↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の契約と絆を紡ぐ物語  作者: 蒼燈
穏やかな王と潜む支配
PR
83/113

番外編 裏・ゼフィロス観察日記

ある休日。


特にやりたいこともなかったゼフは、一人で宿から出た。

適当に街を歩こうと思ったからだ。


少しして、違和感に気づいた。

誰かに見られている。

敵意は感じないが、念のため風を操って確認をしてみる。


すると。

見知った気配を感じた。


気配は五人分。

ステラ、リオネル、ヴァルカ、ルクス、フィリア。


総出でこそこそ何をしているのか。

少し気になったが、目的がわかるまで放置しておくことにした。


困ることでもないし。

仲間にこっそり見られつつ、街を歩くゼフ。


少し歩くと、子どもたちが困っているのが見えた。

近づいていくと、子どもたちがゼフに気づいた。

困った顔でゼフを見上げる。


「ねえ、おにいさん! あのボール取って!」


木を見ると、枝に赤いボールが引っかかっていた。

子どもでは届かないような位置。


そのまま放っておくこともできず、風を操ってボールを自身の近くに引き寄せた。

そのボールをしゃがんで子どもたちに渡す。


「もう木に乗せるなよー」


「ありがとう! これ、お礼!」


ボールを受け取っていない方の子どもに花冠を乗せられた。

そんなことされるとは思わず、笑ったまま固まってしまう。


ど、どうすればいい?

壊したらいけないし、動かない方がいいのか?

いやでも⋯⋯。


内心大パニックのゼフ。

ステラたちに見られていることなんて、頭の隅に追いやられていた。


結局、そっと壊れないように花冠を持ち上げ、子どもの頭に乗せて返すことを思いつき、パニックから抜け出すことができた。

そして、花冠を持ち主に返す時。


見られていることを思い出したゼフは夜ご飯ににんじんとセロリをたくさん使うことに決めた。

どうせ、ついてくることを言い出したのはヴァルカかリオネルあたりだ。

リオネルはにんじんが、ヴァルカはセロリが苦手なので、やり返しができる。


いい仕返しの方法を思いついて、機嫌がよくなるゼフだった。


さらに街を歩いていると。

こそこそと、風に乗って話し声が聞こえてきた。

この声は、ヴァルカとステラのもの。


「ヴァルカ、何を書いてるの?」


「これは観察日記だ。こうして記録をしておけば、観察結果を忘れることもないだろ?」


「なるほど」


なんとも平和な会話だが、一つ、聞き逃すことのできない単語が混じっていた。


観察日記、という単語である。

それを聞いて、納得するゼフ。


今までずっと見られていたのは、観察のためか。


全く観察を行う目的がわからないが、観察に参加している全員が楽しそうなので、放っておいた。

楽しみを潰すわけにもいかないし。


さて。

歩いていると、広場に着いた。


端に目を向けると、積み上げられた荷物が倒れそうになっている。

急いで支えると、荷物の持ち主であろう男性にお礼を言われた。


一人で多くの荷物を店内に運ぶらしい。

大変そうだな、と思ったゼフは荷物運びを手伝うことにした。


荷物運びも無事に終わり、男性に再びお礼を言われる。


一緒に報酬を渡されそうだったので、断っておいた。

報酬が欲しくて手伝ったわけでもないし、依頼でもない。

それなのに、報酬は受け取れない。


そう断ると、「いい人だ」と褒められた。

男性の言葉とほぼ同じタイミングで。


「かっこいいな、あいつ」


というルクスの滅多に聞くことのできない褒め言葉が聞こえて、少し驚いた。


その後。

街の中心にあった広場から離れ、木陰にあるベンチに座った。


そよそよと吹く風が心地良い。

今日は休日なのに、体を動かすことが多くて少し疲れた。

ずっと見られているというのもなんとなく精神的に疲れる。


「⋯⋯少しだけ」


少しなら、誰にも迷惑をかけないだろう。

目を閉じ、眠りにつく。


少し後。

小鳥が肩に止まり、それにリオネルとヴァルカが叫びそうになった。

それをフィリアとルクスが必死に止める。

そんなことが起きていたなんて知らないゼフは小鳥が飛び立つ気配で目を覚ます。


⋯⋯まだいる。


少し離れた物陰に、ステラたちがいる。

自分が寝ている間に飽きてどこかに行くと思っていたのに。


もう、知らないふりはしなくてもいいか。


「もう出てきたらどうだ? バレてるぞ」


声をかけてみても、誰も出てこない。

⋯⋯一人を除いて。


「おはよう、ゼフ」


誰も動かない中、普通に物陰から出てくるステラ。

いつも通り軽い足取りでベンチに座っているゼフの前まで歩いてくる。

すでにステラもいることはわかっていたゼフは特に驚かない。


「ステラ。俺の観察は楽しかったか?」


「うん」


その言葉の通り、ステラの口角はいつもよりも上がっていた。


何がそんなに楽しかったのか。

ゼフにはよく理解できないが、楽しかったのならいいだろう。

そんなステラを見てため息を吐き、軽く伸びをした。


「⋯⋯帰るぞ」


すっと立ち上がり、全員を置いて宿のある方向へ歩いていくゼフ。

ステラは小走りをしてゼフに追いつき、隣を歩く。


残りの面々は慌てて二人についていく。

後ろからこそこそ話しているのが聞こえた。


「いつから気づいてたんだろうな」


「ゼフィロスのことだし、最初からだろ」


「気配とか、すぐに察知するものね」


小声で話している三人の横ではヴァルカが頷いていた。

ゼフの方が前を歩いていて、顔を見ることはできない。

予想するに、満足そうな顔でもしているのだろう。


そして、ゼフの隣を歩いているステラも楽しそうな顔をしている。

そんなに満足するようなことがあったか、と不思議に思うゼフ。

だが、楽しいならいいかと追求するのは止めておいた。


「というか、一日中俺を見てたんだろ。暇だったのか?」


「それもあるけど、面白そうだったから」


「そうか」


短い返事の後。


風が吹き、黄色の小鳥が二人の上を通過していく。

それを見るゼフの口元は、わずかに緩んでいた。

人助けをしたり、よくわからないことにいつの間にか巻き込まれることもあったけど。


悪い一日ではなかったな。


そう思うゼフだった。


その夜。

昼間に考えた通り、夜ご飯にはセロリを多めに入れておいた。

ゼフからの、ささやかなやり返しである。


ステラに詳しく話を聞いてみると、観察の発案者はヴァルカらしい。

それなら、リオネルへのやり返しは必要がないと判断し、にんじんを入れるのは止めておいた。

ご飯を残すことはフィリアが許さない。

セロリが大量に入ったゼフ特製の夜ご飯を、ヴァルカは死にそうな顔で完食した。

そんなヴァルカを周りはかわいそうと思いながら応援していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。