第24話 緊急会議
朝ごはんを食べるひまもなくおとずれた、大樹の図書館の会議室――
そこに足をふみ入れたエミルは、息をのみました。
なんとそこには、アストライト王国最高峰と呼ばれる十人のマスターウィザードのうち、エイルをのぞいた五名が顔をそろえていたのです。
序列一位・黄色い髪と黄色いスーツに白いコートの、きらびやかでキザな雰囲気の美男子、"地上最速の光星"、ランス・グランシャリオ。
序列二位・薄紫色の髪で、あやしげに目を細めて笑う、ダークマゼンタのスーツの男性、"神出鬼没の影星"、ロック・スカーハイト。
序列三位・黒髪銀縁メガネで、黒スーツの上に砂色のコートをはおった男性、"難攻不落の地星"、ウォルター・ザントブルグ。
序列四位・おなじみ博士帽で緑のみつあみ、見た目は小柄な少女のような女性、"百科量覧の知星"、ロウラン・ミルフィオーレ。
序列五位・逆立った白髪と筋骨隆々とした肉体を持つ、荒々しい雰囲気の男性、"獣王武神の闘星"、ガロウ・ヴォルフガング。
そしてわれらが序列七位・やまぶき色の長い髪と瞳をきらめかせる、史上最年少マスターウィザードの少女、"巨獣狩りの剣星"、エイル・スターリング……
以上、エイルを加えた六名のマスターウィザードが、ここに集結したのです。
欠席者こそいるものの、この国に住む者にとっては、そうそうたる顔ぶれに変わりありません。大きな長テーブルをかこんで座る一人ひとりから、ずしりと重たい空気がただよっていました。
四方八方から放たれる威圧感に、エミルとシロン、シュガーは緊張するばかりです。シルヴィアには、いったん指輪にもどってもらっています。
ちなみに、マスターウィザードではないエミルは場ちがいな存在にも思えますが、いちおうはエイルの付き人というあつかいなので、だれもなにも言わないのです。ロウランの副官であるデックスも、同席していますし。
「……緊急の招集ながらも、六名も集まってくれるとは、感謝のいたりだよ」
ロウランは、ふふんと不敵に笑いながら、お茶を飲みました。
「俺様はいつでもウェルカムだとも。なにしろ、地上最速の男だからね」
ランスは、さらりと黄色い髪をかきあげて、キザったらしく言いました。
彼とはエミルも面識がありますが、あいかわらずだなあと思いました。
「とくにロック、まさかキミまで来てくれるとは思わなかったよ」
「いや……ウチの団員が殺されたとなったら、来ないわけにはいかないよ」
ロックの言葉に、姉妹はぴくっと反応しました。
「殺された団員の人って、もしかして……」
エミルは緊張のあまり、ふるえる小声でおそるおそるたずねます。
「そうだとも。王都の南門で死んでいた、ダルベールのことさ」
するとエイルは、ハッと目を見張り、身を乗り出しました。
「ダルベール? ダルベールは、糸目のおにーさんの仲間だったの?」
ロックはやれやれと首を振って、こたえました。
「……君がそこまで食いつくなんて、どうやらあの話、すこしは本当だったみたいだねえ」
「話?」
エイルはきょとんとします。
「彼、君がマスターウィザードになってから、酒場とかであちこちに言いふらしてたんだよ。"エイル・スターリングは、俺が育てた"……ってね」
エミルたちもまた、ぽかんと口を開けました。
「ガッハッハ! そりゃとんでもねえホラ吹きだな!」
豪快に笑い飛ばしたのは、ロックと同じくエミルとは初対面のマスターウィザード、ガロウでした。
「だれも、もちろん僕も、信じてはいなかったけど……少なくとも、友人に近い知り合いだっていうのは、事実だったようだね」
「うん。友だちだったよ」
エイルは、きっぱり答えました。
ロックはその即答ぶりにあっけにとられながらも、話を続けました。
「……君の質問に答えよう。たしかにダルベールは、僕のギルド、"星影舞台"のメンバーだった」
「そんなこと、はじめて聞いたよ」
「ムリもないさ。星影舞台はこの国の諜報機関。メンバーの情報は、固く秘密にされてるからね」
ロウランが横から解説しました。
諜報機関……国の平和を守るために影から暗躍する、いわゆるスパイの組織です。
「影の組織って……ダルベールって人、そんなおしごとしてたんですか?」
エミルは思わず声をあげました。
エイルから聞いたダルベールの印象と、あまりにちがっていたので、意外に思ったのです。
ロックは、くすっとほほえんで、エミルの質問に答えました。
「ああ、とてもそんなふうには見えないだろう? 君たちも感じたとおり、ダルベールには、そんな"だれにも警戒されない"才能があった。それは、諜報機関の人間として、うってつけだったのさ。だから、一年ほど前にスカウトしたんだ」
その話しかたは、どこか誇らしげだと、エミルは感じました。
「……そうだったんだ」
エイルはあぜんとしたまま、ぽつりとつぶやきました。
友だちについて、なにも知らなかったことに、思うところがあるのでしょうか。諜報機関の人間が正体を明かせないのはあたりまえなのですが、エイルの頭では、そこまで考えがおよびませんでした。
「……あ、もしかして、ダルベールさんが殺されたのって、その諜報機関の任務と関係があるんじゃ……」
「そのとおりだ、妹ちゃん。今回集まってもらったのは、その任務の内容にもかかわることだ」
ロウランはテーブルの上で指を組み、真剣な表情で語りはじめます。
「ダルベール氏に与えられた任務というのは、ノワール・モンブランについての調査だった」
「ノワール……それって、ズットータム山に現れた、盗賊たちのことですよね?」
『ついこのまえまで、ひきこもってたっていう、わるいヤツら!』
シロンはぷんすかしました。ワンダーをひどいめにあわせる連中が、ゆるせないのです。
「そのとおりさ」
ロックが口をはさみました。
「前から、ヤツらが活動を再開するというウワサは聞いていたからね。僕はダルベールに頼んで、その出どころを探ってもらっていたんだ」
「……それで、まんまと返り討ちにあった、というわけか」
ウォルターが、腕を組んだまま、ふくみのある口調で言いました。
ロックは気にしないふうで、肩をすくめます。
「……返す言葉もない。彼がやられるとは僕も予想していなかった。……いや、戦闘面ではまったく使い物にならないことはわかってたけどね。でも、まさか存在を悟られてしまうとは」
「あんな無能を使うから、こうなる」
ウォルターがさらに言うと、ロックは細めた目をわずかに開いて、冷たい声で返しました。
「……君にとってはそうかもしれないが、僕にとってはそうじゃなかったんだよ。僕の見る目に、ケチをつけるつもりなのかい?」
ふたりのあいだでバチバチと火花が散り、一触即発の雰囲気です。
エミルは止めたくても止められず、あたふたと見まもるしかありませんでした。
「でもよ、まだそのノワ……なんとかがやったと決まったわけじゃねえんだろ? 野生のワンダーにやられたとか、ほかのだれかにうらみを買ってたのかもしれねえぜ?」
ガロウが頭をポリポリかきながら言いました。
王都の中で野生のワンダーに襲われるなんて、ふつうは考えられませんが……以前、何度かそういうことがあったので、だれもつっこもうとしません。
ロウランが指レンズを作ってこたえます。
「いや、それはないな。たしかに死因となった傷はワンダーの攻撃によるものでまちがいないようだが、現場にはそれ以外の手がかりが見当たらなかったそうだ。あきらかに殺しに慣れてる、プロの手口だよ。さらに手持ちの金品にも手をつけていなかったことから、最初から"殺すこと"が目的だったと見るべきだろう」
金品という言葉にピンときて、エイルはたずねました。
「そうだ、ダルベールの持ってたおカネって、どうなったの?」
「妙なことを聞くねえ。わずかばかりの小銭が入ったサイフしか残ってなかったそうだよ。まったく手をつけられた様子はないとのことだ。もともと金欠だったってことだね」
「そっか……」
エイルは複雑そうな顔になりました。
ダルベールは、きのうの依頼で受け取った報酬のおカネを、持っていたはずです。それはどこに行ってしまったのでしょうか。あるいは……
「なにか、思うところがあるみたいだね?」
ロウランがたずねると、代わりにエミルがこたえます。
「あの……きのうお姉ちゃん……むぐっ」
すると、なぜかエイルが口をふさいでさえぎったのです。
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
「ふーん……」
ロウランはいぶかしげにエイルを見つめますが、ほかのマスターウィザードたちは、お子さまなエイルのやることだからと、あまり気にとめていないようでした。
いっぽうで、口をふさがれたエミルは、どうやらお姉ちゃんが、きのうダルベールと会っていたことを隠したがっているらしい、と気づき……その気持ちをくみ、口裏を合わせることにしました。おしゃべりなシロンにも目でサインをおくり……シュガーのほうは緊張でちぢこまっているので、問題なさそうでした。
ロウランは姉妹をじっと見つめると、こほんとせき払いをしました。
「さて……脱線ぎみになってきたところで、ダルベール氏の件はひとまず置いておいて……そろそろ、本題に移らせてもらおうかな」
「本題?」
エミルは首をかしげました。どうもロウランは、強引に話題を変えたように思えたのです。けれど、エイルの隠しごともありますし、気づかないふりをしました。
「なんだ? ロックの野郎の子分がやられたから、集まったんじゃねえのか?」
ガロウも疑問を口にします。
「たかだか一人が殺された事件だけで、これだけのメンツをそろえるわけがないだろう。マスターウィザード諸君。君たちを集めたのはほかでもない。……今朝、私のもとに、こんなものが届いた」
ロウランが指をパチンと鳴らすと、会議用の長テーブルの上に、大きな映像が浮かびあがりました。
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