6 引き離された2人
シリウスの言葉通り、空気が変わった。
神殿に張りつめていた魔力が、一段階、いや二段階も濃くなる。
床の魔法陣が強く輝き、空間そのものが重く沈み込むような感覚。
「来る……!」
ゼフが叫んだ瞬間、四方から同時に術が放たれた。
シリウスの氷の刃。
アルドラの黒い拘束の術式。
二人は背中合わせになって必死に防ぐ。
ステラは結界を展開し、
ゼフは風で軌道を逸らす。
しかし、連戦の疲労は確実に蓄積していた。
ステラの結界に、細かいひびが入る。
ゼフの風も、さっきまでより明らかに威力が落ちている。
「くっ……!」
シリウスは、その一瞬の揺らぎを見逃さなかった。
「……今だ」
次の瞬間、神殿の高所から放たれた高威力の魔術が、真っ直ぐステラを狙って落ちてくる。
(避け——)
そう思った時、足が一瞬、もつれた。
疲労で集中がほんのわずか途切れた、その刹那。
「ステラ!!」
ゼフが叫ぶ。
次の瞬間、ゼフの体がステラの前に滑り込んだ。
轟音。
光と衝撃が爆発する。
「——っ!!」
魔術は、ゼフの肩から脇腹にかけて直撃した。
床に叩きつけられ、血が滲む。
「ゼフ……!!」
ステラが駆け寄ろうとした、その時。
アルドラの低い声が響く。
「動くな」
足元から黒い術式が広がり、
ステラとゼフの体に絡みつく。
拘束魔法。
アルドラが使うものは、魔力の流れそのものを縛る、強力な術。
「くそ……っ、体が……!」
ゼフは歯を食いしばるが、立ち上がれない。
傷と拘束で、力が入らない。
シリウスが、二人の前に歩み寄る。
その表情は冷静で、どこか哀しげでもあった。
「君たちは、ここまでだ」
アルドラも続く。
「安心しろ。殺しはしない。
君——ゼフィロスには、まだやってもらいたいことがある」
「……何を……する気だ……」
ゼフが睨みつける。
アルドラは答えず、指を鳴らした。
転移魔法の陣が、ゼフの足元に展開される。
「やめて!!」
ステラが叫ぶ。
拘束を無理やり引きちぎろうとして、魔力が暴走しかける。
「ゼフを……離して!!」
シリウスは一瞬、目を伏せた。
「……すまない」
光が、ゼフの体を包む。
「ステラ!!」
ゼフの声が、転移の光にかき消される。
次の瞬間——
ゼフの姿は、神殿から消えていた。
拘束も解け、静寂だけが残る。
ステラはその場に崩れ落ちた。
「……うそ……」
手を伸ばしても、もう誰もいない。
たった一瞬の隙で、守りたかった人が、連れ去られてしまった。
アルドラの声が、遠くから聞こえる。
「これが、絶望の始まりだ」
シリウスは何も言わず、ただ背を向けた。
ステラは床に膝をついたまま、震える指で胸元を押さえる。
(私のせい……私が……)
神殿の外では、まだ精霊たちの咆哮が響いている。
でも、ステラの世界はその瞬間、完全に音を失っていた。




