第15話 ノワール・モンブラン
ズットータム山でのさわぎのあと、姉妹たちはシロの背に乗って、王都への帰り道をたどっていました。
けれど、その道のりはなんとも重たく、背の上のみんなの気持ちも、どんよりとくもっています。
「……ごめんね、わたしがピクニックに行きたいって言ったばっかりに……」
発案者のエミルは、とくにしゅんとしていました。
両肩では、シュガーとシロンが、エミルをなぐさめようとぴったりすりよっています。
「なに言ってんの。エミルはなにも悪くないじゃん。あそこであんなことが起きるなんて、だれも思わなかったわけだしさ。それにむしろ、私たちが行かなかったら、あの山のワンダーたち、みんなつかまってたよ。だから、私はよかったと思うな」
先頭にすわるエイルが、妹をはげましました。
「そう……だよね。わたしたちがいたから、あの子たち、助かったんだよね……」
『そうだよ! おみやげに、くり、いーっぱいもらっちゃったし!』
シロンも、声をはずませました。その大量の栗は、クリスティーヌのパートナー、【カバンクル】のパックの額の宝石の中に、ちゃんとしまわれています。
『わ、わたしもそう思いますっ! 結局、ピクニックじゃなくて冒険になっちゃったけど……実りあるおでかけだったって思いますっ!』
シュガーも、顔を赤くしながら、むきになったように言いました。
「……ありがとう、お姉ちゃん、ふたりとも」
エミルは笑顔をとりもどし、両肩のパートナーたちにすりっとほおずりしました。
「……」
そんな中で、いちばんうしろにすわるクリスティーヌだけは、浮かない顔のままでした。
『クリちゃんもー、げんきだしてっ!』
そこへシロンが、ぱたぱたと飛んできて、ぺちぺちとクリスティーヌのほっぺをたたきます。
「わ、私は元気ですよっ!」
クリスティーヌはびくっとして、思わず声をうわずらせました。
『ほんとに~?』
シロンは、うたがわしげにじーっと見つめます。
「ほんと、ほんとです」
クリスティーヌが両手をぶんぶん振って言うので、深く考えないシロンは、それ以上たずねませんでした。
「クリスティーヌさんも、ごめんなさい。せっかくお弁当まで作ってもらったのに、こんなことになっちゃって……」
エミルはふり向いて、ぺこりと頭を下げました。
気心の知れたエイルたちはともかく、クリスティーヌは家族の一員に加わったばかりです。だからこそ、ふだん以上に気をつかわなくては、と思ったのでしょう。
「いえ……私もエイル様と同じ気持ちです。山のワンダーたちを助けられたんですから、なにも悪いことなんてありませんよ」
「そう……ならいいけど……」
エミルも、クリスティーヌの表情に小さな違和感をおぼえましたが、そっとしておくことにしました。やっぱり、まだ深くふみこめるほど、なかよくなれていない気がしたからでしょう。
そして一行は、すこしずつ気分がほぐれていきながら、王都へと帰りつきました。
☆ ☆ ☆
家へ帰るまえに、エミルの提案で、"大樹の図書館"に立ちよりました。
ズットータム山でのできごとを、マスターウィザードのロウランに報告するためです。いちばん身近で、いちばんたよれる大人は、彼女しかいませんから。
本来なら、ばったり出くわさないかぎり、かんたんには会えない身分の相手なのですが、こちらには同じマスターウィザードのエイルがいるので、すんなり館長室へ通してもらえました。
館長室のまんなかには、テーブルをはさんで、ソファーが向かい合わせに置かれています。姉妹とロウランはそこに腰をおろして、向かい合いました。クリスティーヌは、姉妹のソファーのうしろにたたずんでいます。
「……なるほど、そりゃおだやかな話じゃないねえ……」
ふだんはへらへらしているロウランも、今回ばかりは真剣な表情で、じっと話を聞いていました。
ハンターの存在はともかく、人が爆発するなんて、ただごとではないからです。
「そいつら、どんな見た目だったかおぼえてるかい?」
「あ、それなら、何枚か写真を撮ってます」
エミルは、テーブルの上に数枚の写真をならべました。
以前、旅の途中で出会ったカメラマンからもらったカメラで、念のため撮影しておいたものです。
写真を見て、まっさきに反応したのは、ロウランの背後に立っていた副館長のデックスでした。
「栗色のスーツに、サングラス……こいつら、まさか!」
「……どうやら、キミの言ってたことはホントだったようだね、デックス」
「ど、どういうことですか?」
エミルがたずねました。
ロウランは、持っていたティーカップをかちゃりとお皿に置いて、こたえます。
「コイツらは"ノワール・モンブラン"という、ワンダー狙いの犯罪組織だ」
「ノワール・モンブラン……」
『はんざいそしきぃ!?』
エミルとシロン、それからシュガーは、おくちをあんぐり。
クリスティーヌは、姉妹のうしろで、指先をぎゅっとにぎりました。
「なるほど、これで話が見えてきた。コイツらが爆発したのは、自分たちの正体を知られたくなかったから……なのかもしれないな。でも残念ながら、こうして写真を撮られてしまった以上、ムダになったわけだ。お手柄だぞ、妹ちゃん」
「は、はあ、どうも……」
ほめられたのはうれしいけれど、話がうまくのみこめず、とまどいのほうが大きいエミルなのでした。
「で、そのノワーなんちゃらってのは、なんなの?」
エイルがむすっとしてたずねました。さっきからロウランが、こちらにわからないような話しかたばかりするので、いらだっているのでしょう。
デックスがこたえました。
「ノワール・モンブランという組織は、数年前までこの国を荒らしまわっていた、めちゃくちゃ悪くて、やっかいな連中ッス。盗みから殺しまで、この世の犯罪行為すべてをコンプリートしたとかなんとか」
「ああ……そういえば小さいころ、よく新聞で名前を見たような……」
エミルは思い出しながらつぶやきました。
ものおぼえのいいエミルでも、ぼんやりとしか浮かんでこないようです。王国のはしっこの田舎暮らしだったために、どこか他人ごとのように受け取っていたせいかもしれませんが。
ロウランはソファーに深くすわり、腕を組んで続けます。
「そう。それはあくまで数年前の話だ。ここ最近は、ぱったりと活動のウワサを聞かなくなった」
「それが、こうしてふたたび現れた……」
全員、テーブルの上の写真を見つめました。
ずしりと重い空気が、館長室にひろがっていきます。
「……ひとまず、この件は私があずかろう。わざわざ報告、ありがとうね」
ロウランは写真をふところにしまって、姉妹にお礼を言いました。
「いえ……わたしたちのほうこそ、急に押しかけちゃって、すみません」
エミルは苦笑いを浮かべながら、ぺこりとあやまります。
「あいかわらず、キミはおかたいねえ。気にするな。こういうのはオトナの義務ってヤツだからさ。なにかわかったら、連絡するよ」
『こんどは、ふほーしんにゅーはやめてよね!』
シロンはぷんすかと口をとがらせました。前の冒険のとき、何度もカギを開けて無断で自分たちの家に入ってきたことを、まだ根に持っているようです。
「善処しよう。それじゃ、またね」
一行はロウランにあいさつをすると、館長室を出ていきました。
「やーれやれ、またいそがしくなりそうだなあ」
ロウランはソファーの上で、ぐいーっと伸びをしました。
「ねえ館長、ツッコむヒマがなかったんスけど、あの子たちといっしょにいたメイドさんはいったい……?」
デックスは、クリスティーヌのことをたずねます。
「おや? もしかして、好みの子だったかな? かわいいし、スタイルもいいもんねえ」
「ザンネンながら、オレはもうちょい年上のほうが好みッス……そうじゃなくて、その……どっかで見たことあるなーって思って……」
「ふーん」
「なんスか、そのそっけない返事は!?」
「……どうせ、いつもの気のせいだろう。それより、犯罪組織が相手なら、キミにはバリバリ働いてもらうからね、デックス」
「それって、いつもと変わらないじゃないッスか……」
「なにか言ったかな?」
「いえ、なんにも」
ロウランはソファーから立ち上がり、窓へと歩いて、外の景色をながめました。頭の上の青い鳥が、こてんと首をかしげます。
その小さな背中に、言いようのない胸さわぎをただよわせながら……
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