4 国王との食事会
王城の広間には、海の幸を使った料理がずらりと並べられていた。
白い皿に盛られた魚、果実の香りのする酒、光の魔法で淡く輝く噴水。
「すっげ……王様のごはんってこんな豪華なんだな」
リオネルが素直に目を輝かせると、ルクスが肩をすくめる。
「豪華すぎて落ち着かないな。それに、見張られてる気もする」
フィリアは周囲の精霊たちを見回して、小さく眉をひそめた。
「……みんな、静かすぎるわね。お祭りの時とは全然違う」
精霊たちは確かにそこにいるのに、どこか息を潜めているようだった。
笑ってはいる。でも、心からではない。
シリウスは穏やかな笑みを浮かべながらステラに話しかけていた。
「君と風の精霊の契約……対等というのが興味深い。
力を分け合うのではなく、支え合う。秩序ある世界を作る上で、理想的だ」
「……秩序、ですか?」
ステラは少しだけ首をかしげる。
「人も精霊も、守られていれば安心して生きられる。
そのためには、正しい導きと……管理が必要だ」
その言葉に、ゼフの胸の奥で風がざわついた。
管理。
導き。
どちらも間違ってはいない。
でも――精霊は、本当に管理される存在なのか?
ゼフは無意識に、広間の天井へと視線を向けた。
風の流れが、王城の中心に向かって収束している。
まるで、見えない手に引き寄せられるように。
そして、全員が食べ終わった頃。
シリウスは、おもむろに話し始めた。
「ステラ、ゼフィロス。君たちに依頼がある。
受けてくれないか」
依頼。
今まで、街の人たちから依頼されることはあったが、国王からされることは初めてだった。
そんな話が出てくると思わず、全員、驚きで固まってしまう。
一番最初に我に帰ったゼフがシリウスに返答をする。
「依頼の内容によりますが、できる範囲であれば」
この言葉に、シリウスはほっとしたような顔をした。
「最近、海に魔物が現れ、船を襲っている。
魔術師に対応してもらおうと思ったが、人手が足りない。
申し訳ないが、この魔物の退治をお願いしたい」
シリウスは立ち上がり、ステラたちに頭を下げる。
国王のこの行いに、慌てるステラたち。
一国の王に頭を下げられるなんて、居心地が悪い。
そして、この依頼を引き受けることにしたのだった。
夜。
皆が客室に戻った後も、ゼフは眠れずにいた。
そっと窓を開け、風の姿に戻る。
王城の外縁をなぞるように飛びながら、違和感の源を探った。
すると——地下の方から、黒く濁った魔力の渦を感じる。
「……この感覚……」
頭の奥に、鋭い痛みが走った。
黒い鎖。
苦しむ精霊たち。
そして、玉座の前に立つ誰か。
優しい声で、命令する影。
『逆らう必要はない。これは世界のためだ』
名前だけが、風に混じって浮かび上がる。
「……シリウス……?」
ゼフはその名を口にした瞬間、はっと我に返る。
今のは、記憶?
それとも、ただの錯覚?
王城の奥で、何かが確かに動いている。
それだけは、はっきりと分かった。




