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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


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23/43

第23話 事件発生

 姉妹の家では、エイルとエミル、クリスティーヌの三人と、パートナーたちがせいぞろいして、晩ごはんの時間になりました。


 食卓についているのは、三人のほかに、シロンとシュガー、シルヴィアです。


「……へえ、エミルも出かけてたんだ。しかも、ミリもいっしょなんてねえ」


 エイルは骨つき肉をがぶりとかじりながら、意外そうに言いました。ミリというのは、ミリアムのことです。


「うん。すごくいい人だったよ。連絡先も教えてもらっちゃった」


「そっかー」


『おねえちゃん、あのおねーちゃんと、どんなかんけい?』


 シロンも、はぐはぐと肉にかぶりつきながらたずねました。


「んー、前にいっしょに冒険してたことがあるんだよ」


『おともだちってこと?』


「たぶん、そーなんじゃないかなー」


 エイルは気のない返事です。けれど、お姉ちゃんが人間関係にそこまで無関心とは思えません。きっと、それだけ自然体でつきあえる仲なんだろうと、エミルは受けとめました。


「そーいえば、私もむかしの知り合いに会ったよ。偶然だねー」


「それって、どんな人? わたし、気になるなあ」


 エミルは、自分の知らないお姉ちゃんの話に興味津々で、身を乗り出しました。


 となりに座るシルヴィアは、じとーっと半目になります。もしかしたら、またエミルに近づく悪い虫が増えるかもしれないと、警戒しているのです。


「ダルベールっていうんだけどね。くたびれた感じの、おっさんなんだ」


『お、おっさん……』


 シュガーをはじめ、エミルたちもあっけにとられました。エイルの交友関係は、意外というか、広いというか……


「でもね、悪いやつじゃないよ。いっしょにいて、楽しかったし」


「そっか。わたしも会ってみたかったなあ」


 くたびれたおっさん、というのはともかく。エイルにそこまで言わせる人は、なかなかいません。エミルは、ますます興味がわいてきました。


 となりのシルヴィアは、むっとふきげんそうな顔になりましたけれど。


「また会えるよ。また会おうって約束したからね」


「そういえば、クリスティーヌさん、おるすばん、まかせちゃってごめんなさい」


 エミルは、姉妹の希望でいっしょに食卓をかこんでいるクリスティーヌに、もうしわけなさそうに言いました。


 すると今度は、シルヴィアがふふんととくいそうな顔になりましたけれど。


「いえ、それがメイドのおしごとですから」


 クリスティーヌは、にっこりほほえんで返します。


 たしかにそうなのですが、エミルは、彼女も家族の一員だと思っています。のけものにしたようで、後ろめたかったのです。


「そもそも、おるすばんなんていらないんじゃない?」


 エイルがぼやくと、シュガーがむっとした様子で言いました。


『いえ! ロウランさんが、また勝手に入ってくるかもしれませんっ!』


 シュガーが家族の一員となったきっかけの、前の冒険――そのとき、ロウランが何度も姉妹の家へしのびこんできたので、とくに気にしているのです。


 シルヴィアはここぞとばかりに、ずいっとエミルに体をくっつけ、さらりと銀髪をゆらして、整った顔を近づけました。


『そうですよ! シュガーちゃんの言うとおり! 家を守るのも、重大な任務です! ね、エミル様?』


 シルヴィアの気持ちはわかるものの、そこまでやきもちを焼かなくてもいいのに、とエミルは苦笑いを浮かべました。


 エイルはコップになみなみ注がれたお茶を、ごくごくと飲み干しました。そして、ふいにぽつりと言います。


「……そーいえば、私がオトナになったら、いっしょにお酒飲もうって約束もしてたっけ」


「それって、ダルベールって人と?」


「そうだね。……オトナって、何歳からだっけ?」


「一般的に、このアストライト王国では12歳で一人前、15歳で成人というあつかいですね。けれどお酒は、20歳になってからというきまりです」


 クリスティーヌが教えてくれました。


 エイルもエミルも、12歳で一人前と認められると、親元を離れて旅に出ました。そして、いまは王都に住んでいるというわけです。……正確には、エイルは追放されたのですけれど。


「20歳かー、じゃあ、あと四年待たなきゃいけないのかー」


「正確には、あと三年と少しだけどね。お酒、飲んでみたいの?」


「よくお店で、おっさんたちがおいしそうに飲んでるからね。ちょっと気になってるかな」


『あ! シロンも、おとうさんがのんでるところをみて、おいしそうだなっておもってるよ! ……でも、エミルがのませてくれないの!』


 おとうさんというのは、故郷にいるエイルとエミルの父親のことです。


「だって、ドラゴンはお酒に弱いんだもの。それに、シロンは人間換算でもまだお子さまじゃない」


『むー! シロンだってもう、いちにんまえのドラゴンだもん! おっきくだって、なれるし!』


『それは、エミルさんのチカラがあってのことじゃない。シロンひとりのチカラじゃないよ』


 シュガーが、ちくりと言いました。


「そういえば、シルヴィアはお酒って飲んだことある?」


 長命種で、見た目よりずっと年上の彼女なら、どうなのでしょう。エミルはたずねてみました。


『いえ……故郷の森では、お酒はつくっていませんでしたし。でも……私(わたくし)もエミル様がオトナになられたら……いっしょに飲んでみたいです』


「そっか。じゃあ、約束ね」


 エミルがにっこり笑って言うと、シルヴィアは顔をまっかにして、感激のあまり、豊かな胸にエミルをぎゅーっと抱き寄せました。


『シロンもやくそく! ぎゅー!』


『あ、じゃあ……わたしもっ!』


 シロンとシュガーも、いっしょになってエミルに抱きつきました。


 その光景を、エイルとクリスティーヌはほほえましく見守っています。


「……まあ、いっか。お楽しみはあとにとっておくのも、たまにはいいよね」


 そっと目を細めてつぶやくエイルのまなざしは、どこか遠くを見ているようで、エミルは思わずドキッとしました。


 自分とそっくりな顔をしているのに、どこかさびしげで憂いを帯びたその表情は、やっぱり自分より四年分オトナなんだなあと、エミルはしみじみ思うのでした。



 ☆ ☆ ☆



 そんなこんなで夜が明けて、エイルとエミルは、パートナーたちといっしょに、朝ごはん前のさんぽに出ていました。


 クリスティーヌは、今回もおるすばんです。もちろんさそってはみたのですが、朝はごはんの支度のほかにも、いろいろといそがしいから、とことわられてしまったのです。


 そういうわけで、彼女に対抗意識を燃やしっぱなしのシルヴィアは、上機嫌でエミルの左腕にぎゅっとしがみついています。


 どよどよ……がやがや……


 すると、なにやら南門のほうに向かって、人々がぞろぞろと集まっているのが気にかかりました。


「なにか、あったのかな?」


 エミルのつぶやきにこたえるように、耳のいいシルヴィアとシュガーが、すっと意識をとぎすまして、人々の会話をひろいました。


『なんだか……人が死んでる、みたいです……』


 シュガーのひとことで、姉妹にぴりっと緊張が走りました。


 平和な王都で、人が死ぬ……これは、事件のにおいです。


 エイルは無言で南へと駆け出し、エミルたちもあわててあとを追いかけます。



 ☆ ☆ ☆



「みなさん! 道をあけてほしいであります!」


 警察官たちが、人ごみをかきわけているのが見えました。


 そのとき、ちらりとのぞいた血まみれの死体の姿を――目のいいエイルは、見逃しませんでした。


「……!」


 エイルは気がつくと、ダッと人波をぬって、死体のもとへ飛び出していました。


「お姉ちゃん!?」


 あっというまのできごとで、エミルはぽかんとするばかりです。


「あ、ちょっと……」


 警察官が止めようとするのもふり切って、エイルは死体の目の前までたどりつきました。


 見下ろした先に倒れていたのは……よく知っている人でした。


「……ダルベール」


 きのう、エミルに会わせると約束したばかりの、くたびれたおっさん――ダルベールだったのです。


 エイルは、ぼうぜんと立ちつくしていました。


 いま、胸の中でうずまいている気持ち……それは、エイル自身にもわかりません。


「すみません! 道をあけてください!」


 つづいて、エミルたちも現場に追いつきました。


 ざわっと、人々の視線が姉妹に集まります。隠ぺい魔法の効果が弱まり、有名人である姉妹の存在に、みんな気づいてしまったのです。


 けれど……いまは、そんなことを気にしている余裕はありませんでした。


『っ……!』


 シュガーは思わず目をおおい、シロンとシルヴィアも言葉をなくして、ぎゅっと口をむすんでいます。


「この人が……ダルベール、さん……」


 エミルも、はっと息をのみました。


 エミルにとっては、会ったことのない人です。けれど、ゆうべお姉ちゃんが話してくれた知り合いが、もうこの世にいないのだと思うと、胸がきゅうっとしめつけられました。


 どうしていいかわからないまま、姉妹がただ見つめているあいだに、警察官たちがダルベールの遺体を運んでいきます。


 そのとき……一羽の青い鳥が、ぱたぱたと姉妹のもとへ飛んできました。


「この子は……ロウランさんの、【トゥイート】?」


 ロウランの頭の上で暮らしている、鳥型のワンダー【トゥイート】です。聞いた声をそっくり録音できるので、伝言役をつとめているのでした。


『……キミたち、緊急事態だ。すぐに、大樹の図書館(ライブアライブラリ)まで来てくれ』


 それは、姉妹にあてたロウランの声でした。


 それも、ふだんのへらへらした調子とはちがう、ぴんとはりつめた声です。


「緊急事態……」


 エミルは重々しくつぶやき、王都の中心にそびえる大樹を見つめました。


 姉妹の新たな冒険の予感が、すぐそこまでせまっていました。



お読みいただき、ありがとうございました。

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