……しかも、マスターウィザードの個人情報まで知っているなんて、かなり深いところまで入りこんでいるということです。へたをすれば、この国のありとあらゆる情報がぬすまれても、おかしくありません。
「なるほど、だから君はマスターウィザードをこの場に集めたのか。……僕たちがそうでないか、その目で見極めるために」
ロックが不敵に笑って告げると、ランス、ウォルター、ガロウの三人が、そろってけわしい顔になりました。当然です。えらそうに、一方的に疑いの目を向けられるなんて、とても気分のいいものではありませんから。
「まあ……そのとおりだよ。私たちはマスターウィザードということでひとくくりにされてはいるが、実際の交流なんて、ほとんどないにひとしいからね。信頼や好感度なんて、初期値も同然さ」
ロウランは、ちっとも悪びれずに言い切りました。
すると、ガロウがこぶしでテーブルをドンとたたきました。
「テメエ……オレのことをスパイだって疑ってやがったのか!?」
「ああ、そうだ。でも、キミにかぎった話じゃない。私は正直、この王都の住民すべてがあやしいと思っているよ」
またもけろりとしているロウランに、見るからに短気そうなガロウは、とうとうぷつんと切れてしまいました。
「んだと、テメエ……ブッ殺してやる!」
そして、がたんとイスから立ちあがり、ロウランに襲いかかろうとします!
「ちょっ……!」
エミルが思わず声をあげた、次の瞬間。
ガッチーン!
ロウランにつかみかかる、あと少しのところで、ガロウの動きがぴたりと固まってしまいました。
しかも、前のめりのすごい体勢なのに、ぴくりとも動きません。まるで、時間が止まってしまったみたいに。
「……このヒトに腹が立つ気持ちはわかるッスけど、さすがに副官として、マスターに手ェあげさせるわけには、いかないッスからね」
よく見ると、ロウランのうしろにひかえていたデックスが、その肩ごしに腕をのばし、ガロウの体に銀色のカギをおしあてていました。どうやら、デックスの魔法のようです。エミルは、ぽかんと口をあけて見つめました。
「それがウワサに聞く、カギの精霊の魔法ってやつかい、デックス君?」
ランスが感心したようにたずねました。
「まあ、そんなところッス。いちおう、めったにヒトには使わないんスけどね」
デックスは、カギをポケットにしまいました。
シロンとシュガーは、くわっと目をむきました。あのカギの魔法こそが、いまいましい不法侵入の方法であると気づいたのです。
ロウランは、何事もなかったような顔で、話を続けます。
「……さて、ああは言ったが、私もさすがにマスターウィザードの中にスパイがいるとは考えてない。それは、私たちを選んだ我らが国王の、見る目がないと言うようなものだからね。ただ、敵が王都の内部に食いこんでいるという事実だけは、知っておいてほしかった。私がキミたちを呼んだほんとうの理由は、それだけだよ」
「だったら、最初からそう言えばいいじゃない。そうすれば、彼もこんな目にあわずにすんだのにねえ」
ロックは肩をすくめながら、固まったままのガロウに目を向けました。
「……そうだね。それはあやまるよ。ただ、100%の確信がなかったからね。反応が見たくて、あんなことを言ったのさ」
「……まあ、そういうことにしておこう」
ウォルターは、またふくみのある口調で言うと、メガネをくいっと持ちあげました。
そして、ロウランは、おひらきとばかりにパンパンと手をたたきます。
「とにかく、これで私からの話は終わりだ。各自解散して、この王都の平和のために力をつくそうじゃないか」
その言葉に、うなずく者もいれば、不満そうな顔の者もいて、みんな次々と会議室から出ていきます。
「……お姉ちゃん、わたしたちも帰ろうか」
エミルは、となりの席でぼんやりと遠くを見つめているエイルのマントを、くいくいとひっぱりながらたずねました。
けれどエイルは、うわのそらのようで、気づいていないみたいでした。
すると……
「待った、妹ちゃん」
ふいに、ロウランに呼び止められました。
「な……なんですか?」
ロウランはとことこと歩みよってくると、エミルに一枚の紙きれを手わたしました。
「これ、外に出たら読んでおいて。かならずね。あ、だれにも見られちゃダメだぞ?」
かわいらしく、ぱちりとウインクまで決めてみせます。
「は、はい……」
エミルはとまどいながらも紙きれを受けとり、エイルとパートナーたちといっしょに、会議室をあとにしました。
部屋には、ロウランとデックス、そしてまだ固まったままのガロウだけが残されます。
「……あの、このヒトはほっといていいんスか?」
「いいよ。魔法の効き目が切れるまでね。そのほうが、おもしろい」
ロウランは、にししといたずらっぽく笑いながら部屋を出ていき、デックスも苦笑いをうかべて、そのあとをついていくのでした……
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