11 届いた想い
静寂が戻る。
先ほどまで荒れ狂っていた空気が、嘘のように穏やかだった。
氷は溶け、
雷は静まり、
炎は静かに揺れている。
その中心に——三体の精霊が立っている。
「……終わった、のか?」
リオネルが息を吐く。
槍を肩に担ぎながら、辺りを見渡す。
「ああ」
ゼフが短く言う。
「暴走が収まった」
ステラも、静かに頷く。
「うん」
精霊たちを見つめる。
「みんな、ちゃんと戻ってきてる」
その言葉に。
フィリアが、そっと目を伏せる。
「……あなたの声が、届いた」
静かな声。
「凍りつきそうだった意識の中で……あたたかかった」
ステラは、少しだけ驚いて。
でも、すぐに笑う。
「よかった」
一方。
ルクスは腕を組みながら、視線を逸らす。
「……別に」
ぶっきらぼうに言う。
「大したことはされてない」
だが。
「ただ」
ほんの少しだけ、間を置いて。
「……あいつらのことを思い出しただけだ」
視線の先には、ヴァルカとフィリア。
ヴァルカは大きく笑う。
「ははっ! 素直じゃねぇな!」
「うるさい」
即座に返すルクス。
だが。
そのやり取りは、どこかいつも通りに見えた。
「……よかった」
ステラが、ぽつりと呟く。
「みんな、ちゃんと戻ってきて」
ヴァルカが肩を回しながら言う。
「いやぁ、危なかったぜ」
少しだけ真剣な顔になる。
「あのままだったら、マジで全部ぶっ壊してたかもしれねぇ」
リオネルが笑う。
「それはそれで面白そうだけどな!」
「面白くない」
即ツッコミ。
その空気が、少しだけ軽くなる。
⸻
そのとき。
ゼフの視界が、揺れた。
「……っ」
一瞬。
意識が遠のく。
——黒い鎖。
——同じ光景。
——違う場所。
「やめろ、アルドラ!」
自分の声。
もっと鋭く、もっと怒りを含んだ。
「精霊は道具じゃない!」
目の前には。
同じように縛られた精霊。
そして。
冷たい目の男。
「……理解できないな」
アルドラの声。
「力は使われるためにある」
「違う!」
風が荒れる。
「こいつらは……!」
言葉が、途切れる。
その先は——
思い出せない。
「……ゼフ?」
ステラの声で、現実に戻る。
「大丈夫?」
ゼフは一瞬だけ目を閉じて。
「ああ」
短く答える。
「……少し、思い出しただけだ」
その視線は、精霊たちへ向いている。
「やっぱりな」
低く呟く。
「これは、あいつの実験だ」
ルクスが眉をひそめる。
「実験?」
ゼフは頷く。
「契約を使わずに、精霊を支配するための」
空気が、少しだけ重くなる。
フィリアが小さく震える。
「……だから、あんな鎖が」
ヴァルカが拳を握る。
「気に入らねぇな」
ルクスも、静かに言う。
「同感だ」
そのとき。
——遠く。
わずかに、魔力が揺れた。
ゼフが視線を向ける。
「……まだ終わってない」
⸻
——その頃
「……なるほど」
暗い空間。
アルドラは、静かに目を細める。
宙に浮かぶ魔術式の中に、先ほどの光景が映っている。
「解放されたか」
驚きはない。
ただ、興味深そうに。
「外部からの干渉ではなく……」
「内的要因による崩壊」
指先で、映像をなぞる。
そして、ステラのところで止まった。
「……あの少女」
わずかに考える。
「対象との精神的共鳴による干渉……か」
そして。
ゼフのところへ。
「……やはり、関与しているな」
口元が、わずかに歪む。
「ならば——」
魔術式が変化する。
新たな陣が、展開される。
「もう少し、強度を上げる必要があるな」
冷たい声。
「さあ、次はどうする?」
誰に向けた言葉かは分からない。
だが。
確実に——何かが、動き出している。
⸻
精霊たちは、ステラたちに改めて向き直る。
「ありがとう。あなたのおかげで、自分を取り戻せた」
「感謝する」
「ありがとな!」
三人にお礼を言われ、ステラ、ゼフ、リオネルは顔を見合わせて笑いあった。
「わたしたちも一緒に、旅をしてもいいかしら?」
「ぼくたちを実験体にしたあいつにやり返してやりたいし」
「恩返しさせてくれ」
精霊たちの頼みに、ステラとゼフはうなずいた。
「うん。わたしはステラ、よろしくね」
「俺はゼフィロス。よろしくな」
「わたしはフィリア。あなたたちからもらった優しさを返していきましょう」
「ぼくはルクス。きみからもらった冷静さで敵を倒してあげる」
「俺はヴァルカ! お前からもらった熱さで困難を吹っ飛ばす!」
それぞれの自己紹介を聞いている間。
ゼフは、ふと疑問に思った。
「そういえば、お前の名前は?」
「ん? 言ってないか?」
リオネルは、首をかしげる。
それを見て、ステラも横に首を傾ける。
「確かに、聞いてないかも」
「そうか? んじゃ、改めて。
俺はリオネル。俺も一緒に行くぜ!」
こうして、ステラとゼフの旅に新たな仲間が増えた。
これからの旅が賑やかになっていきそうだ、とステラは少し楽しい気持ちになった。




