↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 黒竜事件  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/44

第20話 エミルとミリアム

「それじゃ、もうしわけないけど、おるすばんをおねがいね、クリスティーヌさん」


「はい、いってらっしゃいませ、エミル様」


 クリスティーヌは笑顔で、ぺこりとおじぎをしました。


 エミルとしては、彼女も連れていきたいのはやまやまです。けれど、グレイの大きさでは、人間をふたり乗せて走るのがやっと……エミルとミリアムだけで、もう定員いっぱいなのです。


 指輪の中では、シルヴィアがふふんと勝ち誇っていました。


「グレイ、出ておいで!」


 家の外に出たエミルは、指輪から灰色のオオカミ型ワンダーを呼び出しました。


「へえー、【グレイトウルフ】じゃん。妹ちゃん、いいコ持ってるね~」


 ミリアムも感心した様子です。


 グレイも、まんざらでもないといった感じで、どこかとくいげな顔。そっけなくしていますが、ほめられて悪い気はしないのでしょう。


「それで、目的の場所はどこですか?」


「王都の南東だね。そのあたりにちょっと大きめの岩場があってさ。オオカミ系のタフな足がほしかったんだよね。グレイトウルフなら、心配ないかな」


「わかりました。それじゃ、わたしのうしろに乗ってください。グレイはシロとちがって気むずかしいから、気をつけてくださいね」


「これでも冒険家だよ。荒っぽいのはなれてるから、心配無用ですよっと」


 エミルにつづいて、ミリアムもグレイの背中にまたがります。


 グレイはわずかに顔をしかめたものの、彼女のことを受け入れてくれたようです。


「ぜんぜんいいコだね。なかよくなれそう」


『おねーさん、なんだかおねえちゃんみたい』


 エミルの右肩にちょこんと乗ったシロンが言いました。まぎらわしい言い方ですが、シロンはミリアムをエイルとくらべているのです。なんでも、ふたりは友だちなのだそうですから。


「そう? エイルとはなんだかんだで、波長が合うからねー……そのせいかも」


 ミリアムは苦笑いして返します。その関係を、どこか楽しんでいる様子です。


「シュガー、おるすばんしなくてだいじょうぶ?」


 エミルは、左肩のシュガーに確認しました。


 なにしろ、今回は生きものを狩る冒険です。平和を愛する、おとなしい性格のシュガーには、つらい場面になるかもしれません。


『……だいじょうぶです。わたしは、エミルさんのパートナーですから!』


 シュガーはやる気に満ちた顔で言いました。


「よーし、それじゃ出発だよ、グレイ!」


『ガオッ!』


 グレイはひと吠えすると、エミルたちを乗せて駆けだしました。



 ☆ ☆ ☆



 王都を出て、走ること一時間ちょっと。エミルたちは、目的の岩場にたどりつきました。


『ハアー……ハアー……』


 グレイはぐったりと座りこみ、ぜえぜえと荒い息をついています。


「このコ、だいじょうぶなの?」


「うーん、帰りまでには回復してると思いますけど……」


 なにしろ、走っている途中、エミルとミリアムがシロと何度もくらべるものですから、プライドが高くて負けずぎらいなグレイは、対抗意識で限界以上にスピードを上げてしまい、すっかりバテてしまったのです。残念ながら【グレイトウルフ】と【ニュードウルフ】とでは、種族としての性能にまだ大きな差があるのでした。


『じごーじとくだね』


 シロンは、じとっとした半目で、きびしいひとことを残しました。


「ま、いいや。妹ちゃん、ついてきて。あ、できるだけ気配は消してね」


「はい」


 エミルはグレイを指輪にもどすと、足音をしのばせて、ミリアムのあとを追いました。エミルは、故郷の村ではかくれんぼ名人。あのエイル(おねえちゃん)にも、見つかったことがないほどです。気配を消すのは、お手のものでした。


 ふたりがいるのは、デコボコした岩場のいちばん高いところ。ミリアムはそこから、あたり一帯の様子をうかがっていました。


『ひろいけど、なんかしずかだねー……』


『そうですね、ワンダーの気配がぜんぜんしません。これってまるで……』


 シロンとシュガーも、岩場をながめながら、首をひねっています。


 その答えを、エミルが口にしました。


「ズットータム山と同じ……野生のワンダーが、なにかにおびえて、かくれてるんだ……」


「お、妹ちゃん、そういうのわかるんだ」


 ミリアムが感心したように言います。


「もしかして、ミリアムさんの狩りたいものって?」


「そうだよ。このあたりを荒らしまわってる、悪いヤツ」


 そう言うと、ミリアムは三つの指輪のはまった右手をかざしました。


「おいで、テル!」


 中指の指輪から現れたのは、頭のてっぺんがぴかっと光る、目つきの鋭い大きなハゲワシ型ワンダーです。


「【ガンバルチャー】のテルっていうの。あたしのたよれる相棒だよ」


 ミリアムは右手のアームガードにテルをとまらせて、誇らしげに紹介しました。


『なんか、めがこわい……』


『わたしも、ちょっとにがてかも……』


 シロンとシュガーは、エミルの肩の上でぶるっとふるえました。


「まあ、肉食の鳥だしね。それにハゲワシって、死んだ動物の肉をあさったりもするし」


 ミリアムがさらりと言うと、ふたりはますますぶるぶるとふるえます。


「ミリアムさん、そのへんで……」


 エミルが止めに入りました。


「おお、そうだね。おどかすつもりはなかったんだよ。ごめんね」


 ミリアムはあやまりますが、ふるえあがっているシロンとシュガーには、聞こえていなさそうです。


「さーて、飛んでおいで!」


 ミリアムが、テルを大空へ放ちます。


 テルは大きく翼をひろげ、岩場の上をぐるりと旋回しはじめました。


「あの子に、様子を見てもらうんですね」


「それだけじゃないよ、《バードアイ》!」


 ミリアムの声に応えるように、空の上でテルがひと声鳴きました。ミリアムは指をまるめて小さなレンズを作ると、それを右目にあてて、のぞきこみます。


「あ、視覚共有の魔法!」


「あったりー! ホントにくわしいね、妹ちゃん」


 視覚共有――パートナーのワンダーが見ているものを、ウィザードもそのまま見ることができる魔法です。おもに偵察のときに使われます。


「せっかくだから、君たちも見てみる?」


 ミリアムは指レンズを、ようやくふるえがとけたシロンとシュガーに見せてあげました。


『わーお!』


『すごい! 岩場のようすが、はっきり見えますっ!』


 テルの目を通した景色に、ふたりは大興奮です。


「機嫌なおしてくれてなにより。でも君たちも空を飛べるから、感動は薄いかな?」


「この子たちは、ふだんそんなに高く飛んだりしませんから、きっと新鮮にうつってると思いますよ」


 そのまま、偵察をつづけていると……


「いた」


 ミリアムの声が、すっと低くなりました。


 どうやら、標的を見つけたようです。


『どんなの!?』


 シロンが身を乗り出します。


 ミリアムが指レンズを見せてやると……


『……なに、あれ……』


 シロンは目を丸くしました。


 つづけてエミルも見せてもらうと、そこには……なんと、翼の生えた一頭のオオカミがいたのです。


 遠目からですが、シロほどではなくても、グレイの倍はありそうな大きさです。なるほど、こんなものがのっしのっしと歩きまわっていては、野生のワンダーたちもおびえるしかないでしょう。


 しかし、これは……


「まさか……合成獣(キメラ)?」


 エミルは、おののきながらつぶやきました。


「おっ、よく知ってるね、妹ちゃん」


「前に見て……実際に、戦ったこともありますから」


「あははっ、やっぱりエイルの妹だね。波乱万丈な経験してるぅ」


 キメラ――それは、複数の生きものが人の手で無理やりひとつにされて生まれた、いびつな生命体のことです。鳥の翼を生やしたオオカミなんて、自然にはまずいません。野生のワンダーにも、あんなのは……ごくごくたまにしかいないはずです。


「情報によると、どっかの研究所で作られたのが逃げたんだって。野放しにしておいたら、このあたりの生態系に悪影響が出ちゃう……」


 さっきまでゆるんでいたミリアムの顔が、一瞬にして引きしまりました。


 さすがはエイルの友人……しっかりプロの目つきです。


「居場所はわかった。狙いやすいポイントにいくから、妹ちゃん、ついておいで」


「わ……わかりました」


 エミルたちはごくりと息をのみ、駆けだしたミリアムを追いかけました。



 ☆ ☆ ☆



 岩場を移動したエミルたちは、獲物がはっきり見える位置にたどりつきました。


『それで、どうするの? たたかうの?』


「いいや、戦わないよ」


『え? でも、あいつをやっつけるんじゃないの?』


 シロンはこてんと首をかしげます。


「うん。やっつけるよ。ここから、狙い撃ってね」


「狙撃……」


 エミルは、またごくりとつばをのみこみました。


「テル、アームド!」


 ミリアムが右手をかざすと、上空を旋回していたテルが光をまとって急降下し、彼女の右のアームガードと合体しました。


 すると……ミリアムの右手に、ハゲワシをかたどったボウガンが装着されたのです。


『あ! それで、あのオオカミをねらいうちするんだね! ばきゅーん! って!』


 シロンは、感激に目をきらきらさせました。


「そのとおり!」


 ミリアムはにやりと不敵に笑って、ボウガンをかまえます。


 狙うは……オオカミキメラの頭部です。


 なにか役に立ちたいと思ったエミルは、おそるおそるたずねました。


「わたしは、なにをすればいいですか?」


「ジャマさえしなきゃいいよ。もともと、足がわりがほしかっただけだし」


「そうですか……」


 エミルは、ちょっぴりしょんぼりしました。はっきり言ってくれるなあと、心の中でつぶやきながら。


「あ……そうだ!」


 けれど、すぐになにかを思いつき、指輪から【ダークエルフプリンセス】のシルヴィアを呼び出しました。


『お呼びですか、エミル様?』


 シルヴィアは、つややかな褐色の肌と宝石のようなオレンジの瞳をきらめかせ、エミルに期待のまなざしを送ります。


「彼女も弓矢を使うので、見学させてもらってもいいですか?」


 エミルはそんな期待をひょいと受け流して、ミリアムにたずねました。


 シルヴィアは、美しく引き締まった体で格闘もこなし、魔法も得意という多芸ぶり。それでいて森の住人(エルフ)だけに、弓矢の腕前もたしかなのです。


「もちろんいいよ。しっかり勉強してね」


「ありがとうございます」


 シルヴィアも、ぺこりと頭を下げました。絹糸のような銀髪が、さらりとなびきます。


 お義姉さまと慕うエイルの友人ということで、ミリアムにも尊敬の気持ちを持っているみたいです。


(次こそはクリスティーヌさんに勝てるように、よーく見ておくんだよ)


 エミルは、シルヴィアだけに聞こえるようにささやきました。


 シルヴィアは、エミルの心づかいをうれしく思い、満面の笑顔でこたえます。


「さあ、狩りの時間だ!」


 持ち場についたミリアムが、眼下にたたずむオオカミキメラへ、ぴたりと狙いを定めました。


 エミルたちがかたずをのんで見守るなか……はたして、狙撃は成功するのでしょうか?



お読みいただき、ありがとうございました。

今日でエミルシリーズは連載一周年をむかえました。今後ともよろしくおねがいします。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。