3 微かな違和感
王城は、海に向かって大きく開かれた白亜の建物だった。
高い塔の窓には淡い青のステンドグラスがはめ込まれ、光を受けて床に波のような影を落としている。
潮の香りを含んだ風が廊下を通り抜け、静かな音楽のようにカーテンを揺らしていた。
長い、まっすぐな廊下を進んだ先。
多くの装飾で飾られた、扉にたどり着いた。
この先には、この国の王がいる。
謁見の間の扉が、ゆっくりと開かれていく。
その奥、玉座に座っていたのが、ネレイス王国の王、シリウスだった。
銀に近い金色の髪。
澄んだ青の瞳。
柔らかな微笑みを浮かべ、まるで人々を包み込む光のような存在感。
「遠路はるばるよく来てくれた、旅の者たちよ」
声は低く穏やかで、不思議と心を落ち着かせる響きがあった。
「風の精霊と対等の契約を結ぶ剣士、ステラ。
彼女と契約を結んでいる風の精霊、ゼフィロス。
そして、その仲間たち……君たちの旅の噂は、海風に乗ってこの国まで届いている」
ステラは一歩前に出て、静かに頭を下げる。
「お招きいただき、ありがとうございます。
私たちはただ、旅の途中で困っている人や精霊を助けているだけです」
「謙虚だな。だが、そのただがどれほど難しいことか……」
シリウスはそう言って微笑んだあと、ふとゼフへと視線を向ける。
「君が、風の精霊か。
人の姿を取っているとは……珍しい」
ゼフは一瞬だけ、胸の奥がざわつくのを感じた。
懐かしいような、思い出してはいけないものに触れたような感覚。
「……ええ。彼女と共に旅をしています」
「素晴らしい。
人と精霊が対等に歩む——それは、私が理想とする世界の姿でもある」
その言葉に、ステラは少しだけ安心したように息をつく。
この王は、精霊を道具としてではなく、共に生きる存在として見ている。
……少なくとも、そう見えた。
だがゼフだけは、心の奥で小さな違和感を覚えていた。
声は優しい。
眼差しも穏やか。
なのに——風が、わずかに逆流している。
まるで、見えない糸で魔力の流れを整えられているような感覚。
そして、自分のことを精霊だと見抜いたこと。
普通であれば、ゼフは人間だと思われる。
人の姿を撮っているからだ
なのにどうして、風の精霊とわかったのか……。
「君たちの契約について、もう少し話を聞かせてほしい」
シリウスは穏やかに言う。
「風と剣、そして絆で結ばれた力……この国にとっても、大きな希望になりうる」
希望。
その言葉の裏に、何が隠れているのか——
まだ誰も、気づいていなかった。




