12 決意と残夢
静まり返った部屋。
規則正しい寝息。
ステラは、すでに眠っていた。
ベッドのそばに立つゼフ。
じっと、その寝顔を見つめている。
「……」
何も言わない。
でも、目は逸らさない。
(……昔のこと、思い出しかけてる)
昼間の戦い。
あの一瞬の違和感。
(時間の問題だな)
小さく、息を吐く。
「……いつか、話さないといけない」
ぽつりと、誰にも聞こえない声。
でも、そのいつかが――
怖い。
ゼフは目を伏せる。
(……まだだ)
拳を、わずかに握る。
(今のままじゃ――勝てない)
アルドラの姿が脳裏をよぎる。
圧倒的な力。
届かない距離。
(記憶を……取り戻さないと)
曖昧にしか残っていない過去。
断片だけの記憶。
それでも分かる。
(あいつは、あの時より強くなってる)
静かな焦りが、胸の奥で燻る。
「……くそ」
小さく吐き捨てる。
視線を、もう一度ステラへ。
(守るって、決めただろ)
その言葉は、自分自身へのものだった。
その時。
ステラは、夢を見ていた。
――森。
柔らかな光が差し込む。
風が、優しく揺れている。
「……ここ」
ステラが立っている。
でも、それは今の自分じゃない。
少しだけ、幼い。
ガサッ。
草むらが揺れる。
現れたのは、一匹の狼。
傷ついている。
警戒して、低く唸る。
「……大丈夫だよ」
少女のステラが、そっと近づく。
狼は、逃げない。
でも、完全には気を許していない。
「怖くないよ」
優しい声。
ゆっくりと手を伸ばす。
触れる瞬間。
一瞬だけ、光が揺れる。
狼の目が、わずかに変わる。
ただの獣じゃない。
何かを宿している。
「……ひとりなの?」
狼は、答えない。
でも――
その瞳が、わずかに揺れた。
「そっか」
小さなステラは、小さく笑う。
「じゃあ、今は、一人じゃないよ。
私が一緒にいるから」
その言葉に。
狼の警戒が、少しだけ解ける。
そっと、寄り添う。
その瞬間。
光が強く揺れる。
「……あれ?」
景色が、崩れ始める。
遠くで、誰かの声。
――ステラ
「……!」
目が覚める直前。
狼の姿が、はっきりと見える。
その瞳は――
どこか懐かしかった。
ステラが目を覚ましたとき。
夢の内容は、ほとんど思い出せない。
でも。
「……なんか、あった気がする」
胸の奥に、温かい感覚だけが残っている。




