6 譲れないもの
鎖は、今にも砕けそうに震えていた。
黒い魔力が悲鳴のような音を立て、精霊たちの光がそこから溢れ出しかけている。
「今……!」
ステラが一歩踏み出し、解放の魔法を完成させようとした、その瞬間だった。
空気が、凍りついた。
地下空間を満たしていた風も、光も、ぴたりと止まる。
まるで時間そのものが一拍、止まったように。
そして——
「そこまでだ」
静かで、よく通る声。
振り向くと、魔法陣の奥に、いつの間にか一人の男が立っていた。
銀色の髪、深い青の瞳。
王の威厳と、冷たい知性を併せ持つ存在。
シリウス。
その存在感だけで、空間の流れが乱される。
共鳴していたステラとゼフの魔力が、わずかに揺らいだ。
「……っ」
集中が、切れる。
その一瞬の隙を突くように、黒い鎖が再び精霊たちを強く締め上げた。
光が弾かれ、解放は未完成に終わる。
「……自由にしてあげれなかった」
ステラが悔しそうに息を呑む。
シリウスは、鎖に囚われた精霊たちを一瞥し、それからステラとゼフへと視線を移した。
「やはり……君たちは特別だ」
その声には、敵意よりも、観察する者の冷静さがあった。
「絆によって力を共鳴させる契約。
精霊を支配するのでも、従属させるのでもない。
対等な存在として力を引き出す——理想的だ」
ゼフの風が、警戒するようにステラの前に広がる。
「……それで、何の用だ」
シリウスは微かに微笑んだ。
「勧誘だよ」
そして、はっきりと言った。
「君たちの力があれば、世界はもっと秩序ある、平和な場所になる。
私と共に来ないか。
世界を導く側に立つんだ」
その言葉に、地下の空気が重く沈む。
ステラは、しばらく黙っていた。
精霊たちの苦しそうな姿。
黒い鎖。
管理という名の支配。
ゆっくりと顔を上げ、シリウスを真っ直ぐ見つめる。
「……ごめんなさい」
静かだけど、迷いのない声。
「私は、世界を管理したいんじゃない。
一緒に生きていきたいだけ」
シリウスの目が、わずかに細くなる。
「君たちが力を貸してくれれば、世界はよりよくなる。
それでも、協力はしてくれないということか?」
「それでも、断ります」
きっぱりと。
ゼフも一歩前に出て、ステラの隣に立つ。
「ステラが守りたい世界を、俺も守る。
お前のやり方には、ついていけない」
地下に、重い沈黙が落ちた。
その沈黙の中で、シリウスは小さく息を吐く。
「……そうか」
その声には、失望と同時に、どこか覚悟の色が滲んでいた。
「ならば……いずれ、君たちは障害になる」
そう告げると、彼はアルドラの方を一瞬だけ見やり——
何も言わず、闇の中へと姿を消した。
残されたのは、まだ解放されていない精霊たちと、確かに、敵だと知ってしまった王の影だった。




