5 神殿での戦い
神殿の中は、異様な静けさに包まれていた。
外では精霊たちが暴走し、街が混乱している。
しかし、ここだけ時間が切り取られたように空気が張りつめている。
巨大な魔法陣の中央に、アルドラとシリウスが並んで立っていた。
「……止めに来たよ」
ステラが一歩前に出る。
声は震えていない。けれど、胸の奥では不安が渦巻いていた。
「精霊を縛る術を、今すぐ解除して」
シリウスは静かに首を振る。
「術式を発動した。
もう後戻りはできない」
その隣で、アルドラが淡々と告げる。
「君たちが来ることも、想定内だ。
だからこそ、この場所で待っていた」
次の瞬間——
神殿の床に、無数の光の陣が浮かび上がった。
「来るぞ!」
ゼフの声と同時に、空間そのものが歪む。
雷のような魔力がシリウスの手から放たれ、黒い術式の鎖がアルドラの足元から広がる。
ステラとゼフは同時に跳び退き、攻撃をかわしながら反撃する。
ステラの光の魔術が神殿の柱をかすめ、ゼフの風の刃が床を走り、魔法陣を断ち切る。
でも——
(重い……!)
攻撃の一つ一つが、今まで戦ってきた相手とは比べものにならないほど重かった。
魔力の質も、密度も、まるで違う。
「二人がかりでも……押されてる……」
ステラは息を整えながら、歯を食いしばる。
シリウスはほとんど動じていなかった。
大きな術を連発しているはずなのに、呼吸ひとつ乱れていない。
「無駄だ」
シリウスの声が、戦場に静かに響く。
「君たちは強い。
だが、世界を動かすほどではない」
アルドラもまた、淡々と術式を展開する。
「いつもの動きではないな。
疲労が見える」
まるで、観察結果を読むみたいな口調。
ステラは唇を噛んだ。
(まだ……まだ、倒れない。
倒れるわけには、いかない……!)
ゼフが横に並ぶ。
「ステラ、無理するな。
だが、ここで引くわけにはいかないな」
二人の視線が、一瞬だけ重なる。
(ここで止めなきゃ、街も精霊も……)
ステラは剣を握り直し、魔力を集める。
ゼフもまた、風を呼び寄せる。
けれど、次の瞬間。
シリウスの放った一撃が、今までとは比べものにならないほど強く、神殿の空間そのものを切り裂くように迫ってきた。
「……っ!」
かろうじて防いだものの、衝撃で二人の足が大きく後ろへ滑る。
床に膝をつきかけたステラを、ゼフが支えた。
「ステラ……!」
「大丈夫……でも……」
体が、確実に重くなっている。
魔力も、集中力も、少しずつ削られていく。
その様子を見下ろしながら、アルドラが静かに言った。
「……いいデータだ。
追い詰められたとき、絆はどこまで力を生むのか」
そして、シリウスは告げる。
「次で終わらせる」
その言葉が、妙に静かで、確信に満ちていて——
ステラの胸に、言いようのない不安が走った。
この戦いは、まだ序盤にすぎない。
本当の絶望は、これから来る。
そんな予感だけが、神殿の冷たい空気の中で、はっきりと形を持ち始めていた。




