82つの光
解放された精霊たちは、床に伏したまま小さく息を整えていた。
まだ力は完全に戻りきっていない。
それでも、さっきまでの暴走の気配は完全に消えている。
フィリアがそっと膝をついて、その額に手を伸ばす。
「無理しないで。もう大丈夫。命令も鎖も、全部なくなったよ」
精霊の1体はゆっくりと目を開け、仲間たちを見回したあと、ステラとゼフに視線を向けた。
「……あなたたち、似ている。
昔、世界を縛る術に抗った、2つの光と……」
「2つの光って、何のことなの?」
「……ごめんなさい。はっきりとは思い出せない。
でも……あなたたちを見ていると、あの時と同じような感じがする」
精霊は苦しそうに目を閉じる。
「昔にも、あなたたちのように、精霊と共に戦った者たちがいた……気がする」
「そう、なんだ」
「世界を……縛る術のことは……はっきりとは思い出せない。
でも、今……結界の奥で……大きな流れが動いている……」
ルクスが顔を上げる。
「流れって、魔力の?」
「うん。
精霊たちの意思を、一つの命令に従わせるためのとても広い術式……」
ゼフの表情が強張る。
「とても広いって、どれくらいだ?
まさか、世界全体に干渉する規模……?」
精霊はかすかにうなずいた。
「そう。
この国の王様と、「泡沫の魔術師」様が展開したんだ」
その言葉に、ステラの視界が一瞬、白く揺れた。
——玉座の間。
——光と影。
——黒衣の男と、王冠を戴く誰かが、同じ方向を見つめて立っている。
一瞬の、はっきりしない記憶の断片。
「……っ」
ステラはこめかみを押さえた。
「今、何か……思い出しかけた……」
ゼフがすぐに支えるように肩に手を置く。
「無理するな。まだ、完全には戻らない」
「というか、「泡沫の魔術師」って誰なんだ?」
リオネルの疑問に、ゼフが答える。
「たぶん、アルドラのことだ。
この国の魔術師としていろいろしてるんだろ」
疑問に答えたゼフにうなずきつつ、精霊はステラをまっすぐ見つめる。
「あなたたちの絆は、支配とは、真逆の力。
共に在ることで、術式の命令を無効化させられる」
ヴァルカが低く息を吐いた。
「つまり……あの王とアルドラは、
精霊も人も、全部従わせる側に回ろうとしてるってわけか」
リオネルが槍を握り直す。
「だから、俺たちみたいなのが邪魔なんだな。
自由意志で戦うやつも、対等な契約も」
精霊は最後に、弱々しくもはっきりと告げた。
「気をつけて。
王はまだ……本当の姿を見せていない。
あなたたちを必要としているけど、それは救うためじゃない」
ステラは胸に手を当て、小さく呟いた。
「世界を縛る計画……。止めないと」
その言葉に、ゼフが静かに答える。
「今度こそ、完全に止めるぞ」
仲間たちも、精霊たちも、同じ方向を見る。
——ここから先は、もうただの旅じゃない。
世界そのものの在り方を巡る戦いが、静かに始まっていた。




