3 王の知るもの
王城の奥、静かな謁見の間。
高い天井から差し込む光の中で、シリウスは玉座に腰掛けていた。
穏やかな微笑みを浮かべ、威圧感よりも理知的な王という印象を与える佇まい。
「先ほどの精霊の件、見事だった。君たちがいなければ、街はもっと大きな被害を受けていただろう」
淡々とした称賛。
でもステラは、その声の奥にある揺らぎのなさが、少しだけ引っかかった。
「……さっきの暴走、偶然じゃないですよね」
ステラは一歩前に出て、まっすぐシリウスを見る。
「黒い霧が出て、操られてた精霊が現れました。
あの魔力……アルドラと同じでした」
その名前が出た瞬間。
シリウスのまばたきが、ほんの一瞬だけ遅れた。
「……ほう」
興味深そうに、しかし驚いた様子はない。
「アルドラ、か。ずいぶんと具体的な名を挙げるのだな。
君たちは、その者と何度も相対しているようだ」
「知ってるんですか?」
ゼフの声は低く、風がざわりと揺れる。
シリウスは少し考える素振りを見せてから、穏やかに笑った。
「知っているというより……。
あのような力を持つ存在が世界に何人もいるわけではない、というだけだよ。
この王国にいる最高の魔術師と同程度の力を持っているからね」
でも、その言い方はまるで——
昔から知っている相手を遠回しに語っているみたいだった。
ステラは胸の奥に、あの既視感を覚える。
神殿で見た記憶の欠片。
アルドラの隣に、もう一人、誰かが立っていた光景。
「アルドラは……何をしようとしてるんですか?」
シリウスは少しだけ視線を逸らし、窓の外の海を見る。
「世界は、不安定だ。
人も、精霊も、力を持つ者が自由すぎる」
静かな声で、しかし確信をもって言う。
「だからこそ、管理が必要になる。
秩序がなければ、いずれ大きな破滅を招く」
その言葉に、フィリアが小さく身を強張らせ、ルクスの雷がぱちりと揺れた。
ステラは、ゆっくりと息を吸う。
「……アルドラも、同じことを言いそうです」
シリウスは微笑んだまま、否定もしなかった。
「彼は……極端だが、理論は理解できる男だ。
手段を選ばないだけでね」
まるで、長い付き合いの同僚を評するような口ぶり。
ゼフの視線が鋭くなる。
「まるで、ずっと一緒にいたみたいな言い方だな」
シリウスはその視線を正面から受け止め、静かに答える。
「世界の裏側で動く者たちは、否応なく顔を合わせる。
……それだけのことだよ」
ステラの胸の奥で、忘れているはずの何かが、強く脈打つ。
(……この人、知ってる。
アルドラのことも……たぶん、私たちのことも)
まだ敵だとは言い切れない。
でも、確実に無関係ではない。
謁見の間に、潮騒の音だけが静かに響いていた。




