10 二人の英雄
黒い渦の事件から、一週間。
街はすっかり元の姿を取り戻していた。
壊れていた石畳は修復され、屋台の列も戻り、空には再び色とりどりの魔法の光が舞っている。
中断されていた魔法の祭典は、今日から再開。
けれど雰囲気は、事件前よりもさらに熱を帯びていた。
理由はひとつ。
「――英雄が来たぞ!」
誰かの声が上がり、広場にざわめきが走る。
人々の視線の先にいたのは、並んで歩く二人の旅人。
くすんだ金色の髪を結んだ少女と、翡翠色の目をした青年。
「ステラさんだ……!」
「風を操るあの人も一緒だ!」
「精霊と契約してるって、本当なんだって!」
囁きはやがて歓声に変わり、道が自然と開いていく。
ステラはその中心で、少しだけ戸惑ったように立ち止まった。
表情はいつもと変わらない。
でも、視線の動きがわずかに落ち着かない。
「……なんで、みんな、こっち見てるの」
小声でゼフに聞く。
「そりゃあ……」
ゼフは苦笑しながら、人々の様子を見回す。
「街と精霊を一緒に救ったんだ。英雄扱いされない方が不思議だろ」
「……英雄」
その言葉を、ステラは少しだけ不思議そうに繰り返した。
中央ステージでは、市長と、精霊たちの代表が二人を迎えた。
人と精霊が並んで頭を下げる光景に、広場は大きなどよめきに包まれる。
「あなた方のおかげで、街も、祭典も守られました」
「精霊たちも、感謝しています」
光の精霊の声が、澄んだ響きで重なる。
その中心に立つステラとゼフ。
人の光と、精霊の輝きに囲まれて。
ステラは相変わらず多くを語らない。
でも、ゼフの隣に立つその姿は、どこか少しだけ柔らかく見えた。
風が、祝福するように二人の周りを一周する。
黒い渦に覆われかけた街は、今、再び光に満ちている。
そしてその中心には――
人と精霊、二人の英雄の姿があった。




