8 朝の風にほどける
朝の光が、昨日の夜に張ったテントの中に柔らかく差し込んでいた。
静かな朝。
しかし、その静かさはすぐにかき消された。
2人の喧嘩によって。
「だからお前は考えなしに突っ込むんだって言ってるだろ!」
「うるさいな! 結果的に助かったんだからいいだろ!」
ルクスとヴァルカの声が、部屋の中に響く。
喧嘩の原因はたわいもないもの。
少し前に森の動物が木から降りられなくなっていた。
結果的に助けることができたものの、その時にとったヴァルカの行動がルクスによっては気に入らないものだったというだけ。
「もう、二人とも……朝から元気すぎるわ」
フィリアがため息まじりに二人の間に割って入る。
「喧嘩する元気があるなら、まずは落ち着きなさい。周りを見て」
その視線の先――
ステラはまだ少し眠そうな目をしたまま、自分の髪を三つ編みにしようとしていた。
……のだけど。
編み方があちこちでズレていて、途中からねじれて、もはや三つ編みなのかどうかも怪しい。
指の動きもどこかおぼつかない。
「……あれ? なんか、違う?」
自分でも違和感はあるらしく、首をかしげるステラ。
それを見ていたリオネルが、思わず吹き出した。
「おいステラ、それ……すげぇことになってるぞ」
「……え?」
鏡をのぞき込んで、ようやく気づく。
「……ほんとだ」
感情をあまり表に出さないステラだけど、ほんの少しだけ困ったように眉を寄せる。
その後ろから、ゼフがそっと近づいた。
「俺がやる」
「……うん」
素直に髪を差し出すステラ。
ゼフは慣れた手つきで、ぐちゃぐちゃになった三つ編みをほどき、指先に風をまとわせながら、丁寧に編み直していく。
さらり、さらりと金色の髪が揺れる。
「……前より、きれいに結べてる」
小さくそう言うと、ステラは少し安心したように目を伏せた。
その様子を見て、フィリアはふっと微笑む。
「ふふ。朝のステラは、いつもより少しだけ素直ね」
「ステラの弱点は寝起きだな」
ルクスがからかうように言うと、ヴァルカが鼻で笑う。
「戦場じゃ見せない顔だな」
ステラは何も言い返さず、ただ静かに編み上がった髪に触れた。
「……ありがとう、ゼフ」
その一言に、ゼフは少しだけ目を細める。
「どういたしまして」
朝の光の中で、
喧嘩も、笑い声も、ぎこちない三つ編みも、
全部が今の旅の仲間の風景だった。




