3 異変の兆し
街を歩きながら、ステラは無意識に空に流れている魔力を感じ取っていた。
(……おかしい)
国全体を巡る結界の魔力。
少し前より、ずっと濃くて重い。
まるで何かを押さえつけるために、力を無理やり流し込んでいるようだった。
「ルクス……」
小さく呼ぶと、ルクスもすでに気づいていたみたいで、険しい顔でうなずく。
「うん。
今回は……神殿の方から、嫌な流れがしてる。
それに、その流れが街の外にも広がっていってる」
「それ……もしかして、アルドラが言ってた世界を支配するための術式が広がってるってことか」
リオネルの言葉を聞いて、フィリアが不安そうに周りを見回す。
「精霊たちも、落ち着いてない……
さっきから、ずっとざわざわしてる」
ヴァルカが舌打ちする。
「準備ってやつか。
アルドラの野郎、何か仕掛ける気だな」
ステラは、空を見上げた。
空はまだ青い。
周りの人々も普通に歩いている。
でも、見えないところで何かが確実に狂い始めていた。
それを表すように、精霊たちはどこかおかしな動きをしている。
小さな精霊は何かに怯えるように建物の影に隠れている。
他の精霊たちは警戒するように何人かで行動している。
ステラが胸騒ぎを感じて、足を止めた瞬間——
街の中央から、かすかな悲鳴のような精霊の気配が走った。
ステラの胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「今の……!」
ゼフも顔を上げる。
「あいつらの実験が始まったのかもしれない」
(アルドラ……シリウス……)
二人の姿が、ステラの脳裏に重なる。
「みんな、行こう。
精霊たちが……助けを求めてる」
そう決めたステラに、リオネルが質問する。
「で、具体的にはどうする?」
「神殿に行く。アルドラとシリウスがいるかもしれない」
「でも、街の精霊たちは……」
フィリアが心配そうに精霊たちを見る。
フィリアの言葉に、ルクスもうなずく。
「放っておけばもっとひどくなるだろうし、なんとかしないと」
「なら、二手に分かれよう」
「ああ。ステラとゼフィロスは神殿に行け。街は俺たちがなんとかする」
ヴァルカがそう言った瞬間。
低く、重い魔力の波動が一度、空に広がった。
まるで、合図のように。
そして、遠くの空で、雲がゆっくりと渦を巻き始める。
嵐の始まりは、まだとても静かだった。




