1 いつかの夢
風の音がする。
やさしく、あたたかくて、どこか懐かしい風。
目を開くと、草原が広がっていた。
隣には、誰かが立っている。
ステラとその少年は手をつないでいた。
小さな自分の手より少し大きくて、でもとても優しい温度。
見上げても顔ははっきりしないのに、不思議と安心できる存在。
周りには、淡い光を放つ精霊たちがいた。
水のきらめき、風のささやき、炎のぬくもり、氷の澄んだ輝き。
みんな笑っていて、楽しそうで、争いの気配なんてどこにもない。
隣にいる少年は精霊たちの元へ行き、一緒に遊び始めた。
彼はステラを呼ぶ。
「ステラもこっちに来いよ!」
「――うん」
声を出し、一歩踏み出した瞬間。
景色が揺らぎ始めた。
空の色がくすみ、灰色が広がっていく。
光が影に飲み込まれ、黒い鎖のようなものが、地面から伸びてくる。
黒い鎖は精霊たちを縛り、苦しめていく。
精霊たちの笑顔が、遠ざかっていく。
少年が、何かを言おうとする。
でもその声は、風にかき消されて聞こえない。
――いやだ。
そう思った瞬間、
「……っ」
ステラは、はっと目を開けた。
「……夢……?」
小さく呟いて、天井を見つめる。
さっきの光景は、あまりにもはっきりしていた。
ただの夢にしては、
あまりにも――懐かしすぎた。
少し乱れていた呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。
気持ちが落ち着くと、朝になっていることに気が付いた。
窓から差し込む朝の光。
そして、隣のベッドから聞こえる静かな寝息。
ゼフだ。
今思えば、あの少年はゼフだったのかもしれない。
なんとなく、面影がある。
精霊と仲がいいところも。
ステラのことを気遣ってくれるところも。
胸の奥が、じんわりとあたたかい。
でも、理由は分からない。
あの夢を見たからかもしれない。
カーテンが風に揺れる。
その風に、どこかで感じたのと同じ匂いが混じっている気がして、
ステラは無意識に、胸元を押さえた。
「……昔の、出来事だったのかな」
そう小さく呟いて、ベッドから起き上がる。
今日も、旅は続く。
新しい仲間と一緒に。
まだ思い出せない過去へ、少しずつ近づきながら。




