番外編 隣国の魔法使いと新緑の魔法
ステラたちが魔法都市イルミを離れて数日。
森の近くを歩いている時だった。
森から黒い煙が見えた。
「ゼフ、あれ⋯⋯!」
「火事か。消しに行くぞ」
二人は急いで火元へと向かう。
だんだん焦げ臭い匂いが強くなっていく。
火元に辿り着くと、炎を水の精霊が消火しようとしている最中だった。
しかし、火の勢いが激しいせいで効果は薄い。
「ステラ。近くに川がある。あの水を使おう」
「うん」
ステラが川の水を魔法で操り、水の塊を作って炎にかけていく。
ゼフは風で周りに火の粉が飛ばないようにしていた。
水の塊を何回か炎にかけていると、勢いが収まってきた。
水の精霊も水を炎にかけていく。
少しすると、火事は収まった。
辺りに焼けた匂いが充満している。
「ありがとう、人の子。あなたたちのおかげで、森が全部焼けずに済んだ」
「どういたしまして」
水の精霊が次々にお礼を伝えてくれる。
少し気恥ずかしくなってきた頃。
動物たちが森から顔を出した。
焼け跡に立つ動物たちを見て、胸が痛んだ。
「みんな、悲しそう」
「一部とはいえ、結構な範囲焼けたからな⋯⋯」
動物たちのために植物を元に戻してあげたいが、ステラもゼフもそんな魔法は使えない。
どうすれば動物たちが元気になるか。
考えていると。
「あれ、そんなところで何してるの?」
後ろから声をかけられた。
背の高い、金髪の若い男。
にこにこと穏やかな笑みを浮かべて歩いてきた。
ゼフがステラをかばうように一歩前に出て、警戒をする。
風がゼフを中心に渦を巻いた。
「誰だ?」
「あ、ごめん。急に話しかけられても、困るよね。
僕はアーヴェル。隣国の、ミレフィア王国から来たんだ」
「ミレフィア王国から?」
ミレフィア王国。
ステラたちがいる国、ヴァルディアの隣にある。
自然が豊かで、五人の二つ名を持つ、優れた魔法使いがいる国。
何か企んでそうな雰囲気もないため、ゼフが警戒を解く。
「悪い。さっき、強く言いすぎた。俺はゼフィロスだ」
「いいよ。僕が急に話しかけたのが悪いからね。そこの君は?」
「ステラです」
「ん、ゼフィロスとステラね。二人ともよろしく〜。
⋯⋯それで、何してたの?」
アーヴェルが首を傾げる。
ステラが火事の跡を見せつつ、答えた。
「ここ、火事があったせいで木とか植物が全部燃えちゃったから、動物たちが落ち込んでて。どうしたらいいかな、と」
「つまり、植物を再生させたいってこと?」
「はい」
「なるほどね。僕に任せて」
「できるのか?」
「うん。こういうの、得意なんだ」
自信たっぷりに言うと、手に持っていた荷物を置き、しゃがんで焦げた地面に手をつく。
目を閉じ、集中し始めると、彼を中心に魔法陣が浮かんだ。
セージグリーンの光が魔法陣から溢れ、地面へと吸い込まれていく。
やがて、光が収まると地面からいくつもの芽が出ていた。
その芽はすくすくと普通ではありえないスピードで成長し、木となって実をつける。
二人は驚きで声も出なかった。
「これでいいかな。君たちが住みやすいようになった?」
動物たちはアーヴェルの言葉を理解したのかくるくるとその場で周る。
喜んでいるように見えた。
「⋯⋯すごい」
「ああ」
「言ったでしょ? 僕の得意分野だって」
得意でも、ここまでとは思っていなかった。
二人の心の声が重なる。
そんな二人を見てくすっと笑うと、荷物を持ち上げた。
「さて。僕はもう行くよ。またね」
「あ、はい。えっと、ありがとうございました」
「動物たちも、嬉しそうだった。ありがとう」
「どういたしまして〜。あ、そうだ。
もしミレフィア王国に来たら、ノクティルの森においで。
僕はそこにいるから。歓迎するよ」
「はい。いつか行きます」
「楽しみにしてるね。じゃあ、また」
手を振って、アーヴェルは去っていった。
「優しい人だったな」
「うん。今度、ミレフィア王国に行ってみようか」
「そうだな」
アーヴェルの背中を見ながら、少し先の予定を立てる二人だった。




