7 静かな夜
夜。
焚き火のぱちぱちという音だけが、森に静かに響いていた。
仲間たちはそれぞれ休み始めている。
リオネルはすでに眠りに落ち、ルクスはフィリアの膝を借りてうとうと。
ヴァルカは少し離れた場所で、炎の揺らぎを小さく保ちながら周囲を警戒している。
ステラは焚き火の前に座り、揺れる火をぼんやりと見つめていた。
「……まだ、胸がざわざわする?」
隣に座ったゼフが、静かに声をかける。
ステラは少しだけ考えてから、うなずいた。
「うん。でも……怖いっていうより……懐かしい、が近いかも」
ゼフはその横顔を見る。
感情をあまり表に出さないステラが、こうして素直に言葉にするのは珍しい。
「神殿で見たもの……全部は思い出せてないのに、
“これが私だった”って、どこかで分かるんだ」
ステラは自分の手のひらを見つめる。
「ゼフと一緒に、誰かと戦って、守って……
それが、すごく当たり前だった気がする」
ゼフは小さく息を吸った。
「……ああ」
風が、ふたりの間を静かに通り抜ける。
「俺も、同じだ。
思い出せないはずの記憶が、輪郭だけ残ってる」
ステラは少し迷ってから、ぽつりと聞いた。
「ねえ、ゼフ。
私が忘れてること……全部、知ってる?」
ゼフはすぐには答えなかった。
焚き火の火が、彼の翡翠色の瞳に揺れる。
「……全部じゃない」
正直な声だった。
「でも、ひとつだけ確かなのは……。
あの契約は、誰かを傷つけるためのものじゃなかったってことだ」
ステラはその言葉に、少しだけ安心したように目を細める。
「そっか……」
しばらく沈黙が流れる。
その静けさの中で、ゼフはふと空を見上げた。
――遠くで、何かが動いた気配。
風の流れが、ほんの一瞬だけ乱れる。
とても微細で、普通なら気づかないほど。
でも、風の精霊であるゼフには分かった。
「……来てるな」
「え? 近くまで、来てる?」
「いや。まだ、遠い」
ゼフはステラにだけ聞こえる声で言った。
「でも……。
俺たちが思い出し始めたこと、向こうも気づいてるだろうな」
ステラは焚き火を見つめたまま、静かに言う。
「……それでも、進むよ」
その声は小さいのに、はっきりしていた。
「私は、自分が何者だったのか、知りたい。
そして……何のために、その力を持ったのかも」
ゼフは、そっと笑う。
「なら、最後まで一緒だ。
今度こそ、忘れさせはしない」
夜空には、雲ひとつない星が広がっていた。
その光の下で、絆は静かに、しかし確かに、再び強く結ばれていく。




