第19話 エイルの成長
「おほーっ! あいかわらず速えーな、シロ公!」
エイルと、旧友のダルベールを乗せたシロは、王都の南の平原を走っていました。ぐんぐん風を切って、わずか二十分ほどで、目的地にたどりつきます。
「さすがだな。レンタル騎獣じゃ、ここまで速く着けねえ」
「当然だろ。シロはすごいんだぞ」
『ワンッ!』
エイルはまるで自分のことのように胸を張って、シロの顔をわしゃわしゃとなでてやりました。
ちなみに"レンタル騎獣"というのは、騎乗できるワンダーをレンタルするサービスのことです。速く移動できるのは便利ですし、そういったパートナーを持つウィザードは、そう多くはありませんから、たいへん需要があるのです。
さて、二人の目の前にあるのは、岩場にぽっかりと口を開けた大きな洞穴です。高さは、目算で十メートルあるかないかくらいでしょうか。
「あの洞穴に潜んでる、【ストーンザウルス】を討伐するのが、今回の目的だ」
「理由は?」
エイルがたずねると、ダルベールはあっけにとられて、目をぱちくりさせました。
「……お前、そんなこと聞くヤツだったか? いつもなら、「わかった、まかせろ」で、すぐ突っこんでくだろ」
「妹の影響で、最近はね。理由のないワンダー退治は、もうやめたんだ」
四年ぶりに再会したエミルが、むやみに命をうばわないとはっきり言ったことに胸を打たれて、エイルもそれにならうことにしたのです。
「……そうか。でもそういうことなら、次からは出発前に聞いてくれ。いや、言わなかった俺も悪いが……」
ダルベールは頭をかかえますが、口もとは笑っていました。
そして、なにか考えこむように、すこしだまってから、話を切り出します。
「……依頼者は、とある建築ギルドだ。建築資材として、ストーンザウルスの体に生えてる石がほしいとさ」
「じゃあ退治はできないね」
エイルがきっぱり言うと、ダルベールはあわてふためきました。
「た、たしかにそうだが……素材や食材をとるための討伐なんて、あたりまえにやってることだろ? いまさらそんな……」
「わかってるよ、そんなこと。退治はできないって言っただけ。協力はするよ。約束したもん。それに、素材がないと、みんな困るんだろ」
「えっ……」
ダルベールは、なに言ってんだコイツ、と言いたげに顔をしかめました。
「ちょーっと、体に生えてる石をもらっちゃえばいいんでしょ? だったら退治する必要、ないじゃん」
「ま、まあ……そうなんだが……できるのか、お前に?」
「まかせろ」
エイルはとくいげな顔でペールオレンジのマントをひろげ、つかつかと洞穴へ歩いていきました。
すると……
「おーい! ストーンザウルス、出ておいでー! 体に生えてる石、ちょうだーい!」
まるで友だちを遊びに誘いに来た子どものように、大きな声で呼びかけたのです。
岩かげから見守っていたダルベールは、ずるっとずっこけました。
(ア、アホーッ! いきなり呼ぶヤツがあるか!)
心の中でそうさけびますが、声には出しませんでした。よく考えてみれば、エイルはそういうヤツだったと、思い出したからです。
『グオオオオッ!』
案の定、洞穴の奥から怒ったような吠え声とともに、ストーンザウルスがぬうっと現れました。
体高五メートルほどの、ベージュの大トカゲ……というかもはや、怪獣です。情報どおり全身から石が生えていて、まさに歩く岩山のようです。
ストーンザウルスは、エイルを見つけると、ドスドスと大きな足音を響かせて、襲いかかってきました。
問答無用、完全に敵とみなしているようです。
ダルベールは、ドキドキしながら見守っています。けれど、エイルを心配しているわけではありません。いや、ある意味そうなのですが……
ストーンザウルスの身を心配しているのです。エイルをよく知るダルベールは、彼女がエモノを狩るとき、どれだけ恐ろしい光景がひろがるかも知っているからです。なにしろ、エイルは敵とみなした相手には、容赦しませんから。
ストーンザウルスの突進が、あと少しでぶつかるという、その瞬間――
エイルの体が、ふわりと高く宙を舞いました。
ぶつかってふっとばされたのではありません。みずからの脚力で、体高五メートルの巨体の真上まで、ひらりと跳びあがったのです。
エイルは空中で、エクシリアを合体させた黄金の大剣を、ぐっとかまえ――
ガッキィーーーン!
ストーンザウルスの硬い背中めがけて、大剣の腹で思いきり振り抜きました!
『ガアッ……』
衝撃が背中から頭までびりびりと響きわたり、ストーンザウルスは目をまわして気を失うと、ズズーンと大地に伏せました。
「……ふうっ。いっちょうあがり。どうだ、ダルベール!」
ストーンザウルスの背中の上で、エイルは元気いっぱいに、ぶんぶんと手を振っていました。
「ははは……あいつ、また成長してやがる……」
ダルベールは力なく、あきれ笑いを浮かべるのでした。
☆ ☆ ☆
「ごめんねー、ありがとう」
素材採取を終え、エイルは気を失ったままのストーンザウルスに、あやまってお礼を言いました。
体じゅうから生えていた石をごっそり切り取られ、ただのベージュの大トカゲになってしまっています。でもご安心。体の石はツメのように、また新しいものが生えてきます。
「いやー、助かったぜ、エイル」
「ダルベールは、なんもしてないけどね」
「なんかする前に、お前がなんとかしちまったからな」
「まあ、いいけど。それより、この石、どうやって持って帰るの?」
採取したストーンザウルスの石は、一か所にこんもりと、小山のように積まれています。とてもじゃありませんが、持って帰れるような量と重さではありません。
「ワイバーン便に連絡して、運んでもらうことになってるから、大丈夫だ」
ワイバーン便とは、その名のとおり翼竜による荷運びのサービスです。ワイバーンは力が強いので、何体かでまとめて運べば、なるほどこの石の山もなんとかなるでしょう……ワイバーンたちは、たいへんでしょうけれど。
「……にしても、おどろいたぜ。まさか、お前がワンダーを殺さずに、おとなしくさせるなんてな」
「最近おぼえた」
エイルはしゃきーんと剣をかまえて言いました。
「それも、妹の影響ってヤツか?」
「そうだね。あの子はいつだって、私にいろんなことを教えてくれる。四年たっても、それは変わらなかったよ」
エイルは剣を肩でかつぎながら、誇らしげに、にっと笑いました。
ダルベールも、どこかうれしそうな笑みをこぼします。
「……そうか。ますます会ってみたくなったよ、その妹に」
「なんなら、いまから行く? 早くすんだから、まだ余裕あるでしょ」
ダルベールは、ふっと目をふせると、真剣な顔つきで言いました。
「……いや。まだ余裕があるからこそ、もう一件依頼をこなしておきたい」
「えー? これでおしまいじゃないの?」
「……ちょっと、個人的にカネが入り用でな。それに、このまま、なんの活躍もナシに終わっちゃ、俺の立つ瀬がない」
「ダルベールが活躍するとこ、そもそも見たことないけど」
「うるせえ! だからこそ、次で見せてやるってんだよ。そういうわけで、まだまだつきあってもらうぜ」
「いいよ。ここまで来たら、最後まで行ったげる」
エイルとダルベールはにししと笑い合いながら、待っていたシロの背に乗りこみ、次の目的地へと向かいました。
☆ ☆ ☆
いっぽう、王都の自宅にいるエミルたちは。
リビングで、寝室で、それぞれのんびりとすごしていました。
そんなとき。
チリンチリーン。
玄関の呼び鈴が鳴ります。お客さんが来たサインです。
「はいはーい」
エミルはぱたぱたと玄関に向かい、ドアを開けます。そのうしろには、メイドのクリスティーヌもひかえています。
「こんにちは。ここ、エイル・スターリングの家でまちがいありませんよね?」
やってきたのは、くせっ毛ぎみのうすい金髪をツインテールにした少女でした。年ごろはエイルと同じくらい。へそ出しのノースリーブにショートパンツ、腕にはアームガード、手にはグローブと、ずいぶん身軽そうな服装です。
「はい、そうですけど……」
「あ、もしかして、君がウワサの妹ちゃん? ホントに顔、そっくりなんだねー」
少女は身をかがめてエミルに目線を合わせると、あかるい緑色の瞳で、まじまじと顔をのぞきこんできました。
「お姉ちゃんを、ごぞんじなんですか?」
「うん。あたしはミリアム。エイルとはまあ……友だち……みたいなもんかな」
ミリアムと名乗った少女は、きまり悪そうに頭をかきました。ほんの少し、照れているように見えます。
「そうだったんですね。わたしはエミル。お姉ちゃんが、お世話になってます」
エミルはぺこりと頭を下げました。
すると、ミリアムは意外そうに、きょとんとします。
「……君、ホントにエイルの妹??」
どうやら、自由奔放でお行儀などおかまいなしのエイルとは、正反対のエミルに、面食らっているようです。
「あはは……よく言われます」
故郷の村で暮らしていたころから、同じ反応をされるのには、すっかり慣れっこです。
「……こほん。それはまあ、いいとして……いま、エイルいる?」
「いえ、少し前に出かけたっきりですけど」
「ありゃ、入れちがいになっちゃったか。どこ行ったかは、聞いてない?」
「お姉ちゃんが、そんなこと言ったためしがありませんから」
「そうだった。あいつ、そういうヤツだった」
ミリアムも、エイルにはさんざん振り回されてきたようです。
「まいったなあ。シロの足を借りようと思ってたのに」
「シロのですか?」
「いやね、今日じゅうにちょっと狩りたいエモノがいるんだけど、そいつのすみかまで行くのがなかなかホネでね……いま金欠で、騎獣をレンタルするおカネもないし」
「それで、お姉ちゃんならタダで引き受けてくれそうだと思って、たよりに来たんですね」
エミルはほんのちょっぴり、苦笑いを浮かべました。こういうちゃっかりしたところは、たしかに、エイルの友人らしいのかもしれません。
「話が早いなあ、妹ちゃん。ホント、エイルとは大ちがいだよ。あいつなら、何分も説明しなきゃわかんないのに」
「さすがに、それは大げさじゃ……そうだ、それなら、わたしが代わりに同行しましょうか?」
「え? 妹ちゃん、騎獣持ってるの?」
「シロほどじゃありませんけど、たよれるオオカミのパートナーはいます」
「そっか、うーん……」
ミリアムは口もとに手を当てて、すこし考えこみます。
「……わかった。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。お礼は、報酬額の三割でいい?」
エミルは提示された報酬に、ちょっぴり心がゆれますが、きっぱりと言いました。
「おカネはいいです。いま、こまってるんですよね? そのかわり、わたしの知らない、お姉ちゃんのお話を聞かせてください」
「ホント、しっかりしてるなあ、妹ちゃん。オーケー、交渉成立だ。短いあいだだけど、よろしくたのむよ」
「こちらこそ!」
エミルはミリアムと、がっちり握手をかわし……
王都に来てからはじめて、エイルのいない冒険に出かけるのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
しばらくは毎日12時、21時の一日二回更新となります。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、 ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




