↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/37

第21話 夢

 ミリアムは、高い岩の上から、ずっと下にいるオオカミキメラに、ぴたりと狙いを定めます。


 その瞬間……彼女の右手人差し指の指輪が、赤い光を放ちました。


「あれは……」


 エミルたちが、その光に目をうばわれた、つぎの瞬間。


 パシュッ!


 目にも止まらぬ速さで、矢が放たれ……


 ドッパアアン!


 遠くまで響くほどの破裂音とともに、オオカミキメラの頭部がふっとびました。


「『え?』」


 エミルたちは、ぽかんと口をあけました。


 キメラに命中した矢が……爆発したように見えたからです。


 頭部を失ったキメラの体は、ぐらりとかたむき……その場にどさりと倒れました。


「……よし、討伐完了!」


 ミリアムはボウガンを下ろし、ひたいの汗をぬぐって宣言しました。


『……え? もうおしまい?』


 シロンは、あっけにとられた顔で、目をぱちくりさせます。


「おしまいだよ。狩りなんて、そんなもんだよ」


 ミリアムは肩をすくめて、あっさりと言いました。


 シロンも、狩りとはそういうものだと頭ではわかります。それでも、とてもつまらなそうに、ぷうっとほっぺをふくらませるのでした。


「ダークエルフちゃんも、勉強になったかな?」


 ミリアムは、シルヴィアをふり返ってたずねます。


 シルヴィアは、整った美しい顔を一瞬きょとんとさせましたが、銀髪をさらりとゆらし、神妙な顔つきでこたえました。


『はい……お義姉さまのご友人だけあって、すばらしい狙撃技術でした……ただ、矢が当たったときの爆発は……別のパートナーによる魔法の効果……ですよね?』


「お、気づいた? さすが、魔法にくわしいね」


 ミリアムはにやりと笑い、ボウガンをつけた右腕をかかげて、人差し指の指輪を見せつけます。


「この中には、力の精霊が入っててね。撃った矢に《インパクト》の魔法をかけてくれるんだよ」


『インパクト?』


 シュガーが、首をこてんとかしげます。


「矢にマナをぎゅぎゅっとつめこんで、命中した瞬間に、いっきにはじけさせる魔法だよ。当たりどころがよければ、だいたいのエモノは一発でしとめられるんだ」


『ほえー……』


 エミルのパートナーたちは、うらやましそうに指輪を見つめていました。


 そしてミリアムはアームドを解いて、テルを指輪にもどします。


「さてと……じゃ、キメラのあとしまつをしないとね。妹ちゃん、また【グレイトウルフ】を呼んでくれる?」


「は……はい」


 エミルはいったんシルヴィアを指輪にもどすと、グレイを呼び出し、一行は、しとめたキメラのもとへ駆けていきました。



 ☆ ☆ ☆



『うっ……』


 ワンダーのなきがらを間近で見るのがはじめてのシュガーは、さっと目をおおいました。


「……つくづく、ゆるせないよ。こんなことをするヤツらを……」


 ミリアムは、ぎりっと歯をかみしめました。


 狩人として、自然とともに生きる彼女にとって、自然のおきてを無視したキメラと、それを作り出した人間は、どうしてもがまんならないのでしょう。


『……』


 同じオオカミであるグレイも、複雑そうな顔をしています。


 グレイは、もともとエミルのパートナーではなく、その前は裏の世界の住人といっしょにいました。エミルにむかえられていなければ、あるいは自分も、このキメラのようになっていたかもしれない……そんなことを考えているのかもしれません。


『このこ……どうするの?』


 シロンが、しゅんとした声でたずねました。


 ミリアムもまた、悲しそうに目を細めてこたえます。


「……依頼では、あとのことは何も言われてないんだ。学者連中なら、サンプルのために持って帰ろうとするだろうけど……あたしは、このまま葬ってやったほうがいいと思ってる。死んだあとも体をいじくりまわされるなんて、かわいそうだよ」


 すると、エミルが一歩前に出て、申し出ました。


「あの……でしたら、このこをおくってあげるのは、わたしにまかせてもらえませんか?」


 指輪から出てきたシルヴィアも、こくこくとうなずきます。


『そうです! "浄化のチカラ"が使えるエミル様に、ぴったりのお役目です!』


 ミリアムは、はっと思い出した顔をしました。


「おお、そういえば妹ちゃん、"雨あがりの聖女"なんて呼ばれてるんだっけ。……いいよ。せっかくだ。やってもらおうかな。ただの足がわりで終わるだけじゃ、もったいないもんね」


「ありがとうございます!」


 エミルはぱあっと顔をかがやかせ、キメラのなきがらに駆け寄りました。


 そして、ふところから杖を取り出し、肩の上のシロンに呼びかけます。


「いくよ、シロン」


『オーライ! シロンにおまかせ!』


 シロンは背中の翼をぱたぱたとはばたかせて宙に浮かび、すうーっと息を吸いこみます。


 エミルが祈るように杖をかまえると……ふたりの体が、虹色の光につつまれていきました。


「おおう……」


 ミリアムは思わず声をもらし、シルヴィアは、銀髪を光にきらめかせながら、感激のまなざしでエミルを見つめています。


 そして――


「《プリズムフレア》!」


 エミルが杖を振ると、シロンは虹色の炎を吐き、キメラのなきがらを包みこんでいきます。


 炎を浴びたキメラの体は光の粒子となって、天へとのぼっていきました。


「こりゃ、すごい……」


 ミリアムは空をあおぎ、光の粒子を見送りながら、ぽつりとつぶやきました。


「どうか、安らかに……」


『つぎは、ちゃんとしたワンダーとして、いきられるといいね』


 エミルとシロンは、そろって祈りをささげます。人の手で、いびつに命をゆがめられたオオカミキメラを思って……


『……おつかれさまです、エミル様』


 シルヴィアは、そっとエミルの肩を支え、ねぎらいの言葉をかけました。ほれぼれするほど美しいほほえみが、エミルの心をやさしくいやしてくれます。


「ありがとう、シルヴィア」


『ちょっとー、シロンにはなんかないのー?』


 シロンが、むうっと口をとがらせます。


『うん、シロンも、がんばったね』


 ふきげんなシロンを、シュガーがかわりにねぎらってくれました。


 ぱちぱちぱち。


 ミリアムが、素直な拍手をおくります。


「すごかったよ、妹ちゃん。やっぱり、エイルの妹だね。方向性はちがうけど、とんでもないところは、そっくり」


 大好きなお姉ちゃんとそっくりだと言われて、エミルは、ふにゃりと照れ笑いをうかべました。


「えへへ……ありがとうございます……」


「それに……ずいぶん命にやさしいんだね」


 エミルは、ふっと目をふせます。


「そうありたいとは思ってるんですけど……結局、あの子が死ぬところを、だまって見てるしかできなかったし……あ、ミリアムさんを責めてるわけじゃありませんよ?」


 ミリアムは、くすくすと笑いました。


「ふふっ、わかってるって。ただ、妹ちゃんは、命のことをしっかり考えて、ちゃんと背負おうとしてる。それって、命にやさしくなかったらできないことだよ」


「……ありがとうございます」


 ミリアムは、ひろがる岩場をながめながら、しずかに言いました。


「……あたしもね、好きでワンダーの命を奪ってるわけじゃない。ただ、そうしなきゃ助からない命だってあるし、そうすることで助かる命だってある。だからあたしは、ためらわない。エイルも、同じ考えでしょ?」


「……はい。お姉ちゃんも、そんな感じです」


「自分の心がキズつくだけで、みんなの笑顔を守れるなら、こんなにうれしいことはないよ……これは、妹ちゃんにもわかるよね?」


「……はい」


 エミルは、こくりとうなずきました。


 ミリアムは、ふと思いついたようにたずねます。


「妹ちゃんは、夢ってある?」


「……あります。世界じゅうのワンダーを、しあわせにしたいっていう夢が」


「ずいぶん、でっかい夢だね」


「だからこそ、やりがいがあります」


「かなえられるって、思ってる?」


「正直……いまはすごくむずかしいって思ってます。今回も、これまでも、助けられなかったワンダーが、何体もいました。たとえ死なせずにすんでも、すみかや食べものの取り合いはさけられないし、それで苦しんでいる子たちにも出会いました。何度も、ムリなんじゃないかって思いました」


「でも……できるって信じてる。妹ちゃんの目は、そう言ってるよ」


「信じるのをやめたら、かなう可能性は、ほんとうにゼロになっちゃいますから」


 しずみかけた夕日を背にしたエミルは、ちょっぴり切ない顔をしていました。けれど、その青い瞳は、強い思いに燃えています。


 右肩のシロンも、左肩のシュガーも、夕日をあびていっそうかがやいて見えるシルヴィアも、足もとのグレイも……「自分たちもついてるよ」と言わんばかりに、エミルにそっとよりそいました。


 そんな仲間たちの姿を見て、ミリアムは、ふっとほほえみます。


「……そっか。あたしは応援してるよ」


「ありがとうございます」


 エミルもまた、ほほえみを返しました。


「ちなみに、あたしの夢はねえ……」


 もったいぶるミリアムに、エミルたちは、ごくりと息をのみます。


「毎日おいしいものを、おなかいっぱい食べることだよ」


 その答えに、エミルたちは、そろってずるっとずっこけました。


 最初は「なにそれー」と思いましたが……落ち着いて考えてみれば、とてもよくわかる夢です。とくに、くいしんぼうのシロンには。


 毎日好きなものを、好きなだけ食べる。それがどんなにむずかしくて、どんなにしあわせなことか、エミルたちにはよくわかるからです。


「思ったとおりの反応だね。がっかりした?」


 ミリアムが、からかいまじりにたずねました。


 エミルは、ふるふると首を横に振ります。


「ううん。とってもすてきな夢だって思いました」


 それは、心の底からの、ほんとうの言葉でした。となりでは、オレンジの瞳をきらきらさせたシルヴィアも、うんうんとうなずいています。


「そっか」


 ミリアムはやわらかく笑うと、ぐいーっと伸びをしました。


「きょうは、妹ちゃんに会えて、ホントによかった。じゃあ、そろそろ王都へ帰ろうか」


 そのとき、エミルは、ぽんと手をたたきました。


「あ、そうだ。せっかくだから、うちで晩ごはん食べていきませんか? 最近家族になったメイドさんが、とっても料理上手なんです!」


「へー、メイドやとったんだ。おどろきだけど、正解だね。専任の料理人でもなけりゃ、エイルの胃袋を満足させらんないでしょ?」


「あはは……そんなところです」


 さすがお姉ちゃんの友だち、よくわかってるなあ……と、エミルは力なく笑いました。


「せっかくのおさそいだけど、エンリョしとくよ。メシ時にエイルと顔合わせたくないんだ。見てるだけで、胸やけしちゃう」


『それ……わかる気がします……』


 シュガーが苦笑いして、ぼそっとつぶやきました。


「そうですか、残念です」


 エミルは、しょんぼりと肩を落とします。


「ごめんね。そのかわり、今度ふたりきりで、どっかに食べに行こうね。約束のエイルの話も、そのときにしてあげるよ」


「はいっ、楽しみにしてます!」


 エミルの顔が、ぱあっとあかるくなりました。


「それじゃ、帰ろっか! オオカミくん、帰りもたのむよー?」


 シルヴィアが指輪にもどり、エミルとミリアムは、ふたたびグレイの背にまたがります。グレイは、ふんと鼻を鳴らして、ちょっぴり胸を張りました。


『ガオッ!』


 キメラ討伐を終えた一行は、夕焼け空の下、王都への帰路につきました……



お読みいただき、ありがとうございました。

今日でエミルシリーズは連載一周年をむかえました。今後ともよろしくおねがいします。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。