8 守りたいもののために
揺れは、もう隠しきれないほどに強くなっていた。
空の橋がきしみ、建物の一部が崩れ落ちる。
悲鳴と混乱が、街中に広がっていく。
その中で――
サウラが震えながらも、前に出た。
「……やだ」
小さな声。
「こんなの、やだ……!」
レーカも風を乱しながら言う。
「リューミアは、ずっと平和だったのに……!」
二人の精霊は、同時にステラを見た。
「守りたい」
「この街、好きだから!」
その声には、はっきりとした意志が宿っていた。
ステラは、その言葉を静かに受け止める。
そして、わずかに頷いた。
「……一緒に行こう」
決意を固めたサウラとレーカ。
二人と一緒に塔まで走っていく。
途中、揺れによって足を取られながらも、塔の前までたどり着く。
その時。
「君たちはステラとゼフィロスか」
低く落ち着いた声が、背後からかかる。
振り返ると、二人の人物が立っていた。
一人は、長い外套を纏った男。
もう一人は、杖を持つ女性。
どちらもただ者ではない雰囲気を纏っている。
「この街の管理を任されている者だ」
「塔の監視と維持を担当する魔術師よ」
女性が一歩前に出る。
その視線はまっすぐ、ステラとゼフに向けられていた。
「あなたたちのことは知っているわ」
「……?」
ステラが小さく首を傾げる。
「魔法の祭典で起きた事件。そしてその後の騒動。
――どちらも、解決したのはあなたたちでしょう?」
ゼフが軽く肩をすくめる。
「噂が回るのは早いな」
「それだけのことをした、ということだ」
男が静かに言う。
そして、はっきりと告げた。
「頼む。この街を……リューミアを救ってほしい」
一瞬の静寂。
ステラは、迷わなかった。
「わかった」
その一言だけで、十分だった。
リューミアの管理者と魔術師は安心したように軽く笑った。
そして、塔について、説明を始めた。
「塔の内部は安全のために封じられている。
そして、侵入者が地下にたどり着けないよう、いくつもの仕掛けがある」
女性が説明する。
「本来は迷わせるだけのもの。
危険はないわ」
ゼフが小さく呟く。
「でも、今回は違う。そうだろ?」
「ええ」
女性は頷く。
「すでに異常な魔力を感知している。
おそらく……何者かが干渉している」
「罠も、変えられてる可能性があるってことか」
ゼフの言葉に、男が答える。
「その通りだ」
「だからこそ――君たちに任せたい」
ステラはうなずいて、塔に向かって歩き出した。
塔の入口。
重い扉が、ゆっくりと開く。
その奥には、静まり返った空間が広がっていた。
中へ踏み込んだ瞬間。
空気が変わる。
「……変」
レーカが小さく呟く。
「精霊の流れが、途切れてる……」
サウラも不安そうに揺れる。
通路を進む。
まっすぐ進んでいたはずなのに――
「……あれ」
気づけば、入口の近くに戻っている。
「これが、侵入者用の仕掛けか……」
ゼフが冷静に言う。
その瞬間。
――ヒュンッ!!
空間を裂くように、光が走る。
「っ!」
ゼフが即座に風で弾く。
光は壁に当たり、霧散した。
「……今のは」
ただの防御機構じゃない。
明確な攻撃。
再び。
――ギィンッ!!
今度は複数の光が、四方から飛んでくる。
ステラは素早く避け、ゼフが風で軌道を逸らす。
「……罠が変わってる」
ステラが静かに言う。
「ただ迷わせるだけじゃない」
ゼフも頷く。
「誰かが、意図的に仕掛けてる」
その時。
ほんの一瞬だけ。
空気の奥で、何かが観ている気配がした。
「これ……怖い……」
サウラが小さく震える。
だが次の瞬間。
「でも……!」
ふわりと、前に出た。
「守るんでしょ!リューミア!」
レーカも風を強める。
「だったら、やるしかない!」
ステラはその姿を見て、わずかに目を細める。
「……うん」
風が集まり、雲が形を変える。
精霊たちが、戦う意志を持つ。
そして――
見えない場所で。
フードの男は静かに呟く。
「……いいね」
わずかな笑み。
「どこまで届くか……試させてもらおう」
次の瞬間。
罠が、さらに牙を剥く。




