11 揺れる心
塔の内部。
崩壊しかけた魔術式の前で、サウラとレーカが向き合う。
「急ごう、完全に壊れたら取り返しつかない」
「分かってる」
光が走る。
不安定だった魔力が、少しずつ形を取り戻していく。
その少し離れた場所で。
ステラとゼフは、壁にもたれるように座っていた。
「……終わった、かな」
「まだだ。でも、あいつらならやるだろ」
短いやり取り。
でも――
ステラの視線は、どこか遠くを見ていた。
やがて。
魔術式の光が安定する。
「……よし、これで大丈夫」
レーカが息を吐く。
「なんとか間に合った~」
ステラたちが塔の外に出た瞬間。
ざわめきが広がる。
「出てきたぞ!」
「無事だったのか!」
人々が一斉に集まってくる。
「すごい……本当に抑えたんだ」
「英雄だ……!」
歓声。
安堵。
感謝。
サウラが少し照れたように笑う。
レーカも肩の力を抜く。
ゼフは軽く息を吐く。
でも。
ステラだけが――
その輪の中で、少し浮いていた。
『面白い存在だったよ』
頭の中に、あの声が響く。
「……ステラ?」
ゼフが声をかける。
「……え? あ、うん」
いつも通りに振る舞おうとする。
でも、うまくできない。
ゼフは、何も言わない。
ただ少しだけ、表情を曇らせた。
夜。
部屋の中は静かだった。
「……ねえ、ゼフ」
ベッドに腰掛けたまま、ステラがぽつりと呟く。
「昔のこと、覚えてる?」
一瞬。
空気が止まる。
ゼフの動きが、わずかに止まった。
「……何の話だ」
「わたしのこと」
視線はまっすぐ。
逃げていない。
「今日、戦ってる時に……なんか、変だった。
アルドラのこと、初めて会ったはずなのに、知ってる気がして」
沈黙。
ゼフは、答えない。
「……ゼフ?」
少しだけ、困ったように笑って。
でもその奥に、不安がある。
やっと、ゼフが口を開く。
「……今は、知らなくていい」
「え……?」
「知るには、まだ早い」
静かな声。
でも、はっきりしている。
ステラの眉がわずかに寄る。
「……なんで?」
ゼフは、一瞬だけ視線を逸らして――
戻す。
「ステラのためだ」
その言葉は、嘘じゃない。
でも――
全部でもない。
ステラは、少しだけ黙る。
「……そっか」
小さく頷く。
完全には納得してない。
でも、無理には聞かない。
「ありがと、ゼフ」
ゼフは何も返さない。
ただ、少しだけ苦い顔をした。
(守るって、決めたんだ)
窓の外。
夜風が静かに吹いていた。




